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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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無力な船

前回のあらすじ


船内に響く振動。人魚の海賊、セイレーンの遅すぎる自白通り、海賊が攻撃を仕掛けて来たらしい。ドスの効いた声で晴嵐が続きを促せば、海賊共は『悪魔の遺産』を平気で使用してくるようだ。その後も問うが、有益な情報はない。すぐに彼も室内を後にした。

 セイレーンへの軽い尋問を終え、晴嵐は再び船上甲板に行きついた。喧騒は今まで以上に激しく、そして海原も酷く荒れていた。


「敵船! なおも八時方向! 距離を詰めて来ます!」

「くそ……こんな時に……! アラン隊長は!?」

「隊長だけは何とか復帰したそうです! ですが、奴らの船にも護衛が……!」

「先ほどのセイレーンとの戦闘で、防衛のシーフロートも消耗しています! 海面下から圧をかけるのは難しい状況です!」


 晴嵐以外の乗客は皆、船室に引っ込んでいる。理由は明らかだった。先ほどから響く『特有の炸裂音』を心底恐れているのだろう。晴嵐が周囲に注意し、特に聴覚に神経を張っていると、全身を貫くような衝撃が巡った。間違いない、この音は――


「敵船の砲撃! 衝撃に備えて!」


 大砲――大型の鉄筒に、火薬と砲弾を詰めて投射する兵器。構造自体は雑に言うなら『銃器を大型化したもの』と呼んで差し支えない。大別すれば『悪魔の遺産』の一種と言えるだろう。先ほどセイレーンの奴が言っていた通り、海賊は躊躇なく使うらしい。

 弾頭の質量と火薬量は、銃器とは比較にならない。敵船から発射された砲弾が帆を掠め、風切り音と突風が甲板を走る。明らかに外れる軌道だが、晴嵐は反射的に身を屈めていた。


(何度聞いても、この音は心臓に悪いわい……!)


 飛翔体が高速で掠める音。終末世界では銃弾に爆弾、弓矢に投げナイフなど、殺意を込めた投擲物が飛びっていた。晴嵐も『投げナイフ』を愛用しているのは、その名残だろう。他人へ散々やって来たからこそ、自分へ向けられれば過敏に反応してしまう。不安からか焦りからか、すぐに晴嵐は帽子の無い船員を探した。


「いた……! 状況はどうなっておる!?」

「あのセイレーンが言った通りだ! 海賊が仕掛けて来やがった! 何か有益な情報は!?」

「海賊は『悪魔の遺産』を平気で使ってくるとだけ……」

「んな事、船乗りはみんな知ってるっつーの……!」


 やはり何の役にも立たない情報か。苛立つ船員の前で、海が一つ大きな波しぶきを上げた。また一発、砲弾が着弾したらしい。後ろを振り向けば、こちらより小型の艦船が近づいてきていた。


「他に何か言ってたか!?」

「いや、ほとんど情報が無い。儲け話で釣った人間に、余計な情報は与えておらんようじゃ」

「そりゃそうか……」


 もうもうと煙を上げる敵の船は、ガイコツで作ったバツ印をマストに掲げていた。あれが奴ら海賊船の象徴シンボルか? 焦りを滲ませた船員が額を押さえて唸った。


「くそ……このままじゃ……!」

「何か打つ手無いのか!? バリスタで反撃は――」

「無理だ! 射程が違いすぎる! やるにしたって最後の手段だよ!」


 さもありなん。火薬で射出する大型の銃器、砲と――魔法の補助があるとはいえ、大型化した弓、バリスタでは比較にならない。またしても客船側は反撃の手段が無い……


「なんでこっちにも大砲を積んでおらんのじゃ!? これじゃ一方的に殴られる。良いマトじゃろ!?」

「仕方ねぇだろ! 俺達だって常々思ってるけど、だからって『悪魔の遺産』を積んで運航なんか出来ねぇって!」

「クソ……!」


 こっちは法に縛られ、倫理に縛られ『悪魔の遺産』が使えない。

 けれど海賊はお構いなしに『悪魔の遺産』を運用してくる。

 圧倒的に射程は不利で、しかも今回は人魚族の護衛者も、直前のセイレーン襲撃で疲弊している……


「どうにか……どうにか出来んのか!?」

「逃げ回るしかない!」

「港までか? いや、しかしそれで――」


 どうにかなるとは思えない。大砲を積んだ海賊の船がいたら、港に辿り着こうとそのまま暴れられたら、むしろ被害は広がるのではないか? 港付近まで逃げのびたとして……自分たちが助かるだけで根本的な解決はしない。

 合理的に考えるなら――ここで晴嵐たちの船が拿捕だほされた方が、総合的に見て被害は少ない可能性もある。突然振りかかった理不尽に巻き込まれ、何も出来ずここで沈むのか……? 最悪の予感が胸をよぎる中、予想を上回る事態が起きた。


「右! 三時方向! さらに船影!」

「!?」


 見張りの船員が悲鳴を上げた。ケツから追いかけられているのに、別の艦船まで接近だと? しかも大砲が鳴り響いている中、身を竦ませる火薬音がしている中で? そんなことをする奴らは――パッと晴嵐が思いつくのは一つしかない。


「ハイエナまで寄って来るのか……!」


 狙いやすい的がいると知れば、分け前を寄越せとたかりに来る……ただでさえキツい現状なのに、状況がますます悪化していくではないか。その証拠と言わんばかりに、新しい船も即座に大砲をブッなした。


「うおっ!?」


 またしても至近弾。このままでは挟み撃ちにされる。理解は出来ても、迫る破滅を回避する方法がない。一方的に追われるだけでも圧があるが、二方向の火線は極めて危険。片方の攻撃を避けようとすれば、もう片方と射線が重なってしまう――十字砲火の様相だ。

 後方からまた炸裂音がする。海原を轟かせ、大気を引き裂き、巨大な鉄球が宙を舞う。見つめる晴嵐。異様に伸びる時間。背筋を凍らせる予感に彼が硬直し――


「――直撃する! 伏せろ!」


 走馬灯が巡っても、晴嵐は固まったりしない。最後まで生き延びるため、ささやかであろうと努力する。近くの帽子の無い船員が姿勢を低くしたと同時に――船全体に強烈な衝撃が走った。

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