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じじばばニャンコと異世界奇譚  作者: こいたろ


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143/150

夜の離宮



 食事が終わる頃には。


 外は完全に夜になっていた。


 王都の灯が窓の向こうで揺れている。


 離宮の中は静かだった。


 だが。


 その静けさは、昔とは違う。


 どこか温かい。


 人の気配が戻った静けさだった。


「ふぃ〜……食ったぁ……」


 フィルニアが椅子へぐったりともたれかかる。


 タマが呆れ顔になる。


「食いすぎなんだよ」


「トシオの方が食ってたぞ」


「それは否定できねぇ」


 その横で。


 トシオは腕を組みながら満足そうに頷いていた。


「魚うまかった」


「肉も最高だったぞ!」


 なぜか二人とも妙に誇らしげだった。


 ミツコが苦笑する。


「いっぱい食べたねぇ」


 ベルドは静かに食器を下げ始めていた。


 その動きは慣れたものだった。


 すると。


『ベルド』


 ミーコが声を掛ける。


『手伝う』


「いえ」


『やる』


 即答だった。


 ベルドが少し困った顔になる。


 ユキも立ち上がる。


「私もやるよ」


「じゃあ俺も」


 タマも続く。


 ベルドが小さく目を見開いた。


「……皆様が、そのような事をされる必要は」


『家族でしょ?』


 ベルドが止まる。


 しばらくして。


 小さく頭を下げた。


「……ありがとうございます」


 そのまま。


 食堂は少し騒がしくなる。


「フィル、皿持て」


「なんで俺様まで!?」


「食った量考えろ」


「ぐっ……」


 ミツコが笑いながら布巾を持つ。


「はいはい、落とさないでねぇ」


 トシオは巨大な鍋を片手で持ち上げていた。


 ベルドが少し焦る。


「と、トシオ様、それは重――」


「平気」


 軽々と運ばれていく鍋。


 ベルドが静かに目を瞬かせる。


「……見事な腕力でございますね」


「ん?」


「いえ」


 食器を片付け終える頃には。


 食堂の空気は完全に和んでいた。


 そして。


 暖炉へ火が入る。


 ぱちり。


 薪が弾ける音。


 皆、自然と暖炉前へ集まっていた。


 長旅だった。


 王都へ入ってからも気が張っていた。


 ようやく一息つける。


 そんな空気だった。


 ミツコが暖炉の火を見つめながら呟く。


「綺麗だねぇ」


 赤い火が揺れる。


 その光が皆の顔を照らしていた。


 フィルニアは床へ座り込みながら伸びをする。


「なんか離宮って感じしねぇな」


「どっちかっていうと家だな」


 タマが答えた。


 ユキも頷く。


「うん……昔もこんな感じだった」


 ベルドが静かに暖炉を見る。


「ここは、王族の方々が“家族として過ごす場所”でしたので」


 ミーコは暖炉を見つめた。


 ぼんやりと。


 記憶が浮かぶ。


 暖炉前で丸くなる猫達。


 笑う誰か。


 優しい手。


 温かな匂い。


 その時。


「……ミーコ?」


 ユキが少し心配そうに見る。


 ミーコは小さく笑った。


『大丈夫』


『ちょっと思い出してた』


 タマも静かになる。


 きっと。


 三人とも同じだった。


 帰ってきた。


 でも。


 まだ全部は戻っていない。


 記憶も。


 過去も。


 失った時間も。


 その時だった。


 ベルドがゆっくり口を開く。


「……明日ですが」


 空気が少し変わる。


「本城側より正式な使者が来られます」


 フィルニアが顔を上げた。


「早ぇな」


「皆様の帰還は既に王都全域へ広がっております」


 ベルドの声は静かだった。


「王城側も動かぬ訳にはいかないでしょう」


 タマが腕を組む。


「まぁ来るよなぁ……」


 ユキの表情も少し曇る。


 王都へ戻った以上。


 避けられない。


 王族としての話。


 王国としての話。


 過去の話。


 そして――


 敵の話。


 暖炉の火が揺れる。


 その時。


 トシオが静かに口を開いた。


「なら」


 皆が見る。


「今日は休め」


 短い言葉だった。


「考えるのは明日でいい」


 静かだった。


 でも。


 不思議と安心する声だった。


 ミツコも優しく頷く。


「そうだねぇ」


「今日は帰ってきた日だもの」


 ミーコは小さく目を見開く。


 ――帰ってきた日。


 その言葉が胸へ落ちた。


 ユキがふっと笑う。


「……うん」


 タマも肩の力を抜いた。


「確かにな」


 フィルニアも大きく欠伸する。


「じゃあ今日は寝る!」


「お前ずっと自由だな」


「俺様だからな!」


 暖炉前に笑い声が広がる。


 その光景を見ながら。


 ベルドは静かに目を細めていた。


 失われたと思っていた時間。


 戻らないと思っていた日々。


 だが今。


 確かにここにある。


 暖炉の火が揺れる。


 夜は静かに更けていった。

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