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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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ある申し出

前回のあらすじ


襲撃を乗り切り、シーフロート達の事情聴取を受ける晴嵐とレイ。奪い取った未知の武器に唸るが、晴嵐はこれを銃器……『悪魔の遺産』の新型と考える。通説で封殺しようとする人魚族に、つい早口で詳細を語っていると、奥から別の人物を招く結果に。

『話は聞いたよ。なんでも『新型の悪魔の遺産』が発見されたらしいね?』


 他のシーフロート達が会釈しつつ、新しい人魚族がこの場に顔を出した。白髪に髭と、分かりやすい老人である。ヒレの鱗もところどころ剥がれていて、人間で言う所の『皺』なのだろう。人魚族だからと言って、不老不死では無いらしい。ジジイがこんなところに何の用か……と、晴嵐は侮らなかった。少しだけこの老人から『晴嵐と同じ』臭いがしたから。


『君は……随分と目が速い。初見の物に、よくぞそこまで観察眼を発揮できるものだ。ワレと同年代か?』

『ガミウメさん、何をおっしゃっているんです。どう見ても彼は十代・二十代ですよ』

『気配からして……ワレと同種か同類と思ったが』

『ははは御冗談を』

『あァ?』

『ひっ……』


 一言漏らしだドスの聞いた声は、まっとうに生きた人種には出せないだろう。晴嵐の予想だが……この老いた人魚族は『昔はヤンチャだった』想像する。それが更生したか、歳を食って丸くなったか、それとも想像できないような事情があるか……背景を考察する晴嵐の『観察の目』を、老人魚は真っすぐ見透かしていた。

 晴嵐が気づくと、ほんのりとガミウメは口角を上げた気がする。他の人魚たちが気づかぬ中で、二人の間には……何か無言で通じ合っていた。互いにそれを指摘せぬまま、本題に移る。


『最近、海賊やセイレーンの出没頻度が増えているのは知っているね?』

『え? あぁ、そうですね。僕らシーフロートも引っ張りだこです』

『私掠船も交戦頻度が増えていると聞く。負傷者も増加傾向だ』

『ちょっ……ガミウメさん、彼はホームステイ中です。私掠船周りの事を話すのは……』

『馬鹿が。彼には遠慮はいらん。それぐらい見抜け』


 穏やかに話していたと思いきや、いきなり刃物のような声で詰め寄って来る。語調に強い緩急をつけて、話のペースを握るやり方か。

 周囲の人魚族が、ちょっと気の毒に思える。レイやシーフロートとしては『人魚族体験しに来た人間に、非公式組織の内情を明かすのは……』と止めようとしたのだろう。そんな彼らは圧をかけられ、有無を言わせず黙らされていた。


『彼は新型武器を手にしている。加えて……亜竜自治区で『悪魔の遺産』を見たとも証言している。それで察しろ。彼は荒事に慣れているよ』

『『『……』』』


 異論を許さぬ声の矛先は、人魚たちだけでなく晴嵐にも向けられている気がした。暗に『血なまぐさい事情を隠さなくていい』と促されたか。最大限警戒しながら、晴嵐は慎重に言葉を紡ぐ。


『誤解の無いように言っておくが――海の事情に詳しい訳じゃない。この新武器だって初見じゃよ。あくまで比較対象を知っている。それだけの事じゃ』

『ふむ……何と比較して。かな?』

『説明が難しいが……コイツより小型で、射程の有る武装だったとだけ。形状もかなり異なる』

『それだけ違うのに、どうして同じと断言できる?』

『使用感と操作感……じゃな。敵に向けて、指先を動かせば遠距離に攻撃できる武器。そして部品の多くが金属製な事か。自分で使わなければ、ここまで強くは言えなかっただろうが……』


 嘘は言っていない。

 亜竜自治区・緑の国間での戦争で使われたのは……いわゆる自動拳銃だ。地球の滅亡直前でも、十分に運用が叶う火器である。

 対して……人魚族が想像するのは古い海賊の銃器。フリント・ロック式の銃器だろう。比較すればまるで違うが、目の前にある兵器と比べれば『同じ』表現をしても問題ない。連射出来るとか、再装填が楽とか、本当はずっとずっと、利便性が高いなどなど……下手な事は口にしなかった。

 探る老人魚の目線が刺さるも、晴嵐は逸らさず、けれど飄々とした表情で受け流す。逆に視線を合わせて、腹の内を探ろうとしたが……全く読めない。しばしの無言。両者にらみ合いの時間が続くも、老人魚族が先に動いた。


『……やはり目が速い。彼らと接触させるべきだな。これは』

『ガミウメさん? 何の話です?』

『ワレと繋がりある『私掠船』の面々とだ』

『ちょちょちょ⁉ 不味いですって! いくら何でもそれは!』

『危険があるのは認める。だが……私掠船の連中が『最近不穏な動きがある』と報告を上げていてな』


 返答は曖昧さを多く含んでいて、周囲はあまり共感していない。が、本人たちだけ、現場の人間だけが感じる『確信』も存在する。私掠船の面々とこの老人魚は……言語化不能の何かを感じ取っていると判断。素人なりに、晴嵐はつついてみた。


『先ほど、海賊の活動が増加傾向にある……と言っておったが、関係する事か?』

『間接的には。どうも海賊連中で『新型』が出回っている』

『ま、まさかこの武器が……?』

『いや、全くの別物だ。しかし性能は脅威で……連続で大量に、遠隔攻撃が出来ると聞いている。彼が少し前に口にしていたが、コイツはそれの改造品か、それとも試作の失敗作か。どれかと見て間違いない』


 この老人魚族も……晴嵐と見解は近いらしい。不穏な気配はよく分からないが、晴嵐の客船が襲われたのも『増加した海賊』の影響か? 思案する彼に、老人魚族が続けて話す。


『少なくても、ワレとコネクションのある私掠船団を呼び……この『新型』を引き渡す』

『セイレーンから奪ったとはいえ、民間人に流せんわな。それじゃあ、話は終わり――』

『何を他人事のようにしている。君もその場に立ち会え』


 一歩引こうとする男に、老人魚の手が晴嵐に伸びて掴まれる。老いて皺だらけだが……岩肌のように固い手は、修羅場を潜った者特有の感触だ。


『憶測でも、素人意見でも構わん。少しでも使える情報が欲しい。あいつらもそう言っている』

『……ただのホームステイの人間だとしても?』

『使える物は使う主義だ。プライドなどクソの役にも立たない』


 逃がさない、と掴んだ手が言っている。強引な引き留め方だが……晴嵐はつい笑ってしまった。


『……何がおかしい?』

『いや、お主と気が合うと思ってな。使えるモノは道端のクソでも使うべき……ってのがわしの主義でね』

『そうかい。なら?』


 はぐらかされるのを嫌う気配……言質げんちを引き出したい気持ちが見える。逃げられない、逃がす気が無い老人魚族に対して、はっきり晴嵐は宣言した。


『私掠船連中に『コレ』を引き渡す際、わしも立ち会おう。その際、踏み込んだ質問をするかもしれんが……いいな?』

忌憚きたんの無い意見をお願いする』

『承知した。場所と日時は?』

『私掠船側の都合もあるから、この場で明言は出来ない。ライフストーンを毎日チェックしておいてくれ。追って知らせる』

『分かった』


 周囲を置いてけぼりにして、老人魚と晴嵐は約束を取り交わす。

 ――それが何を意味するのか、彼はまだ知らなかった。

用語解説


ガミウメ

老いた人魚族の人物。道楽で顔を出したわけではなく、私掠船などとも繋がりがある模様。晴嵐は同類の臭いをかぎ取っている。

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