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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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港と船

前回のあらすじ


古き良き日本の情景に、思いを馳せる晴嵐とルノミ。この世界の住人、テティの話によれば、東国列島の文化と日本文化は酷似しているという。過去の人間が文化を持ち込んだと思いきや、元々そういう文化圏だったらしい。ますます興味を深める晴嵐。ダンジョンの調査はルノミに任せ、助言の対価としてたまにテティへ情報を渡すと約束して三人は分かれた。

 この聖歌公国首都『ユウナギ』には、三つのポートが存在する。

 一つはダンジョン最寄りの『グラウンド・ゼロのポート』と、町の中心に存在する『中心街のポート』と、そして……海に面した『港のポート』の三つがある。

 聖歌公国首都・ユウナギに到着し、あるオークと待ち合わせした時に、間違えて晴嵐が向かった場所でもある。だから場所も雰囲気も、晴嵐はよく知っていた。


「あの時は……船を利用するとは考えてもおらんかったが」


 前もここに来て感じたが……港町って奴は地球だろうが、異世界だろうが雰囲気は変わらないらしい。吹き付ける強い潮風には強い磯の匂いがするし、その中に混じる汗のにおいは、せわしなく積み荷を降ろす屈強な男たちから流れたもの。波の音に負けないように上げる声も大きい。新鮮な海鮮を卸す漁港もあれば、魚介をそのまま味わう飲食店も立ち並んでいる。


「安上りで済ませたが……失敗だったかもしれん」


 取っていた宿の近くで、適当な軽食で済ませたのを今更ながら悔いる。少しばかり価格帯は上がるものの、漁港で味わう海鮮は安上りな傾向がある。輸送や保存に気を使っていないから価格は割安だし、何より魚介類は鮮度で味が大きく変わると聞いた覚えがある。臭みはほとんど感じないのに、歯ざわりや舌触りがまるで違う……らしい。

 おまけに……船旅に慣れていないのがたたった。乗船場の手続きはとどこおりなく終わったのだが、出港までの時間がかなり空いている。遅めの朝食を食べてゆっくりしていても、余裕で間に合っただろう。


「やらかしたな。前日に調べておけば目安ぐらいは……いや無理か?」


 二十一世紀であれば……船や飛行機で移動の時に予約をしたり、事前のタイム・スケジュールを調べて自分の行動予定を決められた。だが、こちらはそこまで整ってはいない。特に船旅の場合、天候の影響を大きく受けると予想がつく。海が荒れていれば出港中止もあり得るし、移動時間の変動もあるだろう。

 過ぎてしまった事を悔いても仕方ない。あまりカリカリせず、出港まで周囲の観察に費やすのがいいだろう。まだまだ晴嵐は、この世界に知らない事が沢山あるのだから。


「港の様子はさほど変わらんが……船を見るか」


 海に落ちないように注意しつつ、荷船着き場を歩き回る晴嵐。ひとまずは視線を上げ、運航する船に観察の目線を向けた。

 小型船はあまり見えない。中型・大型の艦船が多く、すべてが大きなマストを備え付けている。帆を広げ、風を受けて進む船のようだ。マスト上部には遠方を見るための見張り台、その最上部には金属製の棒が一本だけ天高くそびえている。ユニゾティアの環境を考えると、恐らくは立体旗ホロフラグを展開するための物だろう。遠方の旅を想定した乗り物に、通信機をつけないとは考えにくい。

 全体に目を凝らすと……純粋な金属製の船は一隻も無いが、木製部品のみで構成もされていないと分かる。蒸気船やタービン、スクリュー駆動の艦船は無いのか? 魔法と言う動力源があるのだし、スクリュー自体の構造は複雑ではない。地球人が技術や情報を持ち込んでいるのなら、再現やアレンジは難しく無さそうだが……


「ふぅむ、遠方の船ではそこまで見えんな……」


 距離もあるし角度も悪い。加えて水面は光を乱反射し、うねる波が水面より下の観察を妨げる。遠くからの観察を諦めた晴嵐が周辺に目を向ければ、停船中の中型船一隻を発見。そちらをじっくり観察してみることにする。

 船尾には操舵用のフィンと……そのすぐ下、船底部には何やら筒状のモノが見える。形状はジェットエンジンが近いだろうか? 細かい構造は角度が悪くて見えないが、帆で風を受けるだけが動力では無さそうだ。さらに観察を続け、水面の奥に目を凝らすと、通常の艦船と違う構造が見受けられた。


「……なんだこりゃ?」


 筒状の船底部は、海と同じような色合いの金属に見える。恐らくは輝金属製だろう。何らかの魔法で、運航を補助する魔法を発動している……その可能性が高い。

 だが、晴嵐が最も奇妙に思えたのは……船の水面付近と下層部に、金属の奇妙なでっぱりが備え付けられている事だ。男の知識から引き出すなら、大型のソリやスノーモービル、ヘリコプターの下部のような形状をしている。


(まさか……潜水するのか? 着底用の装備……?)


 こっちの魔法技術があれば、帆を張った船が海の底に潜れる……のか? ファンタジーめいた光景は慣れたつもりだが、流石に艦船がその姿のまま海中に沈んで、そのまま航行を続けるのはシュールに過ぎる。それに着底用なら、側面のは何のために?


(そもそも、最初から水中のみを移動する艦船を作った方が効率的では? ……あぁいや、そしたら呼吸が難しいか?)


 グダグダと考えていると、海中から一隻……ちょうど晴嵐が想像していたような『潜水艦』のフォルムをした艦船が移動しているのが見えた。これもまた何故か、同じような棒状の出っ張りが備え付けられている。


(わ、わけがわからん……)


 あんな余計なものをつけては、水の抵抗が大きくなると予想がつく。なのにどの船にも『何故か水中部分に、奇妙な突起』が必ず装備されているではないか。


「大丈夫かのぅ……?」


 案じても仕方ないし、自分の無知から来る疑問と知りつつも、ぼやかずにはいられない。

 ……彼が乗船する船にも、当然のように突起は備え付けられていた。

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