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緑禍  作者: もちづき裕
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第七十一話  パウロとバンジード

お読みいただきありがとうございます!よろしくお願いします。

 ブラジルでは黄金やダイヤ、宝石の類が採掘される関係で、大きな街には取り扱う店が非常に多いし、紙幣への換金も問題なく行うことが出来る。


 最近、この界隈で話題となっているのが日本人から持ち込まれる『黄金』だった。金の加工から相当に古い物、それこそ黒人奴隷をたくさんアフリカ大陸から連れて来た時代のものだということで、

「またペイシェベルメーリャの遺物が出たかな?」

 という話題になったのだ。


 大西洋を帆船が行き来していたような時代、オーロプレットで採掘された金は積金港であるパラチーへと運ばれ、金を積んだ船は本国ポルトガルへと運ばれることになり、オーロプレットとパラチーの間の道は整備されることになったのだ。


 この輸送される金を狙った盗賊の名前がペイシェベルメーリョと言い『真っ赤な魚』とあだ名された彼は、すべての人間を殺した上で金を奪っていくという最悪な奴だったのだ。死体で川が真っ赤に染まったこともあったらしく、あだ名はその時に付けられたものとなるらしい。


 大量の金を奪った男は隠す場所にも念には念を入れた男であり、ペイシェベルメーリョが地中深くに埋めた金は今でもオーロプレットとパラチーをつなぐ道の何処かに埋められているとも言われている。


 実際に、ある村が洪水となって水が溢れた時に、近くの山から黄金が流されてきたことがあった。これはペイシェベルメーリョが埋めた金が土砂の中に紛れて流れてきたものであり、その流れて来た量を見た当時の人々を驚嘆させたのだ。


「絶対にペイシェベルメーリョの金はまだ埋まっているはず!」

「見つけてやるー!」

 と言いだす若者もいたのだが、最終的には誰も見つけられず、もう埋まってはいないだろうということで話が終わることになる。


 話に出てきたシャカラベンダ農場も、当時の熱狂に乗っかる形で今の農場主の祖父が購入したというものであり、噂の埋蔵金を探してみたものの、見つかることはなかったのだ。


 昔はサトウキビを育てていた農場も、流行に乗って今では珈琲を育てている。そのシャカラベンダ農場の持ち主であるアレッサンドロ氏が、最近、それは大きなオンサ(豹)の毛皮を手に入れたというのは有名な話で、多くの人が彼と同じような毛皮を求めたものだった。


「とりあえず何が言いたいのかというとですね、シャカラベンダ農場は相当田舎の農場ということで、セニョールが行くほどの価値があるとは俺には思えないんですがね?」


 伯父の店に換金に来た日本人に対して根掘り葉掘り話を聞こうとしていた男、パウロがそのように言うと、目の前のスーツ姿の男は眉を顰めながらパウロの若々しい顔を見つめた。


「その田舎にあって、遠すぎるほど遠い農場に、アレッサンドロは身重の妻を連れて逃げて行ったんだろう?しかも問題の山の主の毛皮をご丁寧に持って移動しやがった。サンパウロの家に置いて移動すればこっちも簡単に手に入れられたんだろうが、持って行っちまったんだから仕方がない」


 男はショットグラスの中身を一気に飲み干すと、

「とりあえず金を換金した日本人はシャカラベンダで働いていた者で、日本人はよく働くからご褒美に金を貰うことになったって言うんだろ?」

 と、問いかける。


「あれだけの大物のオンサを狩猟したのなら、よっぽど森の奥に入り込んだのだろう。そこでオンサと一緒に埋められていた遺産を発見した。その褒美で金を分け与えられて、女はお前のおじさんの店で換金を行った。アレッサンドロは掘り出された金を確認するために田舎の農場に妻と共に向かったんだろう」


 パウロは思わず生唾をごくりと飲み込んだ。今、目の前に座るのはサンパウロでも有名なバンジード(ギャング)で、直々に金をどうやって手に入れたのか、日本人が店に来たら探りを入れるようにと頼まれていたのだから。


「それじゃあ、シャカラベンダ農場にある金を移動することも考えて、アレッサンドロは身重の妻を連れて移動をしたってことなんでしょうか?」

「あれだけの警備の人間を手配しているし、そうとしか考えられないな」


 サンパウロで話題となったオンサの毛皮だけれど、森の主だとも言われる巨大な毛皮は誰もが欲しくなるような逸品だったのだ。これを欲したのがサンパウロで議員をしている男で、自分の手下を利用して買取出来ないかと声をかけたのだがあえなく断られたので、自分が懇意にしているバンジードに、

「アレッサンドロは殺してでも良いから、オンサの毛皮を取ってこい」

 と、命令したということになる。


 末端の末端の末端であるパウロは、

「それにしてもシャカラベンダ農場って遠すぎないですかね?」

 と、問いかけると、

「そりゃ、オーロプレットとパラチーの間にあるくらいだからな」

 と、男が言い出した。


 政治家とバンジードに狙われたら、アレッサンドロ氏の命も風前の灯火、身重の妻共々殺されることになるのは目に見えていることで、

「それじゃあ、換金に来た日本人の女の方はこのままでいいですか?これ以上話しても何も出てこないと思いますし、そもそも言葉がおぼつかない奴らなんで」

 パウロが話題を変えるようにしてそう言うと、

「色っぽい女だったんだろ?だったら、捕まえて売っぱらっても良いかもしれないな?」

 と、目の前の男は目を細めながら言い出した。


 ちなみに、甥っ子の祝言を見届けた百合子は肇と一緒にモジダスクルーゼスと言う名前の街へと移動をしてしまったので、パウロは二度と百合子と顔を合わせることはなかったのだ。


 そんなバンジードの末端パウロも、時を待たずしてシャカラベンダ農場へと向かうことになる。ペイシェベルメーリョの埋蔵金だとしたら相当な量になるのは間違いないので、口が硬い人間が集められることになったのだ。



ブラジル移民の生活を交えながらのサスペンスです。ドロドロ、ギタギタが始まっていきますが、当時、日系移民の方々はこーんなに大変だったの?というエピソードも入れていきますので、最後までお付き合い頂ければ幸いです!


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