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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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深淵と針

ランキングに乗れました! ありがとうございます! よーし一日二話投稿しちゃうぞー! 


前回のあらすじ


養殖業の体験を終えた所に、他の人魚族が晴嵐がホームステイの人間と知った。すぐに人魚族が殺到し、陸での経験を聞きたがる。仰々しく語るのが苦手な晴嵐は疲弊するが、拙い喋りでも好評だった。これもホームステイの通過儀礼らしく、疲れた様子で日の落ちた海を泳いでいった。

 夕暮れを過ぎた海の暗さに、晴嵐は……ほんの少しだが、恐怖を覚えた。陸の面々であれば、夜道を想像するかもしれないが、あれとは比較にならない。元々海中は物が見えにくいのに、光量が落ちると数メートル先も見えるか怪しい。養殖場を出る前、レイが『ライフストーンを外に出しておくように』と忠告していたが、その意味を理解した。

 ライフストーンが淡く輝き、海中を先導するレイのシルエットを映し出す。崩壊前の地球で、車や自転車が反射板を装備するのと近い理由だろう。


『暗すぎる……よくもまぁ、こんな中を泳げるな……』

『もう少しすれば、海底部のポールも点灯を始める。セイランは暗闇が苦手かな?』

『陸の闇夜には慣れている。街でも森でも、暗がりなんて隣人みたいなもんじゃ。が……海の暗さとは仲良く出来そうにない』

『同じ暗闇なのに?』


 地上でも……夜の墓場とか寂れた道とかで『闇』に恐怖を感じる人間はいる。通らない視界、認知の及ばぬ空間に、得体のしれない『何か』を想像してしまう人種は珍しくない。

 だが晴嵐は、むしろ闇に身を隠すのが得意な人間だ。恐ろしい化け物が跋扈する終末世界で、交換屋トレーダーとして生き延びた過去がある。闇との付き合い方は心得ている。その彼が――


『言語にすればそうではあるんじゃが……全く別種の、底の知れない感じがする。本能が恐怖を訴えかけてくるんじゃよ。胸か背中か……こう、そわそわする』


 海の闇、深淵アビスと対面した晴嵐は、素直な恐怖を吐露した。風ではなく水が流れ、木の葉の擦れる音の代わりに、何かがコポッと泡立つ。この環境に不慣れなのもあるが、水や海の闇色は……独特の恐怖を湧き上がらせるものだ。

 素直に感情を吐く彼だけど、レイは軽く目を細めて言う。


『それでも君は、耐性がある方だろうね……中には軽口一つ言えなくなったり、恐怖で動けない人もいる』

『おいおいおい、わしがそのタイプだったらどうする気じゃ? せめて一言欲しかったが……』

『ナメてかかっている人もいるし、味わうまで自覚のない人も多いんだ。現にセイランだって、この闇と対面するまで『怖い』と思ってもいなかった。違うかい?』


 事実晴嵐も……夜の海と相対するまで、闇に恐怖するなんて想像もしていなかった。初体験の事を予測するのは、誰にだって難しい。


『事前説明は、さほど意味を持たないか……』

『体験して初めて、知れるたぐいの恐怖だし……中にはむしろ『親しめる』なんて人もいる。個人差が大きいし、変に脅すのもおかしな話だ』

『……もしもわしが、動けんほと恐怖していたら?』

『その時は手を引いて帰ったさ』


 三次元構造の水中では、牽引無しで闇の中を進むのは不可能。他に手段がないとはいえ、中々気恥ずかしい。強烈な恐怖に囚われなかったのを、幸運に思うとしよう。

 首元のライフストーンの淡い光を光源にして、夜の海中を進んでいく。中には光に釣られた魚が近寄って来るが、人魚族と分かるとすぐに引いた。魚たちも慣れているのだろうか、さっさと撤退していく。レイにとってもいつもの事なのだろう。特に気にせず進んでいったのだが……不意に前進を止めた。


『レイ? どうした?』


 彼が恐怖した……は考えにくい。養殖場と自宅までの道なら通いなれているはずだ。彼は晴嵐を手で制して、険しい顔で前方を睨んでいる。


『時間は……まだ漁業許可の時刻じゃない。となると……』

『すまない、レイ。何が起きている?』

『あ……参ったな。セイラン君がいるのに……前方、光の灯ったポール付近、見えるか?』

『?』


 レイが指さす先は、海底に建てられた照明塔。時刻が来たのだろう。夜闇の海を淡く照らす光が灯り、深淵を晴らしている。海中のチリが光を反射する中、キラリと垂れる銀の糸が見えた。

 糸の先には、不自然に千切られた……魚か貝か、それともカニやらエビやらの身がぶら下がっている。誰かが『釣り針』を垂らしているようだ。


『誰かが釣りをしておるのか。さっき養殖場で、天然魚獲るのは釣りが主流と言っておったな』

『あの時は説明を省いたけど……釣りに関しては明確なルールがある。時刻と海域が制限されているんだ。理由は分かるね?』


 海中に漂う、無数の釣り糸と針……この中を泳げば身体に絡まったり、釣り針が刺さる危険があるだろう。釣りでの漁獲に、場所と時間の制限があるのは――『人魚族への事故を防ぐため』か。


『こんな中を泳ぎたくないな……』

『あぁ。我々だって怪我するし、上の釣り人連中だって『かかった!』と誤認する。いい事なんて何もない』

『時間か場所を間違えたのか?』


 何も目標物の無い海上で、日も落ちた状態なら誤認も仕方ない……地球基準の考えを、ユニゾティアの人魚は否定した。


『それは……考えにくい。ライフストーンの地図機能もあるし、複数のライフストーンを用いれば……海中のポートと陸のポートを登録し方位を確認。それで簡易的に座標を割り出せる手法がある。解禁の時間だって、基本は深夜帯だ。昼間に通れない海域は、我々人魚族だって注意する。つまり――』

『不法業者……密漁者か?』

『ほぼ確定と思うが、ちょっと待っていてくれ』


 いくらルールを設けても、破る奴は必ず出てくる。危険な行為に法的措置は必要。対処を知らない晴嵐は、レイが『海底の照明塔』に触れるのを見た。

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