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じじばばニャンコと異世界奇譚  作者: こいたろ


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114/150

巨人達の封鎖古道



 深層封印区画を出た翌日。


 一行はグランディル山岳王国内、北部山域を進んでいた。


 空気は冷たい。


 吐く息が白い。


 だが。


 空は澄んでいた。


 巨大山脈の合間を風が吹き抜けていく。


 フィルニアが肩を回した。


「寒っ……」


 タマは荷車の上で丸くなっている。


「朝つら……」


 ミーコが呆れる。


「猫かアンタは」


「元猫だよ!!」


「威張るな」


 その頃。


 トシオは地図を見ていた。


 普通の地図ではない。


 始まりの民の古地図。


 魔力を流すと、旅してきた道筋が淡く光る。


 そして。


 今。


 地図北部に新しい光が浮かんでいた。


 シェルファが覗き込む。


「そこですか?」


 トシオが頷く。


「この辺りじゃの」


 フィルニアが地図を見る。


「何があるんだ?」


 老人の幻影が静かに答えた。


『封鎖古道』


『始まりの民と巨人族が築いた山岳路だ』


 アークが眉を寄せる。


「そんな場所、グランディル側の地図には無かったぞ」


『意図的に消された』


 短い返答。


『閉じる者との戦争後、侵食地帯として封印されたからだ』


 空気が少し重くなる。


 ユキが小さく聞いた。


「危ない場所なの?」


『ああ』


『だが、お前達は行かなければならない』


 トシオの右手紋章が淡く光った。


 ブゥゥン……


 天裂海牙が反応している。


 ミツコが少し心配そうに見る。


「大丈夫ぅ?」


「なんとも言えんのぉ」


 胸の奥がざわつく。


 呼ばれているみたいだった。


 その時。


 前方の崖間を抜けた瞬間だった。


 フィルニアが足を止める。


「うわ……」


 全員が顔を上げる。


 巨大だった。


 山肌そのものへ刻まれた古代通路。


 幅が異常に広い。


 普通の街道ではない。


 巨人族が並んで歩ける規模だった。


 しかも。


 崩れていない。


 長い年月を経ているはずなのに、今でも通れそうなほど原型を保っていた。


 ミーコが呟く。


「これ全部、手作業……?」


 老人が静かに頷く。


『巨人族と始まりの民が共に築いた道だ』


『種族を繋ぐための山岳路』


 フィルニアが口笛を吹く。


「スケールおかしいなぁ……」


 タマも見上げる。


「壁みたいだ」


 だが。


 ユキだけは別のものを見ていた。


「あ……」


 古道入口。


 巨大石柱。


 そこへ古い文字が刻まれている。


 シェルファが読み上げた。


「“争う者も、飢える者も、ここでは同じ火を囲め”……」


 静かな風が吹く。


 ミツコが少し笑った。


「ほんま鍋好きやねぇ」


 トシオも頷く。


「気が合いそうじゃの」


 その時だった。


 ゴゴゴ……


 地面が小さく揺れる。


 フィルニアが即座に振り返った。


「ん?」


 岩陰から現れたのは。


 巨大な灰毛の魔獣だった。


 四本腕。


 山猿みたいな体格。


 だが。


 普通の魔物より遥かに大きい。


 さらに。


 二体。


 三体。


 次々現れる。


 タマが目を剥いた。


「またデカいの来た!!」


 アークが剣へ手を掛ける。


「山岳魔猿か」


 魔猿達は唸りながら道を塞ぐ。


 威嚇している。


 フィルニアが拳を鳴らした。


「やる?」


 だが。


 ミツコが買い物籠をごそごそ漁り始めた。


 タマが嫌な顔をする。


「……またか」


「はい」


 巨大干し魚。


 しかも特大。


 フィルニアが吹き出した。


「また飯で解決する気かよ!?」


 ミツコは普通に頷いた。


「お腹空いとる顔しとるし」


 魔猿達が止まる。


 鼻が動いた。


 匂いを嗅いでいる。


 ミツコはそのまま魚を差し出す。


「食べる?」


 数秒沈黙。


 やがて。


 一番大きな魔猿が恐る恐る魚を受け取った。


 バリバリ食べ始める。


 タマが呆然とする。


「食うんだ……」


 しかも。


 めちゃくちゃ美味そうに食べている。


 ユキが小さく笑った。


「嬉しそう」


 他の魔猿達まで座り始めた。


 フィルニアが頭を抱える。


「なんなんだよこの流れ!!」


 老人が静かに呟く。


『始まりの民もまず腹を満たした』


 ミーコが苦笑する。


「結局そこへ繋がるのね……」


 食べ終わった魔猿達は、完全に大人しくなっていた。


 むしろ。


 道を空けている。


 さらに。


 一番大きな魔猿が古道奥を指差した。


「グルル」


 シェルファが目を細める。


「……案内?」


 魔猿はそのまま歩き出す。


 何度も振り返ってくる。


 ユキが頷いた。


「ついて来てって言ってる」


 結局。


 一行は魔猿達について行く事になった。


 古道内部は壮観だった。


 巨大石橋。


 山を貫く長大通路。


 崖沿いの見張り台。


 全てが巨大。


 しかも。


 至る所へ七種族の紋章が刻まれている。


 フィルニアが周囲を見る。


「昔は普通に交流してたんだな」


『ああ』


 老人は静かに答える。


『ここは交易路でもあった』


『巨人族だけでなく、他種族も行き来していた』


 その時。


 ミーコが壁画を見つける。


「これ……」


 そこには。


 巨人族と始まりの民が描かれていた。


 さらに中央。


 やっぱり鍋。


 フィルニアが吹き出す。


「また鍋だ!!」


 タマも笑う。


「絶対好きだろこの人達!」


 だが。


 老人は真面目だった。


『巨人族は警戒心が強かった』


『だからまず同じ食卓を囲った』


 ミツコが優しく笑う。


「ええ方法やねぇ」


 その時だった。


 トシオの右手紋章が反応する。


 ブゥゥン……


 古道奥。


 何かが共鳴していた。


 トシオが顔を上げる。


「……なんじゃ?」


 空気が変わる。


 冷たい風。


 嫌な気配。


 そして。


 ゴ ゴ ゴ……


 古道全体が揺れ始めた。


 フィルニアが真顔になる。


「今のヤバくないか?」


 直後。


ド ゴ ォ ォ ォ ォ ッ !!!!!


 古道奥の岩壁が崩壊した。


 砂煙。


 轟音。


 そして。


 巨大な影が現れる。


 巨人だった。


 だが。


 普通ではない。


 全身へ黒い侵食痕。


 片目は赤黒く染まっている。


 呼吸する度、黒霧が漏れ出していた。


 ユキが震える。


「巨人さん……?」


 老人の顔が険しくなる。


『侵食されている』


 巨人がこちらを見る。


 一歩。


 踏み出す。


ゴ ン !!!!!


 古道全体が揺れた。


 さらに一歩。


ゴ ォ ン !!!!!


 タマが顔を引きつらせる。


「デカすぎるだろ……」


 アークが剣を抜いた。


「しかも様子がおかしい」


 だが。


 トシオは巨人を見たまま動かない。


 その視線は険しかった。


 侵食巨人の胸元。


 そこには。


 始まりの民の紋章が刻まれていた。

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