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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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役割分担

前回のあらすじ


記憶がないルノミだが、口を封じるなら殺してしまう方が確実。その可能性を考えていなかった晴嵐は、知らず知らず深く肩入れしていた事に気が付く。別の世界で生きていた所に、同郷の人間を見つけたのだから人としては自然な事。けれどルノミに引っ張られ過ぎて、ダンジョン深部までの攻略に付き合う必要性が低い事に気づいていなかった。テティはその事を指摘する。

 拗ねて顔を合わせない晴嵐だが、逸らした先にいるゴーレムの気配はひしひしと感じていた。お人よしのルノミの事だ。今まで隠していた本音を聞いて、感動でもしているのだろうか。

 勘弁してほしい。正直むず痒い。生暖かいというか、ぬるま湯めいた情は、晴嵐としては不慣れに過ぎる……これだから言いたくなかったのだ。

 晴嵐は……一人孤独な生活に慣れた時期もあった。ユニゾティアに来てからも、他者と深くつるむ事は無かった。正直今も……他者と関係性を結ぶのを、どこかためらっている節がある。

 きっと普通に生きているのなら、まともな情感の人間なら……他人に感謝されるとか、腰を下ろして、緩く付き合える関係性とか、そうしたものに安堵するのだろう。だがどうも……晴嵐としては、いたたまれない。


(わしは……そういう目で見られるような人間じゃない)


 ドブネズミとしての自覚。過去に終末世界で生きて……化け物を殺して回った、廃れた自分。そうするしかなかったとはいえ、人として正しい行いをしてきたとは、とてもじゃないが言えない。そんなクソ野郎が、今更マトモなフリをした所で……身勝手な反省と定義するのがせいぜいだ。こればかりは……こればかりは、恥じるしかない生涯を送らねば、理解が難しい感覚だろう。または『それもまた人生』と受け入れられる、老熟した人間ならば察しもつくのかもしれない。


「ごめんなさいね。でも、確かめておかないといけなかったから」

「…………そうだな」


 晴嵐にとってのルノミが、どれほどの重みをもつ相手かを……テティは確認しておきたかったのだろう。彼の本心を聞いたルノミは、感極まっていた。


「晴嵐さん(T_T)」

「えぇい、そのうっとおしい顔文字をやめんか。お主がしっかりしておれば、わしだって長々と付き合ったりは……」

「もうゲロったんだから素直になりなさい? なんだかんだで、あなたは世話を焼いたでしょ」

「頼む、これ以上はカンベンしてくれ」


 不機嫌な晴嵐の気配から、僅かだが殺気に近い気配が漏れる。不機嫌そのものな彼の言動だけど、二人の目線の生暖かさが増すばかり。晴嵐が拗ね切ってしまった所で、テティが謝罪を入れつつ本命に入った。


「セイランが離席しちゃいそうだし、そろそろ話を戻すわね。ダンジョンについてだけど……ルノミはともかく、セイランがこれ以上付き合うのは違うと思う。ルノミには必然性があるし、話してみて感じた事があるの」

「えっと……何でしょう?」

「所々ルノミはダンジョンについて……妙に察しがいい所があるわ。曖昧な事のはずなのに、口調も妙に断定的でしょ?」


 それはきっと……異世界移民計画を打ち上げた、ルノミ特有の知識から来ているのだろう。はっきり断言するのは、無意識に確信を持っているからか。目ざとく見抜いた彼女は、もう一つ、ルノミがダンジョンを探索すべき理由を述べる。


「だから……もしかしたらルノミであれば、正攻法とは違う手段を見つけられるかもしれない」

「ふぅむ……否定はせんが、それこそ前例はあるのか?」

「一応は。宗教家の言う事だから真剣に信じていなかったけど……迷宮教徒の中には、ダンジョンの主と接触したと主張する人も……」


 ダンジョンそのものを信奉する宗教家、迷宮教徒。信じているからこそ、極端な思考に陥っているのではないか? 晴嵐は毛嫌いしており、ルノミもやや否定的な反応を見せた。


「そこに属するのはちょっと……」

「入団を進めている訳じゃないの。大事なのは『最深部まで潜らなくても、ダンジョンの主に接触する手段がある』かもしれない事実。私には想像できないけど……」


 ルノミであればあるいは……何らかの手段を見つけられるかもしれない。実際ルノミは晴嵐より、ダンジョンへの理解が早かった部分がある。試しに晴嵐は尋ねた。


「試しに何か思いつくか?」

「うーん……デバック用の領域に侵入したりとか、土管の上でしゃがんだら潜れるとか……隠しコマンド、とか?」

「何を言っているかは理解できないけど、普通はポンポン羅列できないのよ……」

「頭の固いわしより可能性はあるか。あぁ、と言うよりわしが同行していると、逆に可能性を潰しかねない……のか」

「うん。別行動を推奨する理由の一つね」


 よく言えば地に足がついている。悪く言えば頭が固い晴嵐。同行していれば、変なハメ手を喰らう心配は薄いだろうが……同時に『裏技』を試す機会も奪いかねない。ルノミに自由を与える機会も必要か。


「ルノミの発想を奪いかねない点、わしがダンジョンで長居するのに、合理性がないのもよく理解した。他には何かあるか?」

「そうね。さっきも言ったけど、ルノミにはダンジョンにいる必然性がある。でも言い換えれば、ルノミはあまりユニゾティアの外で活動しにくい状態に思えるわ。それも含めて、晴嵐とルノミは別行動すべきと思う」


 テティの言い分を纏めると、晴嵐はダンジョンに居座る理由が薄く、ルノミには必要性がある。心配・不安だと同行を続けていたが、これ以上共に居ると……むしろ足を引っ張ってしまうかもしれない。

 加えてルノミは『外部にいる千年前の関係者と接触が難しい』……彼の中身は不明だが、事情がある事だけは確定的。この点においては、後から来た晴嵐の方が自由に動けるだろう。


「わしは今まで通り外を渡り歩いて、ルノミはダンジョン深部を目指し、千年前について探りを入れた方が合理的か」

「そうだと思う。あなたたちは二人とも真実が欲しい。その一点では利害が一致しているんでしょ? 協力の在り方だって、一緒に行動するだけが全てじゃない」

「役割分担……って事ですね!」


 互いに得意な分野、有利な領域に身を投じ、お互いに情報を交換し合う。効率の良い方法だ。テティの意見に、晴嵐もルノミも反論はない。

 こんな簡単な事を見落としていた晴嵐は、少しだけ自分が嫌になった。

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