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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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一つに繋がる与太話

前回のあらすじ


ダンジョン30階層に辿り着き、新兵や同行者は解散の運びになる。それから四日後、ユニゾティアの『図書館ライブラリ』で、地球人を称する三人が対談の場を設けた。まずは、今回が初接触となるテティとルノミの間で会話になる。主にテティ側が前世の『与太話』を始めた。

 ルノミに話すテティの『与太話』の内容に、大きな変更はない。つまり、その場しのぎの嘘ではないと確定した。下らない嘘、つまらない嘘って奴は、存外人間はすぐ忘れてしまう。自らの経験に根差した過去、事柄だからこそ……整合性を持つのだろう。

 要約するなら、彼女の話はこうだ。

 かつて成り上がり者の王の国があり、そこの姫君だった事。

 年功序列からして、立場が低かった彼女は籠の鳥を嫌い、外交官として国に尽くしていた事。その際話題の一つや外交問題からして、歴史に興味を持っていた事実を話した。

 ルノミは意外そうに、同時にとても感心した様子で何度も頷いていた。


「お姫様って聞くと、高飛車で庶民見下して『おーほっほ!』と笑うイメージか……逆に『蝶よ花よ』と愛でられ過ぎて、悪意に全く耐性ない印象でした」

「両極端な偏見ね。でも……うん。私の姉妹にいたわ。そういうのも」

「テティさんは、すごくしっかり者だったんですね」

「そう……なのかしら? ま、でも終わった話だし、大変なのはここからだったから……」


 語る彼女の目線は、遠い昔の語り手のようだ。老熟した知性特有の、落ち着いた声色が心地よい。遥か過去を語るテティの話は佳境に入った。


「大変って……何が起きたんです?」

「人ではない種族が、我こそが上位種であると主張して……結構な規模の戦争になったのよ。こっちの吸血種と晴嵐の所で出没した化け物を、足して二で割った感じのが台頭したの」


 その話を聞いた途端……ルノミの動きが止まった。戦争と聞いて身を固くするのは自然な事だが、どうも少し違う気がする。それが事実と理解するのは、彼らの話が進んでからだ。


「ま、上位種を名乗るには欠陥が多い種族だったけどね。脳や心臓を潰せば死ぬし、太陽光だって弱点だし、ニンニクや銀にだって弱かった。身体能力は高かったけど、他人から吸血しないと生きていけない時点で……ねぇ?」

「……それで、どうなりました?」

「結果だけ言うなら、私の所属する国と相打ちね。もう一人……こっちの世界の『真龍種』みたいな人がいて、やたらとソレに絡んできたのよ。敵対した彼らの名前は――」

「『ヴァンパイア』じゃありませんか?」

「えっ……?」


 突然ルノミが先取りした。驚き言葉を詰まらせるテティ。何かを確信したゴーレムの中身も、神妙な表情に思えた。


「どうしてそれを? 晴嵐にも仮の名前しか話してない……わよね?」

「あぁ……そんな長い名前じゃなかった。そもそもテティの過去話については、ほとんどコイツに教えておらん。なんで分かった?」


 ルノミ特有の知識と発想か? にしても、ピンポイントで名称まで当てられるのか? 二人の『老人』の目線は、液晶に動揺を灯す彼の姿を見た。


「あぁ、その、すいません。実は……今の話、覚えがあるんです」

「どこで誰から? わしは初耳じゃったぞ……」

「……僕の時代まで生き残っていた、ヴァンパイアの人です」


 お前は何を言っている……? 危うく叫びそうになる晴嵐。ルノミそんな馬鹿馬鹿しい話をしていただろうか? 何とか記憶を掘り起こしていけば、そもそもの話として……彼はファンタジーめいた、壮大な計画に手を出していた事を思い出した。


「異世界移民計画の……ネットで知り合った……」

「そうです。あの人……名前は思い出せないんですけど、親密になって雑談した時……ヴァンパイアが関わった事件や事変についても、話してくれた事があったんです! そのうちの一つに……今のと同じ話が」

「なんだと……?」


 こんな所で話が繋がるのか……? 一見してバラバラの話が、一つの連続性を持ち始めると? ちらりとテティを見ると、彼女も彼女で頭を抱えている。


「不老不死を自称していたのも確かよ。その人の名前分かる?」

「ごめんなさい。僕は、過去関わった人の名前を思い出せないんですよ。僕自身の名前も含めて」

「都合が悪い……いえ、逆に都合がいいのかしら? この場合は」


 ――ルノミが『過去の人間』を思い出せない事実に、やはりテティも引っかかるらしい。晴嵐としても気になるが、解けそうにない部分は一旦スルーしよう。


「ここもここで、何らかの意図を感じるのは分かるが……一旦脇に置かないか? 今は地球の話をしたい」

「そうですね。僕の記憶については後にしましょう。地球や……『ヴァンパイア』についてを、先にまとめたいです」


 男二人の会話に頷き、テティとルノミは『過去の話』を深堀りした。


「真龍種みたいな人って……その、お姫様と駆け落ちしたと聞きましたけど、本当です?」

「……本当よ。ちなみに、私が駆け落ちした『お姫様』当人ね。我ながらとんでもない無茶をしたわ。当時は若かったわねー……」

「死ぬまで寄り添って……その、前世のあなたが死ぬまで、寄り添って看取ったのも? 真龍種めいた人が老いないものだから……傍からだと『歳の差婚』にしか見えず、遺産目当てと葬儀屋に邪推されブチ切れた話も本当ですか?」

「私が『おばあちゃん』になるまで、一緒だったのはそうね。死んだ後の話は知らないけど……あの人らしいわね」


 会話がかみ合っている。疑念を持ちたいが、これは……ルノミの接触した人物の話が、テティの前世の話をしている。そう判断せざるを得ないだろう。


「これは……どういう事じゃ? ルノミとわしは、互いの話に共通項があると確信している。だがわしはテティの話を知らん。なのにルノミはテティの話に心当たりがあって……テティはわしらの話を一切知らない。何だこれは……?」


 クラリと頭を揺らす晴嵐。こんなことになるならいっそ、全員が『互いの話を分からない』と認識した方がマシだ。なまじ話が出来る分、事態をややこしくしているように思える。

 しかし違った。これはそう難解な話では無かった。整理整頓さえすれば……実に単純な事だった。

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