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じじばばニャンコと異世界奇譚  作者: こいたろ


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炉火の鍛冶街



 巨人王の炉火を後にした翌朝。


 再び訪れたグランディル山岳王国北部――


 山腹都市《バルグ鋼路街》は、以前より遥かに騒がしかった。


カ ン !


ガ ギ ィ ン!!


ギ ィ ィ ィ ン!!!


 山そのものが唸っているみたいだった。


 巨大煙突から黒煙が吹き上がる。


 溶鉱炉は昼みたいに赤く。


 火花が絶え間なく宙を走る。


 しかも。


 いたるところで巨人族とドワーフの職人隊が作業をしていた。


 巨大鎚を振るう者。


 鉱石を運ぶ者。


 魔導炉を調整する者。


 以前来た時より、明らかに慌ただしい。


 ミーコが眉を寄せる。


「前より人増えてない?」


 近くを歩いていた巨人族職人が振り返る。


「侵食被害だ」


「武器も壁も足りねぇ」


 ユキが小さく呟く。


「……酷くなってるんだ」


 フィルニアは周囲を見回した。


「でも止まってないな」


「止まったら終わりだからな」


 ドワーフ職人が即答する。


 タマが感心したように笑う。


「なんかみんな強ぇなぁ」


 ガルヴァンが低く言った。


『炉火は誇りだ』


『火を絶やす事を最も嫌う』


 その時だった。


 一人のドワーフ職人がフィルニアを見る。


「お?」


 赤角。


 竜人族。


 しかも王族装束。


 周囲の視線まで集まり始める。


「竜人族か?」


「随分派手なの連れてんな」


 フィルニアがニヤッと笑う。


「喧嘩なら買うぞ?」


「やめなさい」


 ミーコが肩を小突いた。


 フィルニアが笑う。


「冗談だって」


「アンタの場合冗談に聞こえないのよ」


 その頃。


 トシオは巨大搬送車を見ていた。


 鉄骨が山みたいに積まれている。


「これ全部運ぶんかぁ」


 近くの巨人族職人が笑う。


「毎日だ」


「大変じゃのぉ」


「慣れだ慣れ」


 そんな会話をしていた時だった。


 ガルヴァンが一歩前へ出る。


『山守ガルヴァンの名において告げる』


 低い声が鍛冶街へ響く。


 職人達の手が止まった。


『この者達は炉火に認められし客人だ』


 ざわめきが広がる。


「炉火……?」


「始まりの炉火か?」


「まさか」


 その瞬間だった。


ブ ゥ ゥ ゥ ン……


 鍛冶街の炉火が一斉に揺れた。


 溶鉱炉。


 工房火。


 灯火台。


 全ての炎が蒼く明滅する。


 職人達の顔色が変わった。


「なんだ!?」


「炉火が反応してる!?」


「こんなの初めてだぞ!」


 同時に。


 トシオの右手甲へ浮かぶ紋章が淡く光る。


 始まりの気配。


 その直後。


ド ガ ァ ァ ン !!!!!


 工房扉が勢いよく開いた。


「どうした!?」


「何があった!!」


 現れたのは。


 小柄。


 だが筋肉の塊みたいなドワーフだった。


 赤銅色の髭。


 煤だらけの腕。


 背中には巨大ハンマー。


 しかも。


 目付きが怖い。


 フィルニアが呟く。


「うわ怖っ」


バルド=グランガン


 鍛冶街頭領。


 バルドは周囲を見渡す。


 そして。


 トシオの右手甲へ視線を止めた。


 バルドの目が細くなる。


「……おい」


 低い声だった。


「その紋章、どこで手に入れた」


 トシオが首を傾げる。


「気付いたらあった」


「はぁっ!?」


 バルドの声が鍛冶街へ響いた。


 フィルニアが吹き出す。


「分かる」


 バルドは深く息を吐いた。


「なんなんだこの連中……」


 だが。


 ガルヴァンが静かに告げる。


『炉火が認めた』


 その一言で。


 バルドの顔色が変わる。


 ゆっくり。


 トシオへ近付く。


 そして。


 右手紋章を凝視した。


「……本物か」


 鍛冶街の炉火は、

 まだ微かに揺れていた。


 周囲の職人達も落ち着かない。


 だが。


 しばらくすると、

 炎の明滅が少しずつ静まっていく。


 バルドが舌打ちした。


「……騒がせやがって」


 その時だった。


グ ゥ ゥ ゥ……


 低い腹音が響いた。


 沈黙。


 フィルニアが吹き出す。


「アンタ腹減ってんのかよ!」


 バルドが顔をしかめる。


「うるせぇ」


 ミツコが優しく聞いた。


「ちゃんと食べとる?」


「……後回しだ」


「それあかんよぉ」


 ミツコは困ったように笑った。


「身体壊すでぇ」


 バルドは鼻を鳴らす。


「火が生きてる内に叩かなきゃならねぇんだ」


 その返答に。


 トシオが少し笑う。


「頑固じゃのぉ」


「当然だ」


 バルドは即答だった。


 だが。


 ミツコは普通に買い物籠をごそごそしていた。


 タマとフィルニアが同時に反応する。


「「おおっ!!」」


 ミーコが呆れる。


「アンタ達ほんと分かりやすいわね……」


「飯だろ!?」


「ミツコさん何作る!?」


 二人とも完全に目が輝いていた。


 ミツコが笑う。


「お肉焼こうかねぇ」


「「やったぁ!!」」


 周囲のドワーフ達まで反応した。


「肉!?」


「マジか!?」


「なんか始まったぞ!」


 一時間後。


 工房裏。


 巨大鉄板の上で肉が焼かれていた。


ジュゥゥゥ……


 香ばしい匂いが広がる。


 ドワーフ達がどんどん集まってくる。


「美味そう……」


「腹減ってきた……」


「なんだこの匂い……」


 フィルニアは既に食べていた。


「うっま!!」


「早いよアンタ!」


 ミーコが呆れる。


 その頃。


 バルドは黙ってミツコの料理を見ていた。


 焼き色。


 肉汁。


 火加減。


 その視線は完全に職人だった。


 やがて。


 肉皿が差し出される。


「はいどうぞぉ」


 バルドが無言で食べた。


 数秒後。


 目を見開く。


「……なんだこれ」


 ミツコが首を傾げる。


「お肉やけど?」


「違ぇ!!」


 バルドが立ち上がった。


「焼き加減が完璧だ!!」


 フィルニアが笑う。


「そこ気にするんだ」


「当たり前だ!!」


「焼き過ぎてねぇ!」


「なのに芯まで火が通ってる!」


「なんでこんな均一なんだ!?」


 ミツコは困ったように笑った。


「美味しくなぁれって焼いただけやけど」


 バルドが唸る。


「意味分からん……」


 ガルヴァンが静かに言った。


『命紡ぎ』


 バルドの目が細くなる。


「……なるほどな」


 そして。


 バルドはフィルニアとタマを見る。


「……お前らの武器も後で見てやる」


 フィルニアの目が輝いた。


「マジか!?」


 タマも前のめりになる。


「うおぉっ!!」


 ミーコが呆れる。


「アンタ達ほんとそういうの好きよね……」


 バルドは鼻を鳴らした。


「竜槍も獅子武具も、

 まともに整備すりゃもっと化ける」


 フィルニアがニヤリと笑う。


「面白ぇじゃん」


 その時だった。


 鍛冶街奥から重い警鐘が鳴り響く。


ゴ ォ ォ ォ ン……


ゴ ォ ォ ォ ン……


 空気が変わった。


 職人達の顔色が一斉に険しくなる。


 ガルヴァンが振り返る。


『侵食か……!』


 同時に。


 鍛冶街北側から黒煙が立ち昇った。


 バルドが舌打ちする。


「チッ……休ませる気ねぇな」

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