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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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故郷の名

前回のあらすじ


無事に29階層の『ボス部屋前』に到達し、やっと休憩を得られた兵士たち。晴嵐はルノミを呼び出し、特殊な背景を持ち、晴嵐も大いに助けられた人物、テティ・アルキエラと引き合わせる。エスパーめいた予測で、彼が連れて来たゴーレムが何かを抱えている事に気づく彼女。久々に『与太話』が始まった。

 兵士たちに与えられた休憩時間は、30分と短い。込み入った話をするには足りないが、とっかかりは作れる。三人の間だけで通じる『与太話』を始めた。


「ルノミって……あまり聞かない名称ね」

「実は、僕自身もしっくり来ていなくて。本当の名前が思い出せないんです。他にもいろいろ記憶に空白があって……晴嵐さんと話したんですけど、厄介な事情がありそうで」

「細かい所まで聞いていたら、時間足りなかったりする?」

「絶対足りないです。だから、お暇な時に会えますか?」

「……ライフストーンは?」

「ありますあります! お古ですけど」


 二人は緑色の石ころを取り出して、軽く触れさせる。ちらりとテティが晴嵐に目を合わせると、彼も軽く笑った。


「懐かしいわね。セイランにも私のお下がりを渡したわ」

「みんな考える事は同じですね……」

「だって無いと不便でしょう?」

「ココに潜るにも必需品ですし」


 メールに地図機能、メモ帳に加えて、ダンジョン限定の機能もある。ユニゾティアで生きていくには必須アイテムと言えよう。わざと晴嵐も大袈裟なため息を吐いた。


「壊れた時は本当に焦ったわい……」

「買い替えてって言ったのに」

「まだ大丈夫、いけるだろうと油断した結果よな……我ながら情けない」

「……向こうの世界でも、スマホで似たような事ありましたねぇ」

「ライフストーンの代わりの道具?」

「スマートフォンって道具がありました。多分ですけど、ライフストーンも……この技術を参考に作られた部分もあるかと」


 テティの目が細められ、一言断りを入れてライフストーンを使う。文字列を確かめつつ数度頷いた。


「セイラン。あなたとルノミの世界って……」

「同じ世界じゃな」

「間違いない?」

「あぁ。単語だけでなく、わしの世界で起きた事件も知っておった。整合性が取れておる。違いは――」

「僕が……いや『僕たち』がこっちに来ようとした時期です。晴嵐さんがユニゾティアに来る前段階で、異世界移民計画を進めましたから」

「いせ……何?」


 誰が聞いても『異世界移民計画』は混乱する。晴嵐然り、テティも然り。詳細を告げる時間は無いので、晴嵐がざっくりとまとめた。


「テティ。わしの世界が滅亡した話は覚えておるか?」

「世界を滅ぼせる兵器を向き合って、平和を維持していたつもりが……うっかり暴発して本当に世界を終わらせちゃった……って話よね?」


 メモを見ながら、晴嵐たちの話についてくるテティ。前提を共有しているおかげで、スムーズに説明が出来た。


「あぁ。だがそこに至るまでに、少しだけ猶予があった。ルノミとその仲間たちは、本当に世界が終わっちまう前に、何とかしようと活動していた」

「何とかって……どうやるのよ?」

「世界が破滅しきる前に……別の世界に移動して、避難しようとしたんです。僕が計画を主導していて、他にも仲間たちがいた。そして僕の仲間たちは……」


 そこから先の言葉を発するまで、ルノミには幾分かの躊躇があった。テティが怪訝な顔をするが、続く言葉を聞いて……驚愕した。


「……千年前に、ユニゾティアの上空から降って来たんです」

「――――………………」


 絶句。完全に二の句が継げず、わなわなと唇を震わせている。晴嵐の正体を明かした時も、ここまでの揺らぎをテティは見せていない。彼女は数度深呼吸をして……勤めて感情を押し殺した声色で問い詰めた。


「自分が何を言っているか……分かってる?」

「……晴嵐さん以外に話してません」

「当然ね。冗談じゃ済まないもの」


 ユニゾティアの住人目線で見るなら……ルノミは千年前に起きた大混乱の引き金を引いた人物と言える。なんとかユニゾティア側が勝利したから……いや、勝利も敗北も無く、どの角度から見ても許されない行為をやった。その連中を招いた元凶。まだ断じるには早い段階だが、テティは眼差しの険を強くする。対面の液晶表示はノイズだらけで……顔に唇があれば、きつく噛み締めていただろう。

 ルノミは重く沈黙した。そうするしかなかった。彼なりの理想があったと話しても、すべて言い訳にしかならないと……心の底で理解していたのだろう。見かねた晴嵐が間に入った。


「残酷な話をするがな、テティ。それでもわしは、ルノミを咎める事はできんかったよ」

「……言い分を聞くわ」

「自分が地獄を見たくないから、他人に地獄をおっかぶせる。最低とは思うが……そこで『できない』と良心を捨てれず躊躇った奴から死んでいく世界だったよ。あぁ、だから向こう側のクソ野郎どもは、滅びて当然だったのかもしれん。この世界の人間からすれば、だが」

「一つだけ言い訳するなら……こんなハズじゃ無かった。向こうの世界の歴史上で、近い過ちの構図はあったから、気を付けようと……でも止まらなかった。止められなかった」

「………………」


 感情的に非難しないだけ、テティ・アルキエラは冷静と言わざるを得ない。軽い紹介だけにしておけばよかったか? 空気が重くなり過ぎた。それだけの事をした。改めてルノミは強く自虐した。


「ほんと……何やってたんでしょうね。僕たち地球人は」

「……全くじゃ。返す言葉もない」


 自分たちのケツもまともに拭けず、他所の世界に逃げのびようとして果たせず、融和路線は力に溺れて早々に破棄。どの角度から見ても『ゴミ』としか言えない。自虐し合う晴嵐とルノミに対して、またしてもテティは固まっていた。


「ちょっと……待って。待って? 今なんて!?」

「「?」」

「あなたたちの故郷の名前! 初耳よ!」


 そうだった……だろうか? 晴嵐は頭を軽く掻く。

 互いに『与太話』をした際、故郷の名前は口にしていなかったのか? まぁ。軽く話しただけでも世界観が違ったし、名称を伝えた所で『ふぅん』でおしまい。現に晴嵐も、テティの故郷の固有名称は聞いていない。だから気にしていなかった。

 隠すような事でもないので、素直にルノミは口にする。


「名前って……地球の事ですか?」

「…………」

「どうした? テティ?」

「私の故郷……うぅん。私の前世の世界も『地球』なんだけど……?」

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