封鎖されていた離宮
王城正門が、重々しい音を立てながら開いていく。
ゴ ォ ォ ォ……
巨大だった。
白銀の門。
精霊灯。
並ぶ近衛騎士。
中央へ伸びる長い石道。
王都で見てきた建築とは、また違う空気がある。
フィルニアが思わず呟く。
「……王城っていうか、一つの街だろこれ」
タマも苦笑した。
「まぁ迷うぞ普通に」
ユキは静かに周囲を見ていた。
「……変わってない」
ミーコは何も言わない。
ただ静かに景色を見つめていた。
その時。
レクターが前方を歩きながら口を開いた。
「本来であれば、王族用区画へ案内する予定でした」
フィルニアが聞き返す。
「本来?」
「現在、城内も派閥でかなり揉めています」
レクターは淡々と続ける。
「そのため、アクアリア様達には別区画へ入って頂きます」
ミーコが少し眉を寄せた。
『別区画?』
「……旧離宮です」
空気が少し変わる。
タマがレクターを見る。
「まだ残ってたのか」
「封鎖されていました」
レクターは静かに答える。
「王女消失後、長年使われていません」
ミーコの表情が少し揺れる。
旧離宮。
幼い頃。
三人が暮らしていた場所。
ユキも少し目を見開いていた。
「……あそこ?」
タマが小さく息を吐く。
「懐かしいな……」
その時。
フィルニアだけが話についていけてなかった。
「待て待て」
「お前ら元々そこ住んでたのか?」
『えぇ』
「幼少期は、あの離宮で過ごしてたの」
フィルニアが周囲を見回す。
「王女の幼少期離宮って、絶対ヤバいデカさしてんだろ」
「広かったな」
タマが頷く。
ユキも少し嬉しそうだった。
「お庭、すごかったよね」
「池もあった」
『タマが落ちた』
「落ちてねぇ」
『泣きながら助け呼んでた』
「だから落ちてねぇって!!」
フィルニアが吹き出す。
「普通に落ちてんじゃねぇか!」
少しだけ空気が柔らかくなる。
レクターも口元を緩めていた。
そのまま一行は王城内部を進んでいく。
中央本城ではなく、西側区画。
人通りも減り。
静けさが増していく。
やがて。
巨大な白壁建築が見えてきた。
離宮だった。
だが。
かなり広い。
中央庭園。
水路。
回廊。
複数棟。
小規模な屋敷どころではない。
フィルニアが固まる。
「なんじゃこりゃ!?」
「王女用って規模じゃねぇぞこれ!」
タマが笑う。
「昔はもっと人いたんだけどな」
今は静かだった。
使用人もほぼ居ない。
草木も少し伸びている。
長く放置されていた空気がある。
その時。
レクターが門前で立ち止まった。
「こちらになります」
近衛騎士達が門を開く。
ギィ……
ゆっくり開かれる離宮門。
ミーコは静かにその景色を見る。
懐かしい離宮。
幼い頃の記憶が少しずつ蘇ってくる。
その時だった。
ミツコがぽつりと呟く。
「綺麗なお庭だねぇ」
その声で。
少しだけ胸の奥の緊張が和らぐ。
ユキが嬉しそうにミツコを見る。
「春になるとね、お花いっぱい咲くんだよ!」
「白いのとか、青いのとか、いっぱい!」
ミツコが柔らかく笑った。
「見てみたいねぇ」
「うん!」
そのやり取りを見ていたミーコの表情も少し柔らかくなる。
その時だった。
「ぐぅぅぅ……」
また豪快な腹の音が響いた。
全員の視線がトシオへ向く。
トシオはつぶやいた。
「……腹減った」
「じーちゃんさっきからそればっかだな!?」
タマが笑う。
だが。
その空気が不思議と張り詰めすぎるのを防いでいた。
レクターが小さく咳払いする。
「……食事の準備は既に進めさせています」
トシオが即反応した。
「魚あるか」
「あります」
フィルニアも即座に乗っかる。
「肉は!?」
「用意されています」
「よし!!」
その時。
一人の老執事が離宮入口から現れた。
深い礼。
「……お帰りなさいませ」
空気が静まる。
ミーコが目を見開いた。
『……ベルド?』
老執事は静かに頭を下げたままだった。
「長らく、お待ちしておりました」
震える声だった。
タマも驚いている。
「ベルドさん……まだ離宮守ってくれてたのか」
ユキの目も揺れていた。
「……ベルドさん」
ベルド。
幼い頃から離宮に仕えていた執事。
王女消失後も、離宮を守り続けていた男。
ベルドは顔を上げる。
その目には涙が滲んでいた。
「また……皆様をお迎え出来る日が来るとは……」
三人は顔を見合わせる。
そして。
『……ただいま』
「ただいま!」
「……ただいまです」
ベルドは深く頭を下げた。
「お帰りなさいませ」
その声は。
長い時間、止まり続けていた離宮へ。
ようやく灯が戻った瞬間だった。




