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じじばばニャンコと異世界奇譚  作者: こいたろ


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王城前広場



 王都騎士団の車両は、中央水路沿いをゆっくり進んでいた。


 王都レイシア。


 巨大都市の中心部へ近付くほど、建物はさらに密集していく。


 高層建築。


 空中歩道。


 複雑に交差する水路橋。


 巨大商業塔。


 そして、絶え間なく行き交う人々。


 フィルニアが窓の外を見ながら呟く。


「ほんと規模おかしいなここ……」


 タマは懐かしそうに街並みを眺めていた。


「昔からこんなんだったけどな」


 ユキも静かに外を見る。


「……人、増えた気がする」


 ミーコは黙って街を見る。


 懐かしい。


 けれど。


 どこか息苦しい。


 街全体に余裕が無い。


 それが分かる。


 その時。


 中央街路沿いの掲示板が見えた。


【南区画 夜間封鎖継続】


【中央倉庫物資制限】


【議会臨時会議開催】


 フィルニアが顔をしかめる。


「なんかずっと物騒だな」


 レクターが低く答えた。


「今の王都は、表面だけ取り繕っている状態です」


「各地問題が一気に噴き出している」


 タマが腕を組む。


「地方だけの話じゃなかったか」


「えぇ」


 レクターは窓の外を見る。


「今のレイシスは、かなり危うい均衡の上にあります」


 その時だった。


「おい見ろ!!」


 外から声が上がる。


「騎士団車両だ!!」


「まさか……」


 ざわめきが広がる。


 人々の視線が車両へ集まり始めた。


 そして。


「アクアリア様だ!!」


 一気に空気が変わった。


 フィルニアが目を丸くする。


「うわ、広がるの早ぇ」


 市場帰りの住民。


 職人達。


 子供達。


 様々な人が車列へ集まってくる。


「本当に生きてたんだ……」


「王女様……」


「戻ってきてくれたのか……」


 だが。


 喜び一色ではない。


「議会どうなるんだ?」


「また揉めるぞこれ……」


「でも王女様戻ったなら……」


 不安と期待が混ざっている。


 ミーコは静かに外を見る。


 これが今の王都。


 皆、先が見えない。


 だから。


 小さな希望へも縋りたくなる。


 その時。


 一人の若い女性が車列へ向かって深く頭を下げた。


「……ありがとうございます」


 疲れた顔だった。


 でも。


 目だけは真っ直ぐだった。


「最近、王都ずっと空気が重くて……」


「皆、ピリピリしてて……」


 小さく息を吐く。


「だから」


「王女様が帰ってきたって聞いて」


「少しだけ安心したんです」


 ミーコはその言葉を静かに受け止める。


 まだ何も出来ていない。


 それでも。


 “帰還”そのものに意味が生まれている。


 その重さを感じていた。


 その時。


 トシオが窓の外を見ながら呟く。


「市場広いな」


「そこ気になるのかよ」


 タマが笑う。


 フィルニアも口元を緩めた。


「トシオ、王都来ても変わんねぇな」


 ミツコが柔らかく笑う。


「色んなお店ありそうだねぇ」


 そのやり取りに、車内の空気が少し和らぐ。


 ミーコも少しだけ笑った。


 車両はさらに中央区へ進む。


 徐々に街並みが変わっていく。


 商業区が減り。


 石造建築が増え。


 騎士詰所が目立ち始める。


 警備兵の数も一気に増えた。


 そして。


 前方に巨大な白銀城壁が見え始める。


 フィルニアが思わず声を漏らした。


「……でっか」


 王城。


 レイシス王家の象徴。


 巨大城壁。


 無数の塔。


 空中庭園。


 王族旗。


 中央へそびえる本城。


 まるで一つの都市だった。


 タマが苦笑する。


「久々でも圧あるなぁ」


 ユキは静かに王城を見上げる。


「……帰ってきた」


 ミーコの胸が少し締め付けられる。


 幼い頃を過ごした場所。


 でも。


 もう、あの頃とは違う。


 その時。


 レクターが静かに口を開いた。


「アクアリア様」


『なに?』


「王城到着後ですが、すぐ議会側との接触になる可能性があります」


 フィルニアが露骨に嫌そうな顔をした。


「絶対めんどくせぇやつじゃん」


「恐らくは」


 レクターも否定しない。


 タマが笑う。


「この人、結構正直だよな」


 レクターは真面目な顔のまま続けた。


「現在の王都は、王女帰還を歓迎する者ばかりではありません」


「利用しようとする者」


「警戒する者」


「混乱を恐れる者」


「様々です」


 ミーコは静かに頷く。


『……分かってる』


 歓迎だけで終わるとは思っていない。


 それでも。


 戻ると決めた。


 その時。


 ミツコが窓の外を見ながら微笑む。


「お庭すごそうだねぇ」


 ユキの顔が少し明るくなる。


「そうだよ!」


「お庭すっごい広くて綺麗なんだよ」


「ばーちゃん一緒に見にいこっ!」


 ミツコが嬉しそうに笑った。


「うん、行こうねぇ」


 その空気に、ミーコの表情も少し柔らかくなる。


 その時だった。


「ぐぅぅぅぅぅ……」


 豪快な腹の音が響いた。


 車内が静かになる。


 全員の視線が、トシオへ集まった。


 トシオはつぶやいた。


「……腹減った」


 フィルニアが吹き出す。


「このタイミングかよ!!」


 タマまで笑い始めた。


「じーちゃん緊張感どこ行った!?」


 ミツコも楽しそうに笑っている。


 その空気に。


 ミーコもつい笑ってしまった。


 怖い。


 不安もある。


 でも。


 こうして笑える。


 それだけで少し救われる。


 そして。


 騎士団車両は巨大王城前広場へ到着する。


 並ぶ近衛騎士。


 巨大噴水。


 白銀階段。


 ゆっくり開き始める王城正門。


 ついに。


 ミーコ達は王城へ足を踏み入れようとしていた。


 止まりかけたレイシスの中心へ。


 失われた時間と向き合うために。

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