表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

664/739

砲の響く海原

前回のあらすじ


敵の海賊船から砲撃を受け、逃げ回るしかない客船。敵は平気で大砲を使ってくるが、客船側はまともな対抗手段がない。本来なら人魚たちが抑止力になるのかもしれないが、先のセイレーン襲撃で疲弊している。さらに別の船まで迫り、回避しきれず被弾してしまった。

「っく!」

「‼」


 素人でも分かる。今のは明らかに『嫌な感触』があった。これまでの至近弾とは訳が違う。明らかに『喰らった』と感じられる。素人の晴嵐が察知している事を、もちろん船員も察知していた。


「マズい……船長!」


 船員が慌てて駆けだせば、他の船員たちも確認に入る。向かうのは操舵室。あえて扉が開けっ放しなのは、少しでも周囲に手早く伝達するためか? 無関係の乗客に聞こえる可能性もあるが、船全体に走った衝撃は隠せまい。被害状況について報告が入った。


「船尾に被弾! 舵をやられました!」

「ピンポイントで直撃かよ⁉」

「ダメです! 操舵の感覚が……! このままでは漂流します!」


 船の方向転換を司る部位を損傷してしまったらしい。進路を調整できなければ、波の流れ、風に流されるままになってしまう。敵船から逃げられず、このままでは拿捕だほを待つばかり――

 いよいよ覚悟を決めねばならないか? しかしこんな海原でどうすればいい? 彼は泳ぎに自信は無い。仮に泳げたとしても『人魚族』に遠く及ばないだろう。焦りばかりが募る中、女の船長が素早く指示を出した。


「補助動力の魔導式スクリューの出力を上げて! それで推力と舵を確保!」

「ですが魔力の消費が……!」

「言ってる場合じゃ無いわ! 非常時に使わなかったら何のための装備なの⁉」

「――了解! 出力最大!」


 緊急用の手段を用いて、何とか窮地から脱しようとする船員たち。まだ絶望するには早いのか? 聞き耳を立てていると、どこからかノイズかかった音声が聞こえて来た。


『――える? 答えて! さっき応援要請したのはそっち!? こちらはスカーレッド私掠船団! 客船! 応答せよ!』


 よく通る、高い女性の声だ。必死に呼びかける音声は、大きなラッパのような器具から伝わって来る。その傍にある別の金属管に向けて、船員が何か操作をして答えた。


「私掠船……! 助かった! こちらは客船桔梗! 後方から海賊に追われてる! さらに側面から別勢力が――」

『ごめんなさい! あなた達から見て側面の船が私達! ヒルアントの馬鹿が間違えて砲撃指示出したの! 逃げ切れる!?』

「ついさっき操舵をやられた! 魔導式スクリューを駆動させているが……直前の襲撃でシーフロートも疲弊している! 正直厳しい! 援護を!」


 話の相手は味方らしい。またしても分からない単語が飛び交うが、船長の女性が通信を変わった。


「その声は……レオ・スカーレット?」

『何? アタシの知り合い?』

「えぇと……そ、その……す、すいません。この場ではちょっと……言いにくくて……」


 船長は何故か頬を赤らめて、悶々と口元を尖らせる。周囲の船員が戸惑う中、相手の女は突如として気合を入れた。


『――オッケイ、今ので全部理解したわ! 野郎ども! 『アタシの女』に手を出したクソ海賊をぶちのめすぞ!』


 何か聞き違えたのだろうか? 話し相手は女、船長も女、なのに『アタシの女』と吠えた気がする。爆薬と衝撃で自分の頭がおかしくなったのか? 頭がグルグルと回る中、帽子の無い船員が男の元に戻って来た。


「なんとか救援が来た!」

「右側の船は味方なのか?」

「間違いない。私掠船だからな! 最初のは……こっちを敵と間違えて誤射ったらしい! ったく、紛らわしい事をしやがって……!」


 自信満々に船員が言うけれど、晴嵐には違いが分からない。真っ赤なワイン色のマストに、金色の獅子を刺繍した旗は、素人には海賊と同一に思えてならない。彼が不審な眼差しを向けるが、説明する気は無さそうだ。


「ともかく! あの二隻がドンパチ派手にやっている間に、俺達は離脱を試みる! アンタもそろそろ客室に戻った方がいい! 流れ弾に当たっちまうかもしれねぇぞ!」

「…………」


 本当に、今度こそ、晴嵐に出来る事は何一つなくなるらしい。この船員たちだって戦闘に加われず、ただ敵から逃げ惑うしかない状況。乗客の晴嵐は推移を見守るしかないのか? 何か言い返そうと顔を上げた時には、既に船員は消えていた。

 構っている時間さえ惜しいのだろう。そして晴嵐にも、無理に引き留める方が足を引っ張ると理解する。何か出来るとしたら、無言で静かに事態を観察するしかない……か? 無力な自分に唇を結んで、けれど客室にも戻れず、甲板の縁に立って海を見た。


『おラァ‼ アタシの女に何しとんじゃ‼ アァンッ!? ゴミカスぅぅぅぅううぅうぅうっ‼ 死ねぇぇええぇぇええっ‼』


 拡声器でも使っているのか、先ほどの女の声が海にこだまする。殺意に満ち満ちた咆哮が、鋼鉄を通して発射された。

 火薬式の大砲……ユニゾティアで忌避される兵装を堂々と用いて、民間船の救助に入っている。今までこの世界として組み立てた常識が、爆音と共に吹き飛んでしまいそうだった。


(どういう事だ? ユニゾティアでは火薬や銃器が規制されているんじゃ……)


 だから『海賊が悪魔の遺産を使う』のは分かる。犯罪者が手段を選ばないのも当然。ならば似たような装備の『私掠船』が、こちらに味方をする理由はどこなのだ? 火薬を用いた兵器は、正規の兵士が扱えるとは思えないが……しかし通信していたのを見るに、味方で間違いない――

 堂々巡りに頭を悩ませている晴嵐。しかし彼にしては珍しく、これが致命的な判断ミスとなった。船員の忠告通り、素直に船室に引いているべきだった。


「ダメだ……! 敵船に追い付かれます! このコースは……」

「肉薄して砲撃を封じるつもり――いや白兵戦に持ち込む気か!? 船長!」

「――総員! 衝撃に備えて!」


 海賊船に追い付かれ、後方から敵船が激突する。船体が跳ね上げられ、甲板に立っていた人間が宙を舞っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ