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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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戦闘終息後

前回のあらすじ


 金髪エルフの視線が、晴嵐の背後に注がれていると感じ……想像力を働かせた彼は、背後からの狙撃を察知する。反撃で奪ったリボルバーの引き金を引くが、弾丸が発射されない。弾切れを悟った彼は投げ捨て、船からの脱出を試みた。しかし運悪く海賊船の火薬が爆発を起こし……バランスを崩した晴嵐は海に落ち沈んでしまった。

 客船・桔梗を取り巻く戦闘は沈静化した。

 襲撃を仕掛けた海賊は見事に返り討ち。敵船は沈没したし、客船側の被害も……早急に合流した私掠船のおかげで最小限に済んだようだ。


「すいません。助かりました」


 やっと状況が安定したので、客船の女船長と強烈な個性の三人組が対話していた。もちろん武器はしまっていて、戦闘の気配はない。ピアスだらけの金髪エルフが、気安くヘラヘラ笑いかけていた。


「へへへっ! ホンマ運が良かったなぁ姉ちゃん! たまたまワイらが近場にいて!」

「ヒルアント? 言う事あるわよね?」

「へ? なんかあったかいな?」


 すっとぼける部下に対し、女獣人がポカッと頭を殴ってから下げさせる。彼女の顔には青筋が浮かんでおり、仲間であろうとご立腹のようだ。


「最初、この馬鹿が誤射してごめんなさいね。アレが無かったら、ちゃんと回避行動取れたかもしれないのに」

「え? あっ⁉ ヤベッ‼」

「忘れていたのか……本当に申し訳ない。お嬢、ここは俺達の船で曳航えいこうしましょう。安全面でも、運航スケジュールの面から見ても必要かと」

「そうね。けれどカタギ……お客さんたちは大丈夫?」

「『我慢してもらう』と言ってしまうと、私掠船の皆さんに失礼ですけど……舵の損傷も無視できる状態じゃありません。魔導式の推進スクリューは節約したいので」 


 魔導式の推進スクリューは、非常時や火急の事態に用いる物だ。あまりエネルギー効率も良くなく、多用すれば経費が嵩む。だからここは、私掠船の面々に頼るべきなのだが――その割に歯切れが悪い。事情は明白だった。


「難儀なモンや! ワイらと海賊の区別つかんのやろ?」

「と言うより、そうでないと意味がないからなぁ……正規軍が『悪魔の遺産』を運用する訳にはいかない。俺達私掠船は、非正規の戦闘部隊じゃないと」

「本当なら私達の船に、自衛用の兵装を積むべきなのですが……」

「ま、湿っぽい事情ってヤツよね」


 獣人の顔が憂いを帯びる。女船長が眉をひそめたが、それを尋ねる事は出来なかった。他の船員が報告しに来たから。


「レオぇ、ミッチー帰って来たよ」

「帰還シました。スいません。右腕ヲ損傷しまいまして」

「また無茶したの? 少しは自分を大事にしてって言ってるでしょ?」

「イえ。レオ姫の為なら火の中水の中デス」

「本当に飛び込むヤツがおるか! ったく! ミッチーは行き過ぎやでぇ!」


 等身の低いゴーレムが、左手だけをぶらぶらと動かしている。この人物も私掠船のメンバーらしい。話を割って入った彼は、声のトーンを落としていた。


「レオ姫『例の兵器』デすが……パーツの一部を回収できました」

「「「!」」」

「完品ハ確保できませんでした。申し訳ありません」

「いやいや、よーやった! 大金星やでぇ‼」


 金髪エルフがわしゃわしゃとゴーレムの頭を撫でる。残った腕を振り回して、照れくさそうに身をよじった。他の二人も気持ちは同じなのか、次々と仲間を褒めちぎった。


「十分だろう。実物を見ている俺達なら、時間をかければ得られる物もあるはずだ」

「後は本拠を落とせるかだけど……っと、ごめんなさい。ここで話す事じゃ無かったわね」

「お互い、色々と事情がありますから」

「そうね。今はこの場の話をしましょう。他に何かある?」


 女船長はしばし考え込むと、ハッとして顔を上げた。


「そう言えば……乗客の一人が行方不明だそうです。船員が報告を上げていました」

「どんな人?」

「確か……外套を纏っていて、妙に目つきの鋭い若者と聞いています。ご存じないですか?」


 特徴を聞いた私掠船の三名は、すぐに反応した。


「姫ェ‼ 間違いなくアイツやないかい!」

「ね? だから言ったでしょ? カタギだって」

「本当にそうだったのか……?」


 ふふんと自慢げな獣人娘に対し、部下の二人は納得いかない様子だ。反応した彼らに、女船長が問いかける。


「何か心当たりが?」

「なんでか知らんが、ソイツ海賊船におってなぁ……あろうことか姫を人質にしおったわ! しかもマルダの狙撃を避けおったし……ホンマにカタギか?」

「アレは……ヒルアントがマルダへ熱い視線を送っていたからでしょ? すーぐ表情や態度に出るんだからアンタ……」


 指摘された金髪エルフが、目をそらして口笛を吹く。獅子のような獣人娘が呆れる中、オークの大男は渋く唸った。


「ですがお嬢。それだけで察して回避するのは、いくら何でも勘が良すぎる気が。カタギに思えないってヒルアントの意見も、全くの的外れとは……」

「そうねぇ……話を聞きたかったけど……」

「もしかして、その」

「あぁいや、ってないわよ? ただ海に落ちちゃって……あのタイミングだとシーフロートの人たちが、海中に引き込んでいそうなのよね……」


 ちらりと海側を見る面々。女船長も頭を抱えた。


「困りましたね……セイレーンは陸に引き上げて、海賊は海中に引きずり込んで無力化するのが慣例ですが……」

「今回は裏目ったか……ただ、海賊側と面識がない事がすぐに判明するはず。誤認逮捕と分かれば、比較的すぐ釈放されるだろう」

「どうやろ。アイツ気配がコッチ寄りやからなぁ……」


 唸る彼らの中、獣人娘だけが意味深な笑みを見せていた。


「なーんかまた会いそうな気がするのよね。劇的な再会ってヤツ?」

「出たよ。お嬢のロマンスセンサー」

「結構当たるから、馬鹿に出来へんのがな……」

「ま、そんな未来の事より、今は今の仕事をしましょ。私達スカーレッド私掠船団は、客船桔梗を『青頑岬』まで曳航・護衛するわ。経費は後で上に請求するから、あなたは……そうね、経緯書を書く用意をしておいて。アタシ達は自分の船に戻るとしましょ。カタギも怯えてるし」

「分かりました。ありがとうございます」


 ペコリと船長が頭を下げ、私掠船団の面々が客船から引き上げ始める。前方には私掠船団の船。海上・海中から魔力で伸びた鎖で繋ぎ、牽引する形だ。

 自分の船に戻る直前、一度だけレオは振り返る。


「それはそれとして――ねぇ、あなた今晩予定ある?」

「えっ? いやその……ない、です、けど……」

「うふふふふ……素敵な店知ってるのよ。だから――」

「お嬢! 仕事の後にしてください!」

「あっ⁉ ちょっ! 引っ張らないでよマルダぁ!」


 引きずられていく獣人娘を、何度もペコペコと頭を下げて引きずるオークの大男。

 愉快な三人組の姿に、つい女船長も笑ってしまうのだった。

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