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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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ユニゾティアの漁業事業

前回のあらすじ


貝の養殖場に到着した晴嵐は、早速仕事に取り掛かる。いわゆる間引きの作業だが、コツは農業の間引きに近い基準。淡々と進めていると、養殖場を荒らすマダイの群れを発見。晴嵐がレイに通報すると、害獣駆除と臨時収入ボーナスを求めて殺到した。

『よぅし! 引き渡し完了! 中々悪くない臨時収入ボーナスになったな!』


 海中が充実した貝の養殖場だが、もちろん海上の設備だって存在している。大量輸送を行うには、結局のところ船の方が便利だ。海産物の人気は言わずもがな、地上でも人気がある。他国に需要があるからこそ、養殖産業のうま味が増す。だからこうして巨大な養殖場も作られる訳だ。


『船はどの程度の頻度で来る?』

『今のシーズンはぼちぼちかね。一番多いのは収穫期だ』

『ぼちぼちか。わざわざ荒らしに来た魚を引き取りに?』

『ちっちっち! それだけじゃあない。間引いた貝の買取にも出張って来る』

『?』


 晴嵐は首をかしげた。

 食材として売り物にならない、あるいはその見込みが薄いから、出来の悪い貝の間引きを行うのではないか? それに対する解答は、レイ自身も少し釈然としない様子だった。


『小ぶりな身は加工品として使われ、貝殻も……なんか、畑の肥料として使うらしい』

『あー……そうか石灰せっかいになるのか』


 どんなものでも使いよう。ゴミや廃棄物だって、加工次第では役に立つ。終末世界で、そうなる手前で、畑と向き合った過去もある晴嵐は思い出していた。

 滅亡前の地球では……贅沢な事に、自然由来のモノで育てる事が流行りになっていた。貝を細かく砕いた物は『有機石灰』として用いられる。食用品としては微妙でも、出荷物として価値はある訳か。

 納得する晴嵐の傍で、レイは事情説明を続けた。


『値段の方はお察しだが、価値が付くなら売り物になる。正直、ボーナスの方がグラム単位での値段は良いが……』

『だったら高級魚を養殖すればいいじゃ? その方が儲かるじゃろ?』

『あー……魚はどうも、天然モノと養殖で品質の差が激しくてな……』


 誰もが思いつくであろう事だが……晴嵐としてはよく分からない言い分だった。

 絶望的な世界を生きた老人は『食える物があるんだからありがたく思え』の気持ちである。品質が良いに越した事はないが、飢餓よりマシと感じるのだ。

 ただ……その差については、納得のいく説明がなされた。


『養殖だと……どうしても魚の運動量が落ちるし、栄養管理しているとはいえ、エサにも偏りがある。結果として、天然モノ特有の香りや身のハリが出せない。養殖業が安定しても、これらの理由から天然魚の需要はまだまだあるのさ』

『天然魚の捕獲は、さっきみたいに貝や海藻の養殖場を荒らす奴を?』

『いいや、全体としては少ないらしい。未だに陸の民族による釣りが主流だよ』


 まさかの事実。魔法で発展したユニゾティアでも、釣りで魚を獲っているらしい。


『人魚族は天然魚を獲らんのか?』

『種類によるな。機動力のある魚を捕らえるのは、我々も疲れる。そうした面からも、なんだかんだで釣りの有用性は高い』

『それでも養殖はしておるんじゃろ? 何故人魚族で独占しない。水中を自由に動けるのだから、色々と楽なんじゃ……?』

『もちろん楽な面もあるが、最大の難点は『水揚げが非常に面倒』なんだよ。我々人魚族単体だと』


 水中を生活圏とする人魚族。だからこそ貝の養殖業が捗ったが、魚相手だとそうもいかないらしい。


『養殖した所で……育った魚を獲るには、どうしたって追い回す事になるだろう? さっきのは天然モノな上、害獣駆除だからやる気も出たが……値のつきにくい養殖物相手に、毎回やるのはなぁ』

『労力の割に微妙なのか』

『あぁ。それに陸の民族なら、巨大な網で引き上げてしまえばそれで済む。出荷や輸出も楽だから、魚類の養殖は陸の民族と共同でやる事が多い。基本的に魚の養殖は沿岸部でやって、貝類や海藻類はやや遠洋で人魚族の専業かな』


 人魚族単独で成立する事業と、人魚族と他種族での共同事業があるなら……後者を陸に近い地域でやるのは当然だ。それでも人魚族に需要があるらしい。


『魚の養殖で、人魚族はどう立ち回る?』

『やる事は貝とそんなに変わらない。水質や健康状態のチェックに……あと、水揚げの際に追い込み漁の要員かな。捕獲するのは面倒だが、追い込んで誘導するだけなら楽だ』

『陸の面々はさほど働かんのか?』

『そうでもない。魚の養殖の場合、エサや環境整備の用意が大変でな。他にも金属の加工や機材の調整は、圧倒的に陸の面々に任せた方が楽。そうして用意された機材の搬入や設置は、我々人魚族が行う方が効率良い』


 水中には水中の、陸には陸の利点があり難点がある……か。環境の違いを嘆くより、持ち味を生かす方向に舵を切ったのだろう。


『互いの得意な面を生かし合った方が、ずっと効率がいい訳じゃな』

『うむ。これは養殖業に限らず言える事だな。海には海の、陸には陸の良さがある。だからかな……各民族が対立していた千年前でも、人魚族は他種族との交流もあったし、融和にも積極的だったと聞いている。互いに種として違い過ぎたからこそ、協力する利点や美点にすぐ気が付いたそうだ』

『……なるほど』


 その歴史は……うっすらと学んだような気がする。千年前の各種族の対立でも、比較的人魚族は友好的だったらしい。お互いに生活圏も違うし、協力した方がはかどる事も多い……か。


『勉強になるのぅ……』


 心からの言葉に、レイも楽しそうに笑う。

 その後も貝の養殖業を手伝い、今日一日分の仕事を終えた。

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