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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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爆音の正体

前回のあらすじ


重症者であると同時に、捕縛した犯罪者でもあるセイレーンを船底に運び込む晴嵐と船員。捕まってから罪の重さに震え、何とか減刑を求める人魚は……「本来なら海賊と連携して仕掛ける予定だった」と自白した。

 ぐらりと揺れる船内。まるで突如発生した荒波に揉まれるかのよう。船底部の部屋、人魚族が居座る部屋の人間には、視界による情報が一切入らない。一つだけはっきりしているのは、まだ敵が近くに存在している。その一点は事実のようだ。


「う、うわっ⁉」

「とと……っ!」


 揺れる船、バランスを崩しそうになるが何とか耐える二人。振動が気z口に響いたらしく、セイレーンが小さく悲鳴を上げる。しかし先ほど待てとは違って、口元に僅かだが笑みを浮かべていた。


「へ、へへ……ほ、本当だったでしょ……」


 どこか自慢げな人魚だけれど、船員も晴嵐も構う余裕が無い。急いで船底部に担架を降ろすと、船員が晴嵐へ目を配らせてから駆けだした。


「――この場は任せる! いいか!?」

「構わん。お主の仕事を優先しろ。期待は薄いが、何かあれば伝えに行く」


 早すぎる展開。置いていかれたセイレーンが、焦ったように呼び止めた。


「え? え? いやちょっと待って下さいよ! なんも無し!?」

「阿保か! 襲撃前に言わんと意味ない! ゲロるにしても明らかに遅いわ!」

「そ、そんなぁ……」


 嘆く人魚だが、船員に構う余裕はない。襲撃者へ対処を優先すべきと判断を下したのだろう。自分の罪状を知り、現状を知り、追い込まてから遅まきに自白した……そんな奴はどうやったって信用できない。だから船員は晴嵐に対応を任せたのだろう。彼が付き合う義理は薄いのだが、途中で投げ出すのも後味が悪い。一つ息を吐き出して、晴嵐は鋭く詰問した。


「他に何か、隠している事はあるまいな?」


 ドスを聞かせた低く黒い声で、無表情にセイレーンを見つめる晴嵐。その眼光に光は無く、荒くれ者よりも深い闇を覗かせている。なまじ後ろめたい話に手を出したからか、彼の本性を察したらしい。身を震わせながらも素直に話した。


「な、無い……というか、何も話せない」

「それは『庇っている』と解釈しても構わんか?」

「あぁいや、違う違う! 軽く聞いただけで、詳しくは教えられていないんだ! 多分、オレを見捨てて逃げてった奴らも、今頃は『話が違う』ってゴネてるはず!」


 慌てて否定する人魚に、嘘の気配は感じられない。金で釣り上げた人員に、計画を深く伝えもしないのは自然。そうでなければ簡単に切り捨てたりしないだろう。ダメ元で晴嵐は尋問を続ける。


「となると、海賊側の装備や人員は知らないのじゃな?」

「知らない。所属外の組織だから……あぁでもアンタ、あんまり海の事情は詳しくないよな……?」


 言い澱む気配。隠すなと男が視線で脅した直後……ひときわ大きな衝撃と轟音が船内を包んだ。危うく転倒しそうになった晴嵐は、今の『音』に目を見開いていた。

 体を担架に拘束された人魚が、痛みに引きつった顔で喋った。


「海の上じゃ、今の『炸裂音』は普通だぜ……? 俺達人魚は海中から聞くから、そんなに『怖い』ってのが分からないが――」

「馬鹿な……」


 雷が落ちた時のような轟音。爆薬の炸裂音が聞こえて来る。この世界、ユニゾティアでは『悪魔の遺産』の名称で呼ばれ、強い恐怖と嫌悪で忌避される『銃器』の使用音だ。動揺は隠しきれないが、すぐに彼は人魚を詰めた。


「海賊は……『悪魔の遺産』を使ってくるのか? それが標準装備だと?」

「それの発展形だよ。確か大砲とか呼ばれてたっけ。陸じゃ考えられないかもだが」

「聞いておらんぞ……」

「誰だって聞きたくないし、言いたくないのさ。船の運航側だって『悪魔の遺産持ちに襲われるかもしれない』なんて公にしたら、気楽に旅行に出かける人が少なくなるし」


 分かる話ではある。それでも海運は必要な行為だろうし、観光事業だって少なくない収入になり得る。客足が遠のきかねない内容を、わざわざ公にする者もいないか。

 一応晴嵐は、こちらの住人よりは銃器や火薬音に慣れている。兵装の性質も知っているからか、忌避感や迷信も持っていない。しかしだからこそ……晴嵐は目の前で、ヘラヘラと話す人魚の様子が気になった。


「なんでお主は安穏としておる? アレの危険性を理解してないのか?」

「そりゃ陸での話だろ? あんな武装、少し水に潜れば怖くもなんともないね」

「………………」


 そうか、と晴嵐は瞬時に理解した。こいつらセイレーンは、人魚族にとっては――『水中』では、銃器はさほど脅威にならないのだ。

 空気中と異なり、水中ではあっという間に銃弾は殺傷能力を失う。爆薬も水中で使うには、特殊な工夫が必要だろう。独特の破裂音も水に阻まれているから、人魚族に銃器の恐ろしさは分からないのだ。


「陸にいる民族にとっては、恐ろしい武装なのじゃがな。情報提供に感謝する。とはいえ、船員にとっては既知の情報しかない。これで『減刑してくれ』は厳しいぞ」

「ちょちょちょ……そんなの詐欺だろ」

「情報には鮮度があるし、相手によっても価値が違う。せめてもう少し早ければ考えもしたが……他にはないのか?」

「…………」


 これでは足りない、もっと寄越せば考える――減刑をちらつかせ、さらなる自白を狙う晴嵐だが、人魚は目を閉じて唸るばかり。これは……もう聞き出せる情報は無さそうと判断。最後に、変に恨みを買わないよう、二束三文の忠告を残す。


「無さそうか。とりあえずわしは船員の所に戻っておく。あぁ、それともしもだが……この船が海賊に占拠されたら、お前さんはただの怪我人として振る舞っておけ」

「……なんで?」

「約束破った海賊どもだぞ? 変にゴネたら口を封じに来るかもしれん。奴らが来たら……酷い負傷で意識を失ったフリでもしておけ」


 人魚の体は穴が開き、担架に運ばれ半拘束状態。意識を失っていたとしても、不自然ではあるまい。ここで出来る事は終わったと判断し、晴嵐は扉に手をかける。

 背後の人魚は、思うように現実が動かなかったからか……負傷したセイレーンは顔を背け、不貞腐れて寝入る気配がした。

用語解説


大砲


構造・仕組みとしては「大型化した銃器」と呼んで差し支えない兵器、大砲。当然こちらもユニゾティアでは「悪魔の遺産」に分類されている。しかし海賊共は、平気な顔で使ってくるらしい。

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