17.勇者ガールズの皆さんのその後
剣聖タニアの早い討伐と、辺境伯の早い決断により大いに時間的リードを稼げた辺境は、数か月の期間をたっぷりと使って準備を整えつつ、しれっと帝都に討伐成功の報を送った。
――剣聖タニアは魔王ナザリスを打ち負かせり。つわものどもの勝負の決めごとにより、魔王は剣聖の軍門に下り辺境領都に配下として在れり。
さあこれで帝都はどう出るっ!? どう出るっ!?
ドキドキしながらも反応を待つ辺境伯たちであったが、「よくやった」の返信一つ届いただけで、後は待てども変わりがない。
どういうことだと混乱に陥る辺境であったが、実際のところはどうという事もなかったのである。
もともと帝国としては、対魔王同盟のお国々のウザい突き上げを躱すことが第一だったのであり、一部宮廷貴族が辺境を食い物にする画策をしたところで、これは皇帝自身の本意ではない。皇帝にしてみれば言われた通りの仕事をしてくれた辺境伯に対して含むところは何もなかったのだ。むしろ「よくやった」と褒美を取らそうとする一幕もあり、臣下に諫められてこれを諦めた経緯すらある。
そこでピョートル大帝は辺境伯の報告をそのまま全コピで王国などへと横に流し、「やることやったからうちはもういいよね?」と、後のことは対魔王同盟の皆さんに丸投げしたのだった。
これに納得がいかないのは勇者召喚を行った王国であった。
勇者を殺した剣聖を突き出せ! いいから王国まで連れてこい!
↓
え? なに剣聖一人で魔王倒しに行ってんの? そういう話じゃないよね?
↓
え? 剣聖が魔王に勝って配下に従えた!? なに言ってんの!? ねぇなに言ってんの!?(今ココ)
てなもんである。
このような経緯ではとても許せるものではない。
なお王国としては次の勇者を改めて召喚すべく誠意準備中であったのだが、すでに呼び出してしまった聖騎士ゆかり、賢者ねね、聖女いつきの三人が「恭平でなきゃ一緒に冒険しないっ!」と無理難題を言ってゴネており、王国上層部としては困り果てている状況もあった。
現在の聖騎士、賢者、聖女の三人は歴代の中でもかなり強力なコマであり、出来ればこのまま使っていきたい。しかしあくまで彼女たちは勇者をサポートする役どころなのだ。
新しく召喚する勇者と反目されるようならばかえって邪魔になるだけである。
勇者を始めとする対魔王戦力は一度に一人づつである。なればいっそのこと、娘たちは3人とも殺してしまって、全員召喚しなおそうかといった計画も秘密裡に動いている。
そんな中での先の帝国からの報告である。
王国上層部がなおの事ブチ切れるのも当然の帰結であった。
ところでそんな王国上層部とは別に、この報告を見てブチ切れた5人の乙女たちがいる。
誰あろう、転移娘3人に姫マリア、剣士ナターシャを加えた勇者ガールズの5人である。
賢者ねねは辺境領都に転移魔法の座標点を確保していたから、5人は怒りの赴くままに領都へ転移し、そのままの勢いでヨースケ宅へ乗り込んできた。
「ちょっとザコモブっ! どういうつもりなのっ!」
「ザコモブくんはヒドイですっ!」
「魔王を生かしたまま配下に加えるなんて話が違いますっ!」
「私たちが魔王を殺してやるっ!」
「死んでいった志藤君の敵っ!」
5人それぞれ己が気持ちを声に出し突っ込んできて、たまたま出くわした魔王ナザリスに全員その場で捕獲された。
「なんじゃ? こ奴ら。もしや今代の聖女たちかの? 面倒だしこのまま殺してしまうか。」冷徹な魔王の瞳が、無造作に命を刈り取る準備に取り掛かった瞬間……
「駄目だあーっ! ナザリスぅーっ!」そんな魔王を止めたのがヨースケであった。ヨースケは魔王の背後から手を伸ばし、むんずとそのおっぱいを鷲づかみにしてナザリスの凶行を身体を張って止めた。
ついでにもみもみとおっぱいを揉みしだいた。
「駄目だナザリスっ。可愛い女の子は例え0.01%でもワンチャンあるかもしれないから、エッチが無理だって確定するまではなるべく殺さないでやってくれ!」恐ろしく身勝手な理屈ではあったが、ヨースケはどうやらそれを本気で信じているらしく、真剣な顔になってナザリスを懸命に押しとどめようとする。ついでにナザリスのおっぱいは揉み続ける。
興が削がれたナザリスは魔眼をぱちりと元に戻すと、ついでにヨースケのウザい両手を無理やり引きはがした。
「ふうむ。ヨースケはこの娘どもとエッチな事がしたいのじゃな?」
「イエス、マム!」ヨースケはいい顔で敬礼した。
それから1時間後、おぞましいナザリスのヤバい脳外科手術を経た5人の乙女たちは、涙ながらに5人してヨースケにしがみついてきた。
「恭平っ! 無事だったのねっ!」
「志藤くんっ! 心配かけて、もうっ!」
「キョーヘイ様、マリアはキョーヘイ様が生きていると信じておりました。」
「わーいっ きょーへいだあーっ!」
「キョーヘイ。果たせなかったあの時の続きをしよう!」
「すげーっすナザリスさんっ! この子たち全員、オレの事をキョーヘイと勘違いしてるっ!」下卑た顔で嬉しそうに笑うヨースケ。
対するナザリスも黒い顔でニチャアと笑う。
「どうじゃ、我の脳みそクチュクチュは。古来より一ジャンルとして脈々とエロゲ界で受け継がれてきた、日本の伝統芸能であるぞ。認識改変の素晴らしさ、とくと味わうがよい!」
「ウッス!」ごっつあんポーズで頭を下げるヨースケ。
「どうやら5人とも勇者にぞっこんだったようじゃからの。この様子なら頼めばどんなエロい事でも喜んで付き合ってくれるのではないかの?」
「マジで!?」
「それ、好きなだけ試してくるがよい。」
「行ってまいりまーす!」ヨースケは5人の乙女たちとともに寝室へと消えていった。
「ナザリスちょっと! あの子たちどういうつもりなのかしら?」
ヨーヘイが勇者ガールズたちと寝室に消えて早三日。6人くんずほぐれつの男女プロレスは終わることなく未だ性の饗宴が続いていた。
痺れを切らした剣聖タニアが元凶であるナザリスの元へと駆け込んでくる。
ソファーにくつろいで地球から取り寄せたミニテトリンに興じていたナザリスは首だけを剣聖の方へ向け、「良いではないか」と適当な返事をする。
「お前、死にたいのかしら?」殺気立った剣聖が剣の柄に手を掛けるも、「まあ落ち着け。」と諭す魔王は上体を起こし剣聖タニアの方へと向き直った。
「あれが今勇者ガールズに溺れているのも故あってのことよ。いずれ飽きるじゃろうから今は好きにさせるのじゃ。」
「勝手な事をするのでないわ! ヨースケは私と勝負する為にあるのよ。お前のせいで我が刀はヨースケに飢えている。邪魔立てするなら許さない!」
だが魔王は、そんなタニアの様子を見てはあと大きくため息をついた。「そなたがそんなのじゃからヨースケは深層意識の中では逃げたがっておるのじゃ。
あれはヨースケなりの逃避行動じゃ。今は好きにさせてやらぬと、いずれ物理的にヨースケはそなたから逃げ出すぞ。」
「何ですって!」剣聖は気勢を上げた。だが少なくとも魔王の話を聞く気にはなったのか、向かいのソファーへとずしんと腰を下ろす。
向かい合った二人はしばし互いに見つめ合い、先に口を開いたのはナザリスであった。
「そなた、ヨースケの事を愛しているか?」
「……愛?」キョトンとなった剣聖タニアが疑問を口にする。「そんなの、考えたこともなかったわ。そもそも愛とは何なのかしら?」
「ははは!」ナザリスが楽しそうに笑う。「この期に及んで愛を知らずか! つくづく面白い女じゃ、そなた! まあ、少なくともそなたがヨースケに感じている感情は愛ではなかろうよ。
というかそもそも、ヨースケに今まで尽くしてきた女どもは誰一人してあの男を愛してなどおらん。
受付嬢マリーはヨースケの事を虫けらのように考えておるし、荷物持ちのカガリが愛しているのは剣聖タニア、そなたに対してじゃ。アンリエッタ姫は博愛主義者としてみなと同じく平等にヨースケに好意を持っているだけじゃし、侍女ラーファは敬愛する姫を守る使命感しか持ち合わせておらん。むろん我も娼婦としての最低限の愛情をもって付き合うだけの客のようなものじゃ。
それぞれがそれぞれの利害関係の中でヨースケに股を開いてきた共感なきパートナー、それが我らなのじゃからな。
じゃが勇者ガールズの5人は違う。あのものらは勇者とやらを本気で愛しておるのだ。それが目の前で殺されたところを奇跡によって復活したのじゃから、身も心も尽くして愛そうとするに決まっている。
そなたも見てきたじゃろう? あのものら、四六時中ヨースケに対して『愛してる』だの『大好き』だの言い続けておるぞ。まあ、二言目には『キョーヘイ、キョーヘイ』と別の男の名前を呼ぶが、まあ鈍感なヨースケにしてみればどうでもよい事じゃろう。
ヨースケは今、生まれて初めて熱烈に愛され、心の底から満たされておるのじゃよ。
そこにあるのはシンパシィじゃ。『愛している』と言われ『愛している』と返す。お互いの気持ちを交換し合うことで、意識の重なりに多幸感を感じておるのじゃ。
これぞヨースケが長らく求めていた真の願望というものじゃ。我らでは決して送ってやれない、特別な感情のやり取りじゃ。
まあ、些か捻じ曲げられた心による偽りの『愛』ではあるが、ヨースケは欲しかったものを手に入れたのじゃから、しばらく好きにさせてやるがよい。
ヨースケも鈍感ではあるがバカではないから、今の状況が嘘だという事は予め気付いているはずじゃ。
このままいけばどうせ女どもはどこかで心が壊れて廃人になるから、そうすればヨースケも諦めて出てくるじゃろう。
正直言ってな。ヨースケとキョーヘイとかいう勇者が、正確から容姿からあまりにもいろいろ違い過ぎるので、認識改変させるのに脳ミソいじくりすぎたのじゃ。
あれじゃとすぐに痴呆が始まるから、すぐに5人とも使い物にならなくなるのは必至なのじゃ。」
「はあーっ。」と声を上げる剣聖タニア。「あのヨースケが愛などと訳の分からぬものを欲していたなど、とても本当のこととは思えないわね。今までそんなそぶりは一度も見せたことがないわ。」
「きっと本人も自分の望みに気付いていなかったんじゃろうな。それが今回はっきりして、一番驚いているのは当のヨースケかもしれぬなぁ。」しみじみと語り遠くを見つめるナザリス。
それから二人は語ることもなくなり、互いにあらぬ方向を見つめ合ったまま、静かな時が流れた。
廊下の先の寝室の扉の向こうからは、かすかに小さく「だあーいすきっ きょーへいっ」とか、「キョーヘイ様のためなら何でもいたしますぅっ」とか甘ったるい声がいつまでも鳴り響いていた。
勇者ガールズの皆さんは、割と1週間くらいは持ったものの、思考が完全に支離滅裂になってしまい、最後はまともに立つことすら出来なくなってナザリスの手によって全員焼却処分とされた。
骨まで焼き尽くしたナパームフレアの炎は後には何も残さなかったが、ヨースケはその最後を惜しみ、5人それぞれの遺品を土に埋めて木板を立てて墓として、毎日せっせこ掃除をしたり花を植えたりと世話をするようになった。
それからヨースケは行為のたびに、「愛してる」だとか「大好き」だとかの世迷言を盛んに口にするようになった。
剣聖タニアはこれを大変嫌がり「吐き気がする」などといっていっさい取り合わなかったのだが、ナザリスなどは慣れたもので、「我もそなたを愛しておるぞー」などと適当に口裏を合わせてやり、ヨースケは大喜びするのであった。
そんなこんなで今日も辺境は平和である。




