表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

10/23

10.規律違反はダメですか?

 ユニティ魔法学園では、年に一度の「魔法武術大会」が開催されようとしていた。


 ライエル率いる風紀委員会は、大会に向けて規律の徹底を呼びかけていた。


「大会期間中、学園敷地内の魔法の使用は、指定された演習場以外では厳禁とする。

 規律を破る者は、厳正に処分する」


 ライエルの厳格な声が校内に響き渡る。


 エレノアは、その言葉を聞いて、胸が締め付けられる思いだった。

 大会期間中は、畑仕事はもちろん、植物に加護を与えることすら規律違反になってしまう。


 それでも、彼女は放課後、人目を避けて畑に向かっていた。


「お願い、もう少しだけ頑張って…」


 エレノアは、収穫を間近に控えた作物が枯れてしまわないよう、焦る気持ちで加護を注いでいた。


 その瞬間、背後から冷たい声が聞こえた。


「アースフィールド嬢。規律違反だ」


 振り返ると、そこにいたのはライエルだった。

 彼は、エレノアの行動を把握していたのだ。


「私語を厳禁とした時間帯に、なぜここにいる。しかも、指定場所以外で魔法を使うとは…」


 ライエルの目が、エレノアが加護を与えている作物に向けられる。


「言い訳は聞かない。風紀委員長として、貴女を処分する義務がある」


 エレノアは、ただ黙って頭を下げた。


「……はい。私の負けです」


 彼女の覚悟を決めたような態度に、ライエルは戸惑った。


 その時、エレノアの畑の奥で、小さな花がひっそりと咲いているのが見えた。


 それは、彼女がライエルのために、こっそり育てていた'ストロング・ブルーベル'という名の花だった。

 その花は、疲労を和らげる効果があるのだと、以前ソフィアから聞いたことがあった。


 ライエルは、その花を見て、ふと表情を和らげた。


「……この花は?」


「ライエル様が……剣の稽古を頑張っていらっしゃるって聞いたので、お役に立てればと……」


 エレノアの言葉に、ライエルの心は揺れた。


 彼女は、規律を破ってまで、自分のため……誰かのために、この地味な作業を続けていたのだ。

 彼の「規律」とは、常に「正義」とともにある。

 エレノアの行動は、彼が信じる「正義」に反していなかった。


 ライエルは、静かにエレノアに近づき、その花に触れた。


「……規律とは、秩序を守るためにある。だが、貴女の行動は、秩序を乱すものではない。むしろ……」


 彼は言葉を詰まらせた。

 そして、エレノアにだけ聞こえるような小さな声で、こう囁いた。


「今夜のことは、規律違反として記録しない。だが、次からは、私の「見回り」に、注意するように」


 それは、ライエルなりの「許し」であり、彼女を見守るという意思表示だった。


 エレノアが驚いて顔を上げると、ライエルはもう背を向けていた。

 彼の耳は、少し赤くなっているように見えた。


 この一件以来、ライエルはエレノアの畑の近くで見回りをするようになり、エレノアは彼の「見回り」のタイミングを気にしながら畑仕事をするようになった。


 二人の間には、規律という名の壁を超えた、特別な絆が芽生え始めていた。

ここまで読んでくださり、ありがとうございました。


少しでもエレノアたちの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。


次回は、ノアとの絆が深まる場面が描かれる予定です。お楽しみに!


感想やお気に入り登録をいただけると励みになります。どうぞよろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ