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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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人魚たちの出撃

前回のあらすじ


船内下部で、初めて人魚と話す晴嵐。人魚族を乗せる前提の室内に目を配りつつ、帽子を拾った人魚と当たり障りない会話を続ける。またしても出て来る単語『セイレーン』の事を聞きたかったが、突如として警鐘が鳴り響いた……

 金属をかき鳴らす音は、いつ聞いても神経が張りつめる。種族を超えて警戒心を呼び起こすソレに、船底にいた者達の表情は強張った。

 小休止していた人魚も同じで、晴嵐も会話をやめて道を譲るが移動はしない。ペコリとお辞儀した後に、拡声器めいた管の方へと頭を向けた。

 ここから伝令が飛ぶ仕組みか。魔法なのか、物理的かは知らないが……ともかく、出港前に聞いた船長の声が、船底の室内に響き渡った。


『11時の方角! 不審な船影あり! シーフロート、及び船員は応対準備!』


 単語はピリピリと肌を刺すようだ。内容を理解できずとも、緊急の案件だと伝わって来る。他の乗客たちも顔を見合わせ、休憩中の人魚たちが声を上げた。


「乗客の皆さまは……念のため客室に集まっていてください。手荷物に気を付けて」

「ま、まさか海賊……?」

「現状では判断しかねます。漂流船や……密漁船や密輸など、様々な可能性が考えられるので」

「わしらはどうすれば?」

「念のため、客室で待機していて下さい。荷物や貴重品も手放さないように」

「承知した」


 現状では、何が起こるか分からない。だから無難な事しか人魚族も言えないのだろう。それもやむなしと見ている傍ら、人魚たちは部屋の中央、水密扉のバルブに手をかけている。頑丈に閉じられたハッチを開いてすぐ、頭から人魚がダイブする。ざぶんと響く水しぶきからは、海水特有の塩気がした。

 素人感覚だと足から行きたくなるが、水に慣れた人種は頭から飛び込めるらしい。


「私も行ってきます。取り越し苦労だと良いのですが」

「そうだといいが……ともかく、気を付けてくれ」


 声をかけるしかできない晴嵐。流石の彼も、水中で行動するのは不可能。こればかりは人魚族の独壇場だろう。歯がゆい思いはあるが、だからこそ彼らの仕事も成り立っている。ここは大人しくした方がいい。

 そんな彼の思いを察したのか、水密扉に向かう前に人魚が帽子を手渡した。


「これ、お願いします」

「確かに預かった。渡しておこう」


 濡れた船員の帽子を受け取り、人魚の姿を見送る。

 律儀に水密扉を閉めてから、彼女は海中へ消えていった。


***


 ユニゾティアにおける『人魚族』は、名称の通り水中・海中を生活圏とする民族だ。

 一見して、他民族との交流が薄い種と感じるだろう。事実ユニゾティア内部でも、彼ら彼女らに遭遇出来るのは海や湖、広い河口などに限定されている。人によっては『生涯一度も人魚族に会わなかった』なんて事も珍しくない。

 しかし『人魚族が他種族に興味がない』とはならない。むしろ真逆で、人魚族側としては『積極的に他種族と交流を試みる』傾向が強い。地上の民族が彼らの特殊性を認知するように、海の民もまた陸の民族に知的な興味を持っている。ただし……それが良い方向ばかりでもないのが、知性持つ者の悲しいさがだが。


『距離は一キロと少し。マストを半端に広げた状態。難破船か放棄……いや投棄された船のようにも見える』


 陸の航海士が観測した情報が『音波』として船を出た人魚族……『シーフロート』の耳に届く。ただし『言葉』ではなく、音の強弱と長さを変える事で意味を持たせていた。

『モールス信号』だ。空気中と異なり、水中では音が濁り籠りやすい。陸の言語での意思疎通では、どうしても聞き違いや齟齬が生じる。故に人魚族と水中で『話す』際は、実質『モールス信号』が『公用語』の立ち位置に近い。陸の民族も承知しており、すべての艦船に信号を放つ輝金属が標準装備されていた。

 もちろん送信だけでなく、受信機能もある。人魚の中心人物がすぐに返信した。


『まだ海中からでは目視が難しい。誘導を頼む』

『了解。アラン隊長をポイントマンに設定。共鳴石の位置情報を基に指示する。同行する者は周辺警戒しつつ、目標へ接近してくれ』


 いくら水が透き通っていても、空気中と比べれば視界は悪い。無論空にもコンディションはあるが、天候が悪ければ水中はもっと酷くなる。加えて、水面より上の視界情報は、光の乱反射で歪んで見える。船員・船上との連携が重要だ。


『少し右に逸れている。僅かに左へ進路を取ってくれ』

『航海士。周囲に異常は?』

『今のところは特に……強いて言うなら、海鳥の数が少ない気がする。そちらから暗礁は確認できるか?』

『いいや。ここの海域は深度がある。座礁なんてほとんど聞かない』

『海底火山や地震で、地形が隆起している可能性は?』

『ここ最近は穏やかな海だった。考えにくい』


 人魚族目線では、座礁の可能性は無い。接近していくにつれ、人魚族の者達にも『音』で謎の艦船の位置を捉える。シーフロート部隊のリーダー核、人魚族のアランが全体に通達した。


『妙だ。静かすぎる』


 人の乗っている船、活気のある人間の船なら、内部から独特の振動がする。船は海水と干渉し波に揉まれるが、それとは別に『船の内側から』の振動を感じられるのだ。そこに乗船者のいる船であるならば。


『人員を半分に分ける。私含めた五名が船に接近、残りは本船の周囲警戒を』


 中心人物が指揮をすれば、仲間たちもそれに従う。

 ――深淵より迫る危険な影に、気づく者はまだいない。

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