p.28 突然の来訪者
翌日、ダリルはオーウェンを待つべく支度を整え、こちらで指定した場所に向かうところで、侍従のウォーレスに呼び止められた。
「ダリル様! ああ、良かった! まだ出かける前で……」
「ウォーリー、どうしたんだい、そんなに慌てて……」
「ダリル様にお客様です」
「僕に客? おかしいな、予定はすべてキャンセルしたはずだけど……」
ウォーレンの言葉にダリルは首を傾げる。
一週間分の予定はすべてキャンセルしたはずだ。
「ええ、そうでしょうとも。予定にないお客様ですから」
ウォーレンのその言葉にダリルは困惑する。
いつものウォーレンならばすぐに帰ってもらっているはずだ。なのになぜ、わざわざダリルに伝えるのだろう。それもダリルが今から出かけることを把握しているはずなのに。
「予定にない客……? 予定にないなら、悪いけれど帰ってもらって。僕はこれから出かけなくてはならないのだから」
「ええ、それもわかっております。ダリル様はオーウェン様をお待ちになる予定なんですよね? そのオーウェン様がぜひダリル様にお会いしたいと来ているんです」
「オーウェンが?」
まさかの客の名前に驚く。
ちらりとエルシーを見ると、頭が痛そうに額を押さえていた。
(どうしてわざわざオーウェンが……いや、まあいい。こちらから出向く手間が省けたのだから)
驚きつつもダリルはそう考え、ウォーレンに客間に通すように指示をする。
『本当に予想外の行動に出る人ね……まさか向こうから会いに来るなんて。それも、仮にも王族なのに。普通アポイントもなしで会いに来る? 本当に考えなしの向こう見ずなんだから……』
ブツブツと文句を言うエルシーをスルーしながら、ダリルは鏡の前に立って身嗜みのチェックをする。
話を聞く限り、オーウェンは油断ならない人物だ。そういう相手だからこそ、初手の印象は大切にしなれけばならない。第一印象というものは、根強く頭に残りやすい。
それに、彼とは長い付き合いになるかもしれないのだ。第一印象が良いことに越したことはない。
(まあ、多少だらけた姿でも、僕の美しさを損ねることはないのだけど)
美しいというだけで大きなアドバンテージになる。
大多数の人は美しいものが大好きだ。美しいというだけで、たとえ中身がどうしようもなくても好印象になることが多い。
美しさは持って生まれた才能だ。
そしてダリルが唯一誇れるものでもある。
「……よし、オーウェンに会いに行こう」
軽くタイを締め、一度鏡に向かって微笑んで部屋から出る。
そしてオーウェンが待つ客間に着くと、ノックをして入る。
「お待たせしてしまい、大変申し訳な――」
「おおっ。本当にダリル王子が来た!」
いきなり目の前に人が現れ、キラキラした目でダリルを見つめる。
珍しいオッドアイの目に思わず目が奪われる。
左は深いブルー、右目は明るいグリーン。髪の色は黒で、どことなくエキゾチックな顔立ちだ。
「どうも〜初めまして! オレ……ああいや、私はオーウェンと申します。殿下と婚約中のエルシーとは幼なじみでして!」
「は、はあ……」
両手を掴まれ、ブンブンと勢いよく振る。
「殿下がなにかオレ……じゃなかった私にご用だと伺い、居ても立っても居られなくなって馳せ参じた次第です!」
「な、なるほど……う、うん……わかったから手を離そうか……」
「あ、すみません。興奮してつい」
テヘッと笑い、オーウェンは手を離す。
ようやく手が解放され、ダリルはほっとする。少し肩が痛い。




