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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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通報

前回のあらすじ


日の落ちた海は暗く、独特の恐怖を感じる晴嵐。帰路を急ぐ彼らだが、突如としてレイが立ち止まる。海中に垂らされた釣り針は、人魚族にとって危険な物。だから漁業は時間と場所が指定されているのだが、上の連中は違反しているらしい。レイは海底の照明塔に近づいていく……

 レイが海底の照明塔に近づいて手を伸ばす。しばし何かを念じて、何事かをぽつぽつと喋っている。この光景には見覚えがあった。そう……ユニゾティアをあまり知らなかった時期、立体旗ホロフラグが初めて起動した場面の構図とそっくりだ。


『シーフロート……聞こえるか?』


 あの照明塔も、通信機能を持つ設備らしい。何らかの事態が起きた時に、専門家を呼ぶためか。崩壊前の地球人が、警察や救急車を呼びつける様な感覚だろう。その窓口がシーフロート……海のトラブル全般を請け負う職のようだ。


『どうしました?』

『この照明塔のほぼ直上から、釣り針が垂れてきている。漁業権の確認をお願いしたい。ここは養殖場から近いし、私も普段から通勤で使うルートなのだが……』

『承知しました。最寄りのシーフロートを出動させます。少々お待ち下さい』

『お願いする』


 ひとまず通報完了。何にせよ、これで専門家が応対してくれるはず。気疲れからか、帰りたいと顔に出ている晴嵐に……レイは申し訳ないと彼に詫びた。


『少し足止めになるかな……駆け付けた人達に、状況説明しないといけない』

『ほっとくわけにもいかんか』

『上の船が移動する可能性もあるし、誰もいなかったらイタズラと誤解される危険もあるからね……』

『クッソどうでもいいような事で、通報する奴もいるだろう。そういう馬鹿のせいで普通の人間が困る』

『変な所詳しいな君……』


 この手の緊急連絡を、些細な事で使う人間は出てくる。やはり知性があると、似たような現象が発生するのだろう。状況が変化するかもしれないし、足止めもやむを得ないか。

 二人揃って頭を掻いたが、レイとしても放置は出来ないだろう。別の誰かが通ったら、同じように通報するか……気づかずに糸や針に引っかかってしまうかもしれない。シーフロートが到着するまで、ここで待機するしか無かろう。


『疲れている所悪いが、帰宅はもう少しお預けかな……』

『……今日は厄日だ』

『はっはっは……明日は君が家に一人だから、ゆっくり休むと良い』

『陸の話のネタ整理でもしておくわい……にしても、こういう事はしょっちゅうあるのか? 密漁者や違反者の出没は』


 その質問に、レイは目を閉じて考え込む。すぐに答えない所を見るに、複雑な状況がありそうだ。


『ここ最近は増加傾向と聞く。ただ、妙な点も多い』

『詳しく聞いても?』

『おぉ? 深堀りするねぇ』

『シーフロートが来るまで暇じゃし』

『そうだな!』


 半分レイ側の愚痴として、彼は海域の事を話してくれた。


『普通、密漁をするにしても『旬』を狙うのが基本なんだ。魚の質も良いし、どうせ同じ罪に問われるなら……うま味の大きい時期の方が良い』

『なら……旬の時期は取り締まりも厳しくなるよな?』

『そうだね。シーフロートも監視や巡回の頻度を上げるし、一般の人魚族にも『怪しい船影を見たら通報するように』と注意喚起を促す』

『今は?』

『この海域だと時期外れかな。もう数か月後なら、ごくたまに出没する事もある』


 レイが言い澱んだのは、彼自身にも予想外だったから。時期外れの密漁者は、晴嵐にとってもいい迷惑である。


『となると上の連中は、捕まらんように閑散期かんさんきを狙った密猟者。それとも深く考えていない素人か……』

『後者だと楽でいいな……複数人で船に相乗りして、夜釣りを楽しみに来た民間人ならすぐに話が終わる。注意勧告をして終わり! で済むけど……』


 何にせよ、シーフロートが到着するまで待つしかない。自分たちが下手に接触して、余計なトラブルが起きても困る。手持ち無沙汰の時間を過ごすしかない二人。……もし人間なら、イライラして足を鳴らしていただろう。

 こういう、何もない待ち時間は異様に長く感じる。体感で、時の経過が倍近くに感じられる。変わり映えの無い海をちらりと見ると、海中に漂うモノに変化が訪れていた。

 ――エサをつけたままの釣り針が、次々と引き上げられていく……?


『『ん?』』


 奇妙な光景だ。

 魚が食いついたなら、竿を上げるだろう。岩やゴミに引っかかっても、誤認してしまうのも仕方ない。しかし何も手ごたえが無いのに、一斉に回収が始まった? レイも首をかしげて推測を述べる。


『場所を移す気か……?』


 食いつきが悪いから、より良いポイントへの移動……釣りなら考えられなくもないが、別に竿を下げたままでもいい気がする。帆船の速力では、糸が切れてしまうほどの速度は出ない。違和感を感じるレイの隣で、晴嵐はもっと深刻な『何か』を感じ取っていた。


『これは……レイ! 離れよう。何か嫌な予感がする……!』

『え?』


 先ほどまで感じていた『深淵への恐怖』とは別の嫌な気配……彼にとって未知のものでは無く、晴嵐が嫌と言うほど対面し、いっそ慣れ親しんだモノと同種だった。焦っている彼に対し、レイは怪訝な声を上げる。


『セイラン君。話を聞いていたか? シーフロートが来るまで、ここを離れる訳にはー―』

『そういう問題じゃない! 上から、何か……強い悪意を感じる! 多分だが口封じに来るぞ!』

『は……?』


 人間の悪意。人間の敵意。滅びゆく世界で蔓延したあの臭気を、晴嵐は直上から感じ取っている。身構える彼らの所に……複数の魚影が降りて行った。

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