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じじばばニャンコと異世界奇譚  作者: こいたろ


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134/150

動き始めた街



 グレイヴェルへ滞在して五日目。


 水路区の景色は、少しずつ変わり始めていた。


 崩れかけていた石壁には補強が入り。


 止まりかけていた荷運びも再開。


 橋下へ寝泊まりしていた避難民達も、一部が空き倉庫へ移動出来るようになっていた。


 劇的ではない。


 だが。


 確かに街は動き始めていた。


「すげぇな……」


 若い兵士が思わず呟く。


 水路沿いでは、避難民達が汗を流して働いている。


「縄もっと寄越せ!!」


「石材こっちだ!!」


「板浮かせろー!!」


 活気が戻り始めていた。


 その中央。


「そこ角度違う」


 トシオが木材を組みながら指示を飛ばしている。


 完全に現場親方だった。


 フィルニアが吹き出す。


「もう旅人じゃねぇだろこの人」


 タマも苦笑する。


「馴染みすぎなんだよなぁ」


 シェリスが静かに頷いた。


「正直、ここまで動くとは思いませんでした」


 ミーコは水路区を見回していた。


 皆、疲れている。


 だが。


 止まってはいない。


 それが大きかった。


 しかも。


 少しずつ物流も戻り始めている。


 止まっていた荷車が動き。


 水路輸送も再開し始め。


 商人達も様子を見ながら戻ってきていた。


「干し肉入ったぞー!!」


「南区へ回せ!!」


「麦袋こっち!!」


 昨日より、明らかに物が流れている。


 もちろん、まだ安定はしていない。


 地区差も大きい。


 値段も高い。


 それでも。


 “止まっていた街”ではなくなり始めていた。


 その時。


「アクアリア様!!」


 小さな声。


 昨日の子供達だった。


 今度はちゃんと桶を持っている。


「水運ぶんだぞー!!」


 フィルニアが笑う。


「マジで手伝い始めた」


 タマも吹き出した。


「行動力あるなぁ」


 ミーコは少し笑う。


『無理しちゃダメよ?』


「だいじょーぶ!!」


 元気な返事だった。


 その時。


 マルダがパン籠を抱えてやって来る。


「差し入れだよ!!」


「おぉー!!」


 フィルニアとタマが即反応した。


『あなた達はまず働きなさい』


「働いてるだろ!?」


「超働いてるぞ俺様!!」


 だが。


 実際かなり働いていた。


 フィルニアは荷運びと力仕事担当。


 タマは補修班と炊き出し班を行ったり来たり。


 ユキは怪我人や子供達の世話。


 自然に役割が出来ていた。


 ミツコは大鍋へスープを足していた。


「はいはい、まだありますからねぇ」


 その横では。


 監督官まで動いていた。


「そっち詰めすぎるな!!」


「崩れるぞ!!」


 最初とは別人だった。


 兵士達も驚いている。


「監督官殿めっちゃ働いてる……」


「今日朝から休んでないぞ」


 監督官は汗だくだった。


 だが。


 前より顔色は良い。


 責任を恐れて止まっていた時より、動いている今の方が人間らしかった。


 その時。


 シェリスが少し真面目な顔になる。


「……広がっていますね」


『え?』


「王女生存の話です」


 ミーコは静かに息を吐いた。


 王都へ戻る。


 もう隠れ続ける事は出来ない。


 その時だった。


「おーい!!」


 水路向こうから声が飛ぶ。


 大柄な熊獣人だった。


「南区側も手ぇ貸してくれ!!」


「壁割れた!!」


 トシオが即答する。


「行く」


「早ぇよ」


 タマが吹き出した。


 フィルニアも笑う。


「もうこの街の職人じゃねぇか」


 その後。


 一行は南区側へ向かった。


 そこも酷かった。


 建物の壁が崩れかけている。


 水漏れ。


 木材腐食。


 放置だらけ。


 トシオは周囲を見るなり言う。


「まず支え組む」


「荷重逃がせ」


 熊獣人が目を瞬かせる。


「わ、分かるのか?」


「漁港の修繕もしてたからな」


「なんでそこで経験積んでんだよ」


「全部漁港基準だなこの人」


 フィルニアが笑った。


 その時。


 近くの老婆がミツコへ頭を下げる。


「ありがとうねぇ」


「え?」


「王女様達来てから、街ちょっと明るくなったよ」


 ミツコは柔らかく笑った。


「皆さんが頑張ったからですよぉ」


 老婆はゆっくり頷く。


「それでもさ」


「最初に動き出したのは、あんた達だ」


 ミツコは少しだけミーコ達を見る。


 ミーコ。


 タマ。


 ユキ。


 この子達は、これから王都へ戻る。


 もっと大きな場所へ向き合う事になる。


 争い。


 対立。


 侵食。


 簡単な道じゃない。


 けれど。


 ミツコは穏やかに笑った。


「大丈夫ですよぉ」


「この子達なら、ちゃんと前へ進めます」


 ミーコが少し目を丸くする。


 タマは照れ臭そうに頭を掻いた。


 ユキも静かにミツコを見る。


 トシオは木材を担ぎながら言った。


「腹減ったら飯食わせる」


「揉めたら殴る」


『最後ダメよ!?』


 フィルニアが爆笑した。


「じーちゃんマジでブレねぇ!!」


 周囲にも笑いが広がる。


 その空気の中。


 ミーコは静かに空を見る。


 王都へ帰ろう。


 ちゃんと向き合おう。


 そして。


 少しずつでも。


 争いの少ないレイシスへ変えていこう。


 今のグレイヴェルみたいに。


 止まっていたものを、もう一度動かすために。

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