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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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奪取

前回のあらすじ


海中で暴れる人魚族は、新武器の性能に酔っていた。射程は短いものの、圧倒的な連射力と手軽なソレを試すため、他の者が引く中、一人残って新武器を試している。光を放つ標的を攻撃し、近づいてみればもぬけの殻。油断した相手に向けて、裸身の男が迫っていた。

 晴嵐が何をしていたか……その場面を見るには、少し時間を戻す必要があるだろう。

 敵の兵装が『水中で使用できる銃器』と判断した晴嵐は、その対処として……まず、服を脱いだ。

 海中で脱ぎづらかったが、この後に起きる事を考え……手持ちのナイフで切り込みを入れる。どうせ『撃たれて穴だらけ』になるのだから問題ない。完全に切断しなかったのは、そちらの方が『ライフストーンを括りつける』のに好都合だったからだ。


(向こうは『ライフストーンの光』を目印に攻撃してくる。ならば――)


 脱いだ服の内側にライフストーンを仕込み、軽く押して漂わせる。しばらくすれば、海流に揺れた衣服から、石ころの光が零れるだろう。即席の拙いデコイだけど、夜間で視界悪い海だ。敵は漂う衣服と光源で誤認してくれる。晴嵐は少し離れた位置で静止し、事態が動くのを待った。


(あとは……ライフストーンの位置、わしの位置、敵の位置が一直線になってない事を祈るだけ……!)


 賭けではあるが、分は悪くない。三次元で位置取りが出来る水中だ。これで座標が重なっていたら『運が悪い』と諦めもつく。

 程なくして『ライフストーンを巻きつけた服』に向けて、緑色の針が殺到する。発光する弾丸……確か曳光弾えいこうだんだったか。射手が射線を把握するために、わざと弾丸を光るように加工した弾が、服を蜂の巣にした。


(あれが『悪魔の遺産』……銃器だとして、加えてガラの悪い連中なら……!)


 亜竜自治区・緑の国間で起きた戦争や、今まで集めた『悪魔の遺産』についてを推測するに……あの武器を握った奴は、間違いなく慢心する。

 圧倒的な武器、便利な道具による力を『自分の物だ』と錯覚する現象……こちらの住人はそれを『悪魔に取りつかれた』なんて言い方をしていたが、中々言い得て妙だと思う。そうして生まれた慢心は、細かな判断や思考を忘れさせるのだ。

 ――実際、優れた道具であればあるほど、使い手のつたなさを補助してくれる。だからますます雑になって……結果、つけ入る隙を勝手に作ってくれるのだ。


『――見えた』


 銃撃を浴びせ、仕留めたと誤認して……光るライフストーンに魚影が近づく。敵は光を目標物としていたようだが、今度はこちらが狙う番だ。確かに晴嵐は不慣れだが……真っすぐ突っ込むくらいなら出来る!


『ヒュッ!』

『な、何⁉』


 握ったナイフを低く構えたが、相手の腕に刺さっただけ。殺しきれなかったが、最初から敵本体は狙っていない。僅かに緩んだ敵の手から、新型武器の強奪を試みた。

 単純な刺突しか出来ない晴嵐。それにしたって、本職と比べればずっと稚拙ちせつな戦い方しかできないが……だったら『素人でも簡単に使える便利な武器』を奪ってしまえばいい。

 ナイフから手を離し、両手で『銃器』を抱き込む。後は蹴りを喰らわせて、距離を離して銃器で反撃――と手順を脳裏で描いていたが、動いたのは『脚』ではなく『ヒレ』だった。


(しまっ……!)


 分かっていた筈だった。そのはずなのにうっかりミスった。踏ん張りの効かない水中で繰り出したヒレの殴打は、敵に直撃したものの――反動で晴嵐の身体が無茶苦茶に回ってしまった。


『く――!』


 三半規管がぐちゃぐちゃになる。グルグルと回る視界の中で、驚き怯える敵の姿が映る。奴の手には何もない。晴嵐の手の中に、奪い取った銃器があった。

 敵は……武器を取り返すべきか、それとも逃げるべきか、ともかく迷いが見える。身体を安定させられない晴嵐だけど、次の一手を考えていた。

 このまま無抵抗でいたら、奴に攻撃される危険性が高い。それで銃器を奪い返されたら、確実に晴嵐はおしまいだ。

 ならば――威嚇でいいから攻撃すべきと判断。武器の性能は相手も知っている。標準も定まらないまま『新武器』を構えて引き金を引いた。


『うおっ! うぉぉおおおおぉぉおおっ‼』


 彼の咆哮と共に、濁った発砲音が響き渡る。水に反響する火薬音は、陸で使う時と印象が違った。曳光弾が海中を切り裂き、数発だが相手を掠め飛ぶ。まだ姿勢は安定しないが、相手は距離を取り始めたようだ。追撃したい気持ちもあるが、晴嵐は射撃を中断する。


(全弾打ち切る訳にはいかん……!)


 この一マガジンが切れてしまったら、いよいよ晴嵐に攻撃手段がなくなる。さっきは上手い事奇襲できたが、もう一度同じことをやれる自信はない。他の敵が来る危険性もある。遠ざかる影に銃口を向けたまま、緊張した面持ちで睨みつけていた。

 しばらく待つが、攻撃の気配はない。敵は退いたのか? それとも機を窺っているのか? 穴の開いた水着とライフストーンを回収して、神経を張っていると――


『こちらシーフロートです。通報された方いらっしゃいますか!』


 周囲の海域に響く声は、レイが呼んだ秩序の声。不法な者を取り締まる、海の警察とも呼べる者達だ。先ほどまでの襲撃者が引いたのは――『時間切れ』だからだろう。

 一瞬は罠かと疑ったが『今晴嵐が握っている武器』を知っているなら、位置を割り出されるような事はしない。無知であるがために声を出したのだろう。


『あぁ、助かった……セイラン君! シーフロートが来たぞ! こっちだ! こっちに来てくれ!』


 安堵に満ちたレイの声が海域に響く。敵意や悪意が、急激にしぼんでいくのを感じだ。これなら……窮地は脱した。そう考えていい。

 念のため武器を使用できないように……奪い取った武器からマガジンを抜き、銃器の中の一発を排莢しようとしたが、初見の銃器では無理と悟る。誰もいないであろう海上に向けて、晴嵐は最後の一発を放った。

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