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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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検分開始

前回のあらすじ


会談場所に到着し、陸に上がる晴嵐。何かを思い出せないクマノから、老人魚のガミウメに案内役が引き継がれる。水中で使用できる銃器の引き渡しと検分、その相手の私掠船の面子は『獅子のような女獣人』と『大柄のオーク』の二人……晴嵐がホームステイする羽目になった原因、スカーレット私掠船団の二人だった。

 ここに案内した人魚のクマノが『何か忘れている気がする』と言っていたのは、今日接触する私掠船の面々の事だろう。そもそも晴嵐が人魚族のホームステイする羽目はめになったのは……彼が東国列島に向かう際、乗船していた客船が海賊に襲われた事が始まりだ。

 運悪く晴嵐も交戦せざるを得なくなり、その戦闘に私掠船団が介入。当時の晴嵐は『海賊と私掠船の差を知らなかった』のもあり、彼らとも刃を交えた。特に目の前の……獅子のような獣人は、銃を突きつけ、突きつけられ、脅し脅された間柄である。意外だったのか、ガミウメが両者を交互に見て訊ねた。


「……お知り合いで?」

「うふふ……そうね、熱い駆け引きを繰り広げた仲よ」

「お嬢、また誤解を招く表現をして……」

「何よ? 間違った事は言ってないわよ? ねぇ?」

「絶妙に嘘ではないが、その言い回しは意図的じゃろ……」


 いちいち色っぽい動作をするせいで、この女は周囲に誤解を振りまく。確信犯な所がより質の悪さを引き上げていた。老人魚族も渋い顔だが、慣れているのか軽く流す。


「相変わらず恋多き方ですな」

「まぁね! みんなアタシの嫁で旦那だから!」

「……刺されてしまえ」

「うっ! 古傷が……!」

「お嬢は既に二桁以上刺されている。こういう病気だと思ってくれ……」

「経験済みか。それで治らんなら、もう仕方ないの」

「……さて、緊張はほぐれましたかな? そろそろコイツの検分を始めましょう」


 脱線の気配を感じた老人魚が、三人の会話を遮る。オークの男が頷き、不満げな獣人娘を抑えて発言した。


「そうですね。こんな事に時間を使いに来た訳じゃない。この『新型』の引き渡しと検分が今日の仕事です。お嬢?」

「ちぇっ。それじゃお仕事をして……話は後で、ね?」

「……分かったよ。代わりに、今この場で、遺恨の話は無しだ」

「いいでしょう。あなたとモメるために来たわけでもない」


 オークの大男……晴嵐への狙撃を試みた男が、渋々ながら了承する。腑に落ちない感情の処理に追われているのだろうが、正直気持ちは晴嵐も同じだ。

 こうしたトラブルを避けるために、ホームステイで時間を使って、ほとぼりをますのが狙いだったのに……今日の接触で全部台無しである。もうなるようになれと諦め、晴嵐は求められる役割に徹する事にした。

 ――晴嵐は『新型』を手にした経緯を話した。ホームステイ中、密漁船と遭遇し……通報した所、それを察知したセイレーンが襲い掛かって来た。そいつの一人から奪い取ったと、何一つ包み隠さずに。


「他にコレを持っている海賊セイレーンはいたか?」

「確認はしていない。が、恐らくあの場にはいないだろう。攻撃されたのは、常に一方向のみじゃった」

「発射された物は見えないのでは?」

「こいつは緑色に光りながら飛んでいたよ。海じゃ視界の通りが悪いから、狙いをつけるためにそういう加工をしている……と思われる。それに二人以上いるなら、わしが組み付いた時にカバーしたはずだ。誰だって新型武器を奪われたくはないだろう」

「そうね。アタシ達でもそうする」


 既に銃器を扱った経験からか、獅子の獣人は呑み込みが早い。複数の射線の確保……十字砲火の有用性も把握している。一区切りつけると、私掠船の二人は実物に手を伸ばし触れた。


「アタシ達の方でも『新型』が出回っているけど……これは明らかに別種だわ」

「そうですね。形状に類似点はありますが、専用カートリッジ部分がもっとコンパクトでした。他にも木製部品が使われるバリエーションもありましたが……コイツは全部金属製だ」

「ワレにも分かる。その改造は海中での腐食を防ぐためだろう。木製部品なんて使えたもんじゃない」


 改めて、晴嵐も『水中で使用できる銃器』に観察の目線を注ぐ。目につくのは大型化したカートリッジ、銃器の弾倉部だ。

 私掠船の二人が述べたように、マガジン部分が異様に拡大している。試しに晴嵐が取り外して確かめると、弾倉内の弾丸が見えた。


「なんだ……この、なんじゃ?」


 ガミウメと私掠船の二人も、その異様な形状に顔をしかめた。一目見てアンバランスな印象を受ける。晴嵐がマガジンから弾丸を取り出し、私掠船の二人に手渡した。


「金属筒の下側に、火薬が詰まっているのは同じですが……」

「なにこれ? こんな馬鹿みたいに長い物を飛ばすの……?」


 仕組み自体は、晴嵐でもギリギリ理解できる。爆薬と銃弾を薬莢で固め、一セットにして持ち運ぶ方式は近代の銃器の基本だ。滅亡前の地球人が『銃弾』『弾薬』をイメージする時は、薬莢に収まった弾丸と火薬の形だろう。

 そこまでは良い。取り出した『新型』の薬莢も基本に則している。問題は薬莢・火薬部に対して、弾頭部分が大きすぎる事だ。人の小指ほどの長さの弾頭は、晴嵐も見たことがない。


「お主らが知っている武器でも、この長さは見たことがない?」

「ありません。こっちの部分は、基本後ろの金属筒より小さい。陸で出回っている新型の方は、大体コレの三分の一以下の長さでしょうか」

「専用カートリッジの形が、歪になった理由でもありそうだな……」

「少なくても陸じゃ、こんなバカでかい弾頭は使わないわ。多分だけど水中用に改造したものね。射程距離は?」


 私掠船連中は、銃器にまつわる名称を把握しているようだ。これなら、堂々と用語を使っても大丈夫だろう。


「30mもあるか怪しい。加えて精度も荒い。わしが無理な態勢で使ったのもあるが、それを差し引いても酷い。反動は比較的マシだったが、水中基準な事は留意してくれ」


 検証を続ける四名。一度対立した私掠船団だが、事が始まれば割り切っている。荒くれ者に近いけれど、大人の対応もできるらしい。


「コイツは今撃てない状態で?」

「カートリッジを外して、本体の一発も排出済みだ。確認を」

「確かに。薬室も空。銃身の方も検分します」


 オークの大男が『発砲不可』と確かめてから、銃身・銃口の調査に入る。

 覗き込んですぐ、オークは首を傾げていた。

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