11.夜の図書館に二人きりです
ライエルとの一件以来、エレノアは夜の温室で、ライエルの「見回り」を気にしながら畑仕事を続けていた。
そんなある夜、彼女は温室ではなく、ユニティ魔法学園の広大な図書館の奥深くにある、古文書室に呼び出された。
呼び出したのはノアだった。
「……来たか」
ノアは、魔法の光に照らされた古文書の山に囲まれて座っていた。
その表情は、いつもの冷静な観察者の顔ではなく、何かに焦りを感じているようだった。
「先日の‘スターライト・シード’……発芽した芽が、一日で枯れてしまった。
君の加護がなくなった途端、魔力が消滅したんだ」
彼は、まるで自分が失敗したかのように悔しそうに呟いた。
ノアにとって、エレノアの力は「予測不能な変数」であり、その答えを求めて夜通し研究を続けていたのだ。
「どうしてだ? 君の加護は、単なる魔力の注入ではない。
論理的な解析ができない……君の『感覚』がなければ、成り立たない」
ノアは、いら立たしげに髪をかき上げた。
彼の完璧な理論をもってしても、エレノアの加護を再現することはできなかったのだ。
エレノアは、その様子を見て、そっとノアに近づいた。
「ノア様……この子たちは、ただ魔法をくれるだけじゃなくて、私の声を聞いてくれるんです。
だから…」
彼女は、ノアの手を取ると、温かい光を注ぎ込んだ。
「一緒に、この子たちの声を聞いてあげてください」
ノアは、その温かさに戸惑った。
彼の研究は、常に物質や魔力の「データ」に基づいていた。
しかし、エレノアは「声」や「気持ち」という、非論理的なものを語る。
「……聞こえない」
ノアは、正直にそう告げた。
彼の完璧な論理は、エレノアの持つ「共感」という力には届かない。
その時、エレノアはノアの手を握りしめ、彼の顔をじっと見つめた。
「……ノア様は、いつも一人で頑張っていますね。私も、一緒にこの謎を解きたいです」
その言葉は、ノアの心を揺さぶった。
彼は、これまで誰にも理解されず、孤独に研究を続けてきた。
だからこそ、エレノアの温かい言葉が、彼の心を突き刺したのだ。
ノアは、エレノアの手を握り返すと、彼女を自分の方に引き寄せた。
「……君の『感覚』が、必要だ。僕の傍にいて、僕に君の感覚を教えてくれないか」
それは、命令でもなく、願いでもない。
ただ、彼の知的好奇心が、エレノアという存在を「独占したい」と叫んでいるようだった。
月の光が差し込む図書館の奥で、二人の距離は急速に縮まっていく。
ノアにとって、エレノアはもはや研究対象だけではなく、彼の孤独を埋めてくれる、唯一無二の存在となったのだった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
少しでもエレノアたちの物語を楽しんでいただけたら嬉しいです。
次回は、王国に危機が迫る場面が描かれる予定です。お楽しみに!
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