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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第八章 海上編

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操り人形

前回のあらすじ


曖昧でも構わないと証言を促す晴嵐。すると海賊は、海賊仲間に言えなかった心情を明かした。どうもゴブリン島のゴブリン共に、自分たちが利用されているのではないか? と疑念を持っていたようだ。取引があまりに破格過ぎるのと、これは証言者の海賊、ケンジの個人的な感覚によるものだが……サイボーグゴブリンから悪意を感じていたらしい。しかも機械化ゴブリン達は、こちらのゴーレムめいた喋り方だったと言う……

 感情にまつわる表現は、どうしても曖昧にならざるを得ない。個人で感じた事を言語化し、その上で他者に伝えるのは、どれだけ慎重になった所で誤解が生じるケースがある。コミュニケーションの大前提ではあるものの、それでも慎重になるのは尋問対象の人柄だろうか? だからこそ、尋問官の二人も急かしはしなかった。

 やがて整理が出来たのか、捕縛された海賊のケンジが語り出した。


「なんて言えばいいかな……サイボーグ化したゴブリンから、ゴブリンそのものの意志を感じられなかった……気がする」

「どういうこっちゃ?」

「ちょっと変なたとえ話になるけど……仮にゴブリンが喋れるようになったとしたら、蛮族めいた感じになると思うんだ。こう、下品と言うか……野蛮と言うか……」


 ヒルアントも無言で頷いているあたり、やはりゴブリンは知的な存在とは言い難いようだ。短絡的で野蛮、そして暴力性と悪意を隠す気が無い存在。彼らが言語を獲得したとして、知的な会話が成立するとは誰も考えない。しかし――


「でもアイツ、下卑た喋り方じゃなかった。ゴブリンらしさが感じられなかった……って言っても、普通ゴブリンは会話できないから、変な表現かもしれないけど」

「いや、言いたい事は分かる。あいつら中々に残虐な奴らじゃよ」

「セイランも知っとんの?」

「聖歌公国と緑の国間での戦争で見た。動けない兵をオモチャにしておったよ」


 この戦争で、傭兵として参戦していた晴嵐は……『悪魔の遺産』で武装したゴブリンの乱入を目の当たりにしている。あの時奴らは両陣営をぐちゃぐちゃにしたが……戦闘不能になった兵を、嬲るように追い打ちした場面を見た事がある。


「奴らに言葉を与えた所で、良くて山賊モドキになるのが精々じゃろう。そういう認識があるから、ヒルアントも最初信じなかったんじゃないか?」

「せやな」

「俺だって上陸するまでは『ホラ吹くんじゃねえよ』と愚痴ってたっけ……普通のゴブリン共もいたけど、だから余計に際立きわだってた。まるで別の生き物だったよ」

「通常個体は野蛮性を発揮しなかったのか?」

「全く。なんつーか……金属化したゴブリンに怯えてるような感じ。ありゃ相当強い恐怖でしつけられてる。俺もムササビやってたから分かるぜ」


 新型の悪魔の遺産を装備しているなら、圧政や独裁も可能だろう。加えて知力にも差があっては、通常のゴブリンに勝ち目はない。数回頷く晴嵐の前で、さらに気になる事を話した。


「さっきも話したが、喋り方そのものはゴーレムが近い。感情の通わない淡々とした……あの独特な言い回し。けど……どうも声色の奥底に、ほんのちょっぴりだけど……誰かの気配がするような……」

「それがよく分からへん。セイラン、お前は?」

「これだけではほとんど断言できんが……一つ言えそうなのは『サイボーグ化したゴブリンは、その個体の意志や人格を失って』いそうな気がする」

「なんやそれ?」


 この場において、一番話についていけないのはヒルアントだろう。海賊は『実物』を目にしており、晴嵐は地球由来の知識がある。もちろん晴嵐にとっても異常事態で、多分に憶測を含んでいるが……なんとか向こうの情報を絞り出して対応した。


「操り人形のような状態かもしれん」

「…………なんでそう思ったん?」

「まず言動と行動がおかしい。通常のゴブリンのままであるならば、同族に対して強すぎる圧政をするのは違う気がするし……誰かと取引するより、自分たちで新型を使って暴れそうな気もする。要はゴブリンらしくない」

「そこまではついていけるで。で?」

「向こうの技術では金属で構成されたカラクリ……機械と言うんじゃが、それを遠隔で制御する技術自体はかなり進んでおった。下準備や機器の性能にもよるが、物によっては千キロ超えても操作できたと聞いている」

「…………アカン。急にわけわからんくなった」

「……まさか!」


 言葉と裏腹に呆れる金髪エルフと裏腹に、海賊の男は気が付いたようだ。晴嵐はケンジと目を合わせて頷く。


「俺が感じた、気持ち悪さや悪意ってのは――」

「恐らく……改造されたサイボーグゴブリンは、何者かに遠隔操作されている。別の誰かの意志、誰かの精神によって。ケンジが感じておったのは、ゴブリンを操作する誰かの意志や意向、そしてソイツが発していた悪意じゃろう」

「誰って誰やねん!?」

「分からん。分からんが……犯人ならアタリが付く。向こう側の知識や技術を継承した誰かか。いや、このパターンの場合は……まさかロボットがご主人様の命令を……?」


 後半はボソボソと独り言めいた呟きになり、内容含めて聞き取れる奴はいなかった。晴嵐とて完全な確証は持っていない。ぐるぐると思考が頭の中を回る中で、海賊の男が発言を続けた。


「あの……島の奥に、扉があるって話をしましたよね?」

「新型を使うための『処置』をする場所やったな。そこから新型も出て来るって話やったが……」

「そこに閉じこもって、誰かがゴブリン達を遠隔操作しているとか……あります?」

「ある。準備は必要じゃが、聞く限りの技術水準なら……可能だ」


 短く鋭い断言は、ほとんど確信に近い事を暗示している。剣呑な晴嵐の眼差しは、他の二人に沈黙を強いたかのようで、口を挟めない。

 しばし無言の時間が続き、二人の視線を浴びる中……向こう側の知識がある男は、暗い眼差しが鋭く光っていた。

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