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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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船長と人魚

前回のあらすじ


聖歌公国首都・ユウナギに着いた時、最初に間違えて来た『港のポート』に、再び晴嵐は訪れていた。今度は船に乗り、東国列島に行くために。出港までに時間があるので、船を観察すると……船の下部や側面に、スノーモービルやヘリコプターの足を思われる形状の手すりがある。用途不明のそれに首をかしげるばかりだった。

 ユニゾティアの艦船を観察し、地球製の船との違いを考えているうちに……それなりに時間が経過していた。頃合いを見て乗船所に行けば、既に出港準備が進んでいた。


「危ない危ない……乗り遅れるところじゃった」


 手続きをしておいて、便の出発前に間に合わないのはよろしくない。料金ももったいないし、相手側の印象も悪いだろう。既に人が乗りつめた大型の帆船に、渡しの板を踏みしめて晴嵐も乗船。その際も視線が下側だったのは、水面下の構造が気になっていたからだろう。先ほどまでの異なるのは、水中に複数の人影が見えた事か。

 人影……と呼称するのは、晴嵐感覚では妙に感じる。海中に見える人影なんて、地球人の感覚ならば、連想するのは水死体か幽霊かのどちらかだ。ましてや船着き場。水着で泳ぐ人物がいる訳もない。しかし彼が見たのは、そのどれとも異なる存在だった。


「ふぅ……休憩も終わりか」

「いいじゃないか。出港直後なら『セイレーン』も滅多に襲ってこない。ぶら下がっていればいいんだし、最初の方が奴らに絡まれる心配もないだろう」


 晴嵐は初めて、まじまじと『人魚族』の姿を目にした。水中を自由に泳ぎ回る彼ら彼女らの姿は、種族名通りの姿をしている。水中で泳ぎ回る陰の正体は彼らだ。人間ヒューマンではないけれど、この世界では知的種族=人間なのが常識。下半身がイルカめいた海洋哺乳類なので、外見上の異形感は強いが……彼らもまた知的種族。得体のしれない化け物ではないらしい。

 現に今、晴嵐が乗り込もうとする船から人間、いやヒューマンが降りて来る。整った衣服に、あまり興味のない晴嵐にとっても一目で『美形』と分かる顔つきの女性だ。軽く手を上げ水面に声をかけると、人魚族たちもすぐに応じた。


「そろそろ出航になります。準備の方は?」

「いつでもいけます、船長」

「予定地点は確か……東国列島の『青頑岬』だったか?」

「えぇ。その予定です。最近、海賊やセイレーンの出没も増えて、危険な海域になりつつあるようです。念入りにお願いしますよ」

「どうりで……普段より増員されている訳だ」


 船上に足をかけつつ、船長と人魚の話に聞き耳をたてる。関係性は恐らく、雇った雇われたの間柄だろう。交流もするし友好的にも振る舞うが、一線を引いている気配を感じていた。


「取り締まりはどうなっているので?」

私掠船しりゃくせんの方々も努力はしているようですが……いかんせん海上・海中を見張るとなると、全域に目が届かないみたいで」

「ま、だから俺ら『シーフロート』に仕事が回って来る訳だしな……」

「片っ端から、怪しい艦船を押さえられないので?」

「彼らの武装を考えると……何も知らない一般人に接触させるのは、ね」


 隠し事の気配を感じた晴嵐が、聴覚に意識を集中させる。未知の単語が次々と出てくるが、逆に言えば未探索の領域があるに違いない。上品な船乗りの恰好をした女性と、人魚たちの声色は深刻な雰囲気をかもし出していた。


「その性質上からして彼らの『ルール』でも、非常時以外は一般艦船との接触はご法度はっとだそうです。その穴を突くように、海賊共の偽装も年々巧妙化しています。漂流船と偽ったり、巧妙に通常の艦船に偽装し、さも平然を装って……曖昧な対応をせざるを得ない私掠船団を、自分の船内に引き込んでから袋叩きにされた事もあったとか」

「船長、詳しいな?」

「直接『レオお嬢』と対面して、色々と聞かせていただいたので」

「「えっ」」


 人魚二人が固まり、何故か船長が目を逸らす。しばらく黙して語らない彼女へ、遠慮がちに人魚族の一人が確かめるように聞いた。


「レオお嬢って……『レオ・スカーレット』の事ですか?」

「他にいませんよ。あんな強烈なお方は」

「……もしかして船長『喰われ』ました?」

「…………噂にたがわぬ肉食系だった、とだけ」


 なんでか知らないが、いたたまれない気配を察知した。遠巻きに聞くだけでも、レオとか言う女は強烈な奴らしい。人魚族二人もやや引いた様子だ。


「あの『自称お姫様』ですか?」

「……関係を築いた後ならともかく、その単語は軽々に口にしない方がいいですよ? 中立ぐらいの仲でもキレますし、敵対していたなら即ブチ殺しに来ます」

「おっかねぇ……」

「そ、それならますます『お姫様』とは呼べないのでは……?」

「はい。正直私もそう思います。部下連中も直接は言いませんが『絶対ない』と内心思っているでしょうね……」


『お姫様』の単語を聞くと、反射的に頬がヒクついてしまう晴嵐。つい先日も『前世お姫様』と長らく語り合ったのも、記憶に新しい。しかし聞き耳を立てた話の『お姫様』とやらは、姫と呼ぶには随分と荒々しい気質に思えた。


「おい、あんちゃん! そんなトコにいないでちゃんと乗船しろよ。シーフロートの人魚族がいるとはいえ、海に物を落としたら面倒だぜ?」

「え? あ、あぁ……そうじゃな。すまんすまん」


 気が付けば船は出港直前。人魚族と船長の立ち話も最終確認なのだろう。半端な立ち位置で盗み聞きしていたとは、幸いな事にバレていない。東国列島に到着するまでの間に、他の乗客や船員と会話し、それとなく探ってみるのもいいだろう。

 木張りの床を踏みしめて、船室内に入る前に……一度だけ後ろを振り返る。

 船上から見た聖歌公国・ユウナギの光景は、特に変わりなく、感慨も湧かなかった。

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