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絶対最強女子高生 〜わたし陰陽師ってやつです。先生、式神になってくれません?  作者: 猫の玉三郎
我こそは神なり

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【番外編】辰野のホワイトデー

 辰野はかわいらしいケーキ屋さんへ足を運んでいた。

 先月のバレンタインデーで先生方からもらったチョコのお返しをすべく近くのお店に買いにきているのだ。男性教師陣がお金をだしあってお菓子の詰め合わせを贈る予定なのだが……


「この五千円の焼き菓子の詰め合わせを五つ。ラッピングをしてほしいんですけど」


 日持ちのする焼き菓子を五千円分包んでもらうとなるとそれなりに大きい。帰りは両手いっぱいになるだろうなと思いながら待っていると、ガラスケースの中にかわいらしいお菓子を見つけた。それは色とりどりのマカロンで、贈答用なのか細長い箱に黄色いリボンがかかっている。


「すいません、そっちのマカロンも。……はい、それでお願いします」


 特に誰かにあげるわけではない。なんとなく買ってみたくなっただけだし、自分で食べる用だし。なぜかそんな言い訳を胸のなかでくり返す。


「ただいまキャンペーン中でして、一万円以上お買い上げのお客さまにはこちらをプレゼントしております。よかったらどうぞ」


 店員は大きな紙袋五つとマカロンの入った小さめの袋を辰野へ渡した。プレゼントのお菓子はマカロンと一緒の袋に入っているようだ。


 ありがとうございました、という店員の明るい声を背に受けながら辰野は外へ出た。天気はいいが風は冷たく、道行く人たちも首をすくめて足早に移動している。


 辰野もそれに続こうと歩き出したのだが、ふと意識が奥に引っぱられる。


(あ、雨竜彦……さ、ま……)


 しばらくなかったこの感覚。

 日に干したふかふかの羽毛布団に埋もれるように辰野の意識は柔らかな場所へと吸い込まれていった。



 ◇



()()


 その声に三葉はハッと振り返った。見るとすぐ近くに辰野がいるのだ。いや、今は雨竜彦か。意識して神気を抑えているようで一般人に溶け込んでいる。


「雨竜彦……どうして」

「なに、隆宗がいろいろ物色しておってな」


 両手に持った紙袋をこれ見よがしに持ち上げる雨竜彦に三葉は小さく息を吐いた。少し前から神に振り回される辰野が不憫に思えてたまらない。


「どこかで休まぬか。足が疲れた」

「先生に無断で出てきたんじゃないですか」

「そう言うな。我と隆宗は一心同体、隆宗ばかりの体ではあるまい」


 三葉は仕方なく近くにある公園のベンチへ雨竜彦を連れて行った。カフェの方がいいかと思ったが、万がいち学校関係者に見られたら辰野に迷惑がかかってしまう。目撃される危険性は公園のベンチも同じだがまだ偶然出会ったと言える。


 雨竜彦は世間知らずと言ってもいいのでベンチで待っておくように念押しをすると少し離れた自動販売機で温かいお茶をふたつ買った。


「おまたせしました雨竜彦。……って、なにやってるんですか!」


 雨竜彦は辰野が買ったであろう箱の包みを開けて中身をしげしげと見つめていたのだ。


「問題ない、これは隆宗が自分で食べようとしていたものだ。……キレイな色だな。本当に菓子か」


 それは五個入りのマカロンで雨竜彦が言った通りカラフルできれいな色合いをしていた。三葉はあきれながら雨竜彦の隣へ腰を下ろした。この神さまは見張っておかないと何かと心配だ。


「マカロンですね。わたしは大好きですよ。甘くてサクサクなんですけどネチっともしてて……中のクリームにはいろんな味があるんです。塩キャラメルも好きだけど一番はイチゴかな」


 辰野が買ったものは色から察するにバニラとイチゴとチョコ、この薄い茶色はキャラメルかコーヒー。グリーンのマカロンは抹茶かなと三葉は思う。もしかしたらピスタチオかもしれない。


「イチゴはどれだ」

「たぶんこれ」


 指で示すと雨竜彦はなんのためらいもなくイチゴのマカロンを三葉へ差し出した。


主人(あるじ)へ献上の品だ」

「もらえないですよ。先生が楽しみにしてるかもしれないし」

「ひとつ唯香に渡したからと怒る隆宗ではない」

「でも」

「ほら。早く受けとれ」

「……じゃあ、ありがとう」


 手の中にあるピンク色のマカロン。

 じわじわと熱が込み上げてくる。相手は雨竜彦だとしても見た目は辰野なのだ。ふと辰野と二人でいるような気がしてきて伏せていた恋心が騒ぎだす。


(……もしかしてデートってこんな感じでしょうか。なんだか恥ずかしいです)


 早駆けしだした心音を誤魔化すように三葉はマカロンをひと口かじる。もろい外側がさくりと音を立てて崩れ、ちいさな破片が手の中へ落ちていった。


 横に雨竜彦が動き、口元に彼の指が触れる。マカロンの小さなくずを取ったのだろう。しかしその瞬間三葉は雨竜彦から離れ勢いよくベンチから立ち上がった。


「やめてください」


 キッと睨みつけるが、雨竜彦はすずしい笑みを浮かべるだけだ。


「なんだ、気にいらんか」

「先生は絶対にこんなことしません。先生に迷惑をかけるような行動はやめてください」


 三葉だって夢見ることはある。でもそれは夢だからいいのであって、現実にしてしまったら大問題だ。


「なんと小難しい主人だ」


 小さく笑い、雨竜彦は優雅な手つきで茶色のマカロンを摘むとさくりと歯を立てる。


「ふむ、マカロンというものはなかなか美味だな。気に入った」


 品よくサクサクと食べ、雨竜彦は満足気に両目を閉じた。その間も三葉はむすくれた表情で立ちっぱなしだ。先ほどまであった甘い雰囲気も剣呑とした空気も吹き飛んでいってしまったようだ。


 雨竜彦は瞳を閉じたまま機嫌よさそうにつぶやく。


「……さて、甘味も堪能したことだしそろそろ引っ込む。あやつも来ているようだしな。ではまた」


 閉じていたまぶたがゆっくり開くと、そこにもう雨竜彦はいなかった。代わりに辰野が目覚めてぼんやりとしている。すぐ近くにいた三葉を見つけるとはっと体をこわばらせた。


「ごめん、三葉」

「大丈夫ですよ」


 中からなんとなく眺めていたので状況はわかるらしい。辰野はあわてて立ち上がったと同時に遠くから声が聞こえる。


「雨竜彦さまー!」


 それは大きく手をふりながらこちらへやってくる紺野だった。




 実はバレンタインにちゃっかりチョコをプレゼントしていたらしい紺野もマカロンのおすそ分けにあやかっていた。「隆宗さんからお返しを頂けるなんて」と満足そうにする紺野の横で三葉がほほをふくらませる。せっかくの機会を邪魔された気分だった。


 三十分ほどあーだこーだと話をしながら、結局三人で駅まで歩いて帰ることになった。

 もし辰野と三葉ふたりだけだったらこうやって並んで歩くこともなかっただろうから、紺野の存在に複雑な胸中だ。


 もうすぐ駅につくかという所で電話がかかってきたようで、紺野はふたりから少し離れて通話をはじめた。それまでは三葉と紺野がにぎやかに話してたのですっと静寂が訪れる。


 なんとも言えない空気のなかふたりで歩く。

 すると辰野がおもむろに個包装のお菓子を差し出してきた。


「これ。そこのお菓子屋さんがおまけでくれたんだけど」


 まるいクッキーが三つほど入っている。「紺野さんには内緒な」と言って困ったように笑う辰野に、三葉の心臓は今日でいちばん高鳴った。




 ◇




 自宅アパートにて、辰野は淹れたてのコーヒー片手に昼間買ったマカロンをしげしげと眺めていた。


(よく見かけるけど初めて食べる)


 結局手元に残ったのはひとつ。本当はふたつ残っているはずなのに、いつの間にか消えていた。これは三葉の式神にやられたかもと辰野は思う。あの食い意地がはっているタヌキだ。


 マカロンの色はうすい茶色。

 思いきってひと口かじるとキャラメルの風味が鼻を抜ける。


(……あー、甘いなコレ)


 すかさず熱いコーヒーをひと口飲むと、なんとも言えない幸福がわき上がってきた。



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