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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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会談の場・輝金属養殖場

前回のあらすじ


裏の気配を滲ませる老人魚が、晴嵐とシーフロート達の場に現れる。圧をかけられながらの会話をやり過ごしていたが、最近海賊連中の間で『新型武器』が流行しているらしい。水中用のコレも参考になるからと、会談の場に晴嵐は引っ張り出された。

 約一週間後……晴嵐はある場所に連れられていた。

 同行者はレイではない。彼には今まで世話になったが、今回の一件についていけなかった。今、彼を先導しているのは……新米シーフロートのクマノである。


『すいません……時間を潰すために『ホームステイ』してもらっているのに、こちら側の都合に巻き込んでしまって』

『構わんよ。わしとしても……新型の武器についてや、海上事情に興味がある。それに断ろうにも、あの老人魚からは逃げれそうにない』

『あー……ガミウメさんですか。あの人は昔、一帯を仕切っていたセイレーンの頭目でして……今は海の治安維持アドバイザーをしています』

『……やはりカタギでは無かったか』


 あの有無を言わせぬやり方や、緩急をつけ会話のペースを握る手腕……そして時折感じる晴嵐と『同族』の臭い。人の腹の底を探り合ったり、血なまぐさい場に身を置いた者特有の凄みが、ところどころに滲んでいた。むしろアレで『一般人です』と言われる方が納得できない。晴嵐の反応に、クマノは眉を上げていた。


『知っていたんですか?』

『察したよ。相手にナメられないような立ち回りに、きっちり言質げんちを取って縛るやり方。ありゃ叩き上げの老練刑事か……界隈にどっぷりかってたが、足を洗った奴かの二択じゃった』


 クマノには言わないが……晴嵐目線、事実上一択である。全身から滲みだす『同族』の臭いが、裏稼業に属する人間と確信させていた。

 断ずる彼に、クマノは引け目を見せつつ……安心させるように言う。


『でも、今は一般人……ってほどでもないですけど、更生……とも言い切れないんですけど……そ、その、ともかく、非合法な活動に巻き込まれたり、危険な事にはならない……と思うので安心してください。場所も『輝金属養殖場』です。人目の有る場所なので、不法な行為は出来ませんから』

『なるほど』


 要は『衆目しゅうもくの目がある場所で会談する』と言っている。それに選ばれた場所が『輝金属養殖場』か。

 改めて考えても妙な名称だ。どんな場所なのか……クマノに質問しようとしたが、声に出す前に彼女が指さした。


『見えますか? あの海底火山と……そこから少し先に島が一つあります。あそこが会談場所ですね』


 まだ遠方なので、水中からは見えないが……クマノが海上に移動したので晴嵐も続く。海の上に顔を出せば、澄んだ青空と広がる海原、そこにぽつんと浮かぶ小島が見えた。

 養殖場で見た引き渡し船より大きく、行き来する船の量も多い。ここに『私掠船』の面々が混じっても分からないだろう。木を隠すには森の中とはよく言ったものだ。

 島の規模自体は小さいものの、朦々と上がる濃い煙が立ち上っている。産業・工業として成立しているのだろう。


『随分と盛んじゃないか』

『輝金属産業自体が、ユニゾティアに必須の物ですし……あの島で、養殖・採取した輝金属をすぐ精練するので』


 輝金属を養殖し、採取したものを近場の島で精練している……か。採集場所と加工所が近いのは、利便性を考えれば分からなくもない。しかしあんな離島と小さな島では、住人や食料自給が厳しそうに見える。ならば多少不便でも、大きな島か陸で加工した方が結果的に便利では? 素人質問を承知の上で、晴嵐はクマノに問うた。


『腐る訳でもあるまいし……もうちょい大きな島で加工した方がいいんじゃ?』

『あー……理由は近いかもですね』

『んん?』


 話が見えてこない。金属が腐る訳もあるまいし……と怪訝な目を向ける晴嵐に、見た方が早いとクマノがまた海中に潜った。晴嵐も続き……『輝金属養殖場』の現場を見た。

 海底にこんもりと盛り上がったモノが見える。濁った音と振動音、そして気泡が海中から立ち上っていた。視覚だけでなく、肌にも変化を感じられる。海水温が明らかに高くなっていた。


『あれは……海底火山か』

『その付近で無いと『マトイタカラカイ』が生きられないですし……目的の輝金属も採取できませんから』

『う、うん? なんと言った?』


 金属を養殖する事業自体、意味不明なのだが……『生きる』という単語まで出てきては、もう脳の処理が追い付かない。謎かけめいた内容は、海底火山に近づく事で解決した。

 海底火山の近辺に……ちょうどレイの所で見た、貝の養殖業で見たような紐が伸びている。そこに括りつけられているのは、様々な色味で光る金属。海底火山の噴煙の中でも、燻り消える事の無い輝きがあった。


『何だあれは……?』

『あれが『マトイタカラガイ』の養殖場ですよ』

『お、おぅ……つまり、どういう事じゃ?』

『輝金属を殻に纏う貝がいるんです。海底火山や噴出孔で生きている巻貝でして。それを育てて収穫してから……殻を溶かして固めると輝金属になるんですよ』


 晴嵐。これには真顔になる。

 まさか『海底火山の噴煙を浴びながら生きる貝』がいるとは。確か輝金属は、宝石の成分を利用していると聞いている。噴煙の中にも、微量だけど成分が含まれているのだろう。

 それをたっぷり浴びて生育する『殻に輝金属を作る貝』がいて……それを養殖する事か『輝金属養殖業』……?


『さ、流石に想像外じゃったわい……しかしすぐに加工する必要があるのか?』

『長い事放置していると、せっかくの輝金属が錆びてしまうらしいです。その前に陸でインゴットに加工する……と聞きました』

『はぁ~……途方もない話じゃのぅ……』


 興味深くはあるが、注力すべき事じゃない。海底火山の先にある小島に向けて、晴嵐とクマノは泳いでいった。

用語解説


マトイタカラカイ 及び輝金属養殖業


海底火山に生息する巻貝。噴煙を浴びながら成長し、殻には輝金属を生成する。人魚族はこの巻貝を育てて収穫する事で、輝金属を養殖していた。なお、採取した金属は錆びてしまうので、近場の島で素早くインゴットに加工している。

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