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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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船長の目線

前回のあらすじ


乱戦になる海賊船。隙を見て脱出を試みる晴嵐。しかし小柄な金髪エルフに道を阻まれてしまう。拮抗する両者の間に……

「二人ともそこまでよ」

「「!」」


 その声を聴き、晴嵐もエルフも動きを止める。ちらりと視線を向けた先には、獣人の女が晴嵐に向けてリボルバーを向けていた。

 何故そんな余裕のある事を――と周囲に気を張ると、戦闘が落ち着きつつあるのに気づく。このエルフと対峙している間に、海賊側は押されてしまったようだ。私掠船の連中に船内を制圧されつつある。戦闘に時間を使いすぎたのだ。

 しかし解せない。この状況なら即座に撃たれそうだが……何故わざわざ警告を挟んだ? 敵対していたエルフも同じ事を考えたのか、味方と思しき女に抗議した。


「なんや姫ェ! ぇ所やったんじゃから邪魔すんなや!」

「ヒルアント……アンタねぇ、それぐらいにしておきなさい」

「アァん⁉ 何抜かしとんじゃ!?」

「カタギ相手に、ムキになるなって言ってるの」


 なんだ? 仲間荒れか? 獅子のような獣人の視線はエルフに、銃口は晴嵐側に向けられている。下手に動けないが……じっと耐えていればチャンスもあるか? 気を張ったまま会話に耳を傾ければ、エルフ男の抗議が飛んだ。


「ふざけんなや! ワイと一対一タイマン張れる輩がカタギな訳あらへんやろ!」

「そうね。アンタと踊れるのは普通じゃない。確かにワケアリなんでしょうけど……そんな奴がこんな格好しないでしょ。どう見たって海賊のよそおいじゃ無いわ」

「ボスや幹部クラスなんとちゃうか⁉」

「だったらますます、自分の装備に気を使うでしょ」


 ……確かに奴らの制服ではない。目立つ外套といい、耐水性の低い衣装といい、船員らしくない恰好と言える。事情を説明する余裕は無かったが、これだけ激しくやり合った後で交渉する気か? それとも油断を誘う気なのか? 女の真意が読めず、晴嵐は身持ちを固くしつつ、彼らの様子を窺う。


「だったら何者やねんコイツ⁉」

「さぁね? でも興味があるわ。と・て・も」


 女は晴嵐に向けて笑った。とても蠱惑的な……色気を感じさせる笑みだと思う。顔たちもそれなりに整っていて、人によってはクラリと来るかもしれない。なのに――晴嵐の背筋は、一斉に鳥肌を立てていた。

 鋭い殺気ではない。悪意とも言い切れない。なのに妙に生々しく、ねっとりと絡みついてくる気配……初体験の不気味さに、晴嵐はほとんど反射的に動きそうになった。

「おっと」と獣人がリボルバーを構え直し、晴嵐の挙動を制止する。油断なくリボルバーを向けたまま、まるで値踏みするような目線で、瞳に笑みを浮かべているのに……爛々と輝いている。

 理解が出来ない。初めて遭遇する性質の女に、晴嵐の緊張は最高に達する。ガッチガチに緊張しながらも、仕掛け時を探し構える彼の様子を――ますます女は気に入ったらしい。油断なく、けれど友愛というか親しみというか、ともかく敵意以外の何かを浮かべて歩み寄って来た。


「んー……惜しいわね。もうちょっと顔が好みだったらなー……」

「……顔?」


 急に何を言い出す? 脈絡が全く読めない。確かにコイツ、晴嵐の周囲を回りながら、彼の全身に視線を注いでいた。その間もずっと、先ほどから続く生々しい嫌な気配を感じられる。反応が遅れそうだし、下手な事を言って刺激したくないが……黙っているのも、晴嵐には限界だった。


「これから吹っ飛ばす奴の顔を気にするのか?」

「それはアンタの態度次第かしらね。ま、顔はともかくアンタみたいな奴――」


 獣人はそう言いながら、晴嵐の胸元に銃口を押し付けつつ――耳元で甘く囁く。


「結構好みよ? あなた」

「⁉」


 瞬間、身体中に鳥肌が立った。命を握られているからではない。先ほどから感じていた『生々しい気配』の正体に、やっと晴嵐は気が付いたのだ。


(まさかコイツ……⁉)


 晴嵐をそういう目で見ていたのか? 先ほどまでの妙な……値踏みするような目線の意味に絶句する。少し気を抜けば命を落とす船上に身を置いて――その好みの相手の心臓に、銃を突きつけておいて⁉


「……こんなふざけた告白があるか」

「ドキドキしたでしょ?」

「動悸でブッ倒れそうだよ」

「あらま、吊り橋効果が効かないの?」

「死神とはご近所さんでね。色恋も興味ない」

「ふふふ……手ほどきしてあげてもいいけど?」

「断る」

「ツレないわねぇ……」


 冗談めいているが、先ほどから感じる『生々しい目線』からして本気だろう。銃口を突きつけられたまま、至近距離で言葉を交わす二人。つけ入る隙はありそうだが、一手間違えればコイツは引き金を引くだろう。晴嵐は表面上ふてぶてしいが、本音を言えば気が気でない。ここから脱する方策を練る中、小柄な金髪からキャンキャン喚いた。


「姫ェ! まさかソイツを引き入れる気やあらへんやろな⁉」

「文句あんの? ヒルアントだって似たような経緯でしょ?」

「分かっとるわい! けどなァ……‼ なんか上手くいえへんけど、ソイツおっかないヤツやぞ!」

「アンタがそれ言う? 狂刃のヒルアント」

「ワイとは別方向でヤバい言っとるんや!」


 こいつら、晴嵐を無視して何を話している? まさか晴嵐に『仲間になれ』とでも言うつもりか? しかし銃で脅されている以上、強く拒絶すれば殺されるかもしれない。変に口を挟む事も出来ず、彼らの会話を聞き届けるしかない。


「言いたい事は分かるわ。アタシの食指が微妙に鈍いのも、それが理由の一つでしょうね」

「やったら!」

「でも……そういうスリルも含めて、このひとを使ってみたいのよねぇ」


 晴嵐の意向は完全無視で、船員同士で勝手な事を言い合っている。けれど突きつけられたブツに油断は無い。きっかけを待つ晴嵐に――強烈な破裂音と衝撃が走った。

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