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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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お姫様の彼女

前回のあらすじ


タイラー卿の厳しいシゴキに耐える新兵たち。ルノミも判断の甘さを詰められ、その恐ろしさを身をもって知る。彼のお人よしぶりを見て、オークのヤスケがホラーソン村の人物を口にする。彼の話によれば、旗持のテティも教官役として同行しているそうだ。特殊な背景を持つ彼女に、晴嵐も世話になった記憶がある。ルノミと引き合わせても良いと考えた。

「よし! よく凌いだ新兵ども! まだまだケツは青いが、根性だけは一丁前と認めてやる! 30分の休息を許そう。ただし! その間に自らのコンディションは確実に整えておけ! 扉の先に待ち構えるのは、30階層への侵入を阻む門番だ! ここから全滅したマヌケも私は見たことがある‼ 二の轍を踏んだら、貴様らも語り草になるマヌケの仲間入りだ! 心しておけ‼」


 29階層をほぼ制覇し、待ち受ける『ボス部屋前』に聖歌公国新兵たちが到着した。相変わらずの鬼教官、タイラー・ヴェインの激励は厳しい。疲弊しきった兵士たちの中には、恨めしい目線を向ける者も。誰もがへとへとになる中で、晴嵐は同じ班の相手に声をかけた。


「別班に知った顔がおるらしいから、ちぃと挨拶してくる。それとルノミ、お主も来い」

「へ? なんで?」

「移動しながら話す」


 内容が内容なので、あまり他人に聞こえる様な状況で話したくない。ルノミは釈然としないまま、晴嵐の後ろについていった。


「晴嵐さんのお知り合い……ですか?」

「まぁな。わしも色々と相談に乗って貰った。お主も打ち明けると良い」

「??? えぇと……どんな人です?」

「例えばだが……『かつてお姫様だった前世の記憶がある』なんて話を信じるか?」

「前世って……異世界転生モノの話ですか?」

「心当たりあるのか……」


 相変わらずルノミは、奇想天外な展開についていけるらしい。信じがたい事をウダウダ説明しなくて良いが、反面少し不安な傾向にも感じる。男が微妙な表情で固まっていると、ルノミは『これらか会う人物』の裏事情を察した。


「へ? へっ⁉ あぁそういう事!? いやマジで!?」

「……声が大きい。少しは控えんか」

「す、すいません……でも、そっか、だから会わせたいと……」

「うむ。あの娘はユニゾティアの住人じゃが、わしの背景を明かせる相手じゃった。まだこの世界の常識を知らんかった時期に、色々と教えてもらったわい」

「なるほど……」


 テティ・アルキエラ……聖歌公国と緑の国の国境沿い、ホラーソン村出身の少女だ。死んだはずの晴嵐がユニゾティアで目覚め、成り行きで蛮族的活動中のオークから彼女を救出。その際知り合った離反者のオーク、スーディアの後押しもあって……互いに背景を『与太話』として交換。その後は世界の常識を知らなかった彼へ、必要な情報を教授してくれた相手だ。


「賢い娘でな。それに歴史にも興味があるらしい。お主の話をすれば、多分食いつくじゃろう」

「歴女さんなんですね! じゃあオタク?」

「さっきも言ったが『お姫様』じゃよ。会えばわかる」


 休憩中の2班に立ち寄った所で、一旦二人は話をやめた。『テティ・アルキエラに会いたい』と伝えると、兵士の一人が親指で後ろを指す。示した先には立体旗を抱えながら、目を閉じ凛と佇む少女の姿があった。

 ルノミが息を飲む。かつて彼女を見たオークの青年が『お姫様オーラ』と呼称した、彼女特有の気配を読み取ったのだろう。年不相応の落ち着きと、清廉された所作と精神性……そうした細かな一つ一つが、テティ・アルキエラから『オーラ』を生成していた。


「久しぶりじゃな、テティ」


 威圧されてないのに妙に話しかけにくい。とっかかりとなるべく、知った顔の晴嵐が先に声をかけた。

 まどろみから覚めるように、金の髪を揺らして起きるテティ。妙に真の強い紫の瞳は、眼光を揺らさず二人の姿を見た。


「あなたは……セイラン? セイラン・オオヒラよね?」

「フルネームで覚えておるのか?」

「出来るだけ覚えるようにしているの。性格や特徴もセットで。でも変ね? あなたって、折に合わせて挨拶に来る人だったかしら?」

「紹介したい奴がいてな。コイツだ」

「えぇと……は、初めまして! ルノミと言います!」


 ルノミ、何故がガッチガチに緊張して挙手敬礼。初対面に緊張するのは、生身の人間なら珍しくない。彼女のオーラが、ますます身を固くさせたのだろう。しかし、今の彼は金属の身体。感情の起伏が薄いゴーレムだ。ユニゾティアの常識にそぐわぬ彼の姿に、テティは意味深に指を唇に添えた。


「特殊な案件で、私に相談すべき事案? 再会早々せっかちね、セイラン」

「流石だな……」

「へ? え? なんで!? エスパーですか!?」


 久々に会って、少し会話しただけでこれだ。流石は元『お姫様』であると同時に、外交担当と主張するだけある。彼女は物事を察する能力や、状況から読み解く能力がずば抜けて高いのだ。


「それだけ『変わったゴーレム』を晴嵐が連れていて、私にわざわざ挨拶に来る時点で察せるわよ。内容は?」

「そうじゃな……こいつの『与太話』に付き合ってほしい。と言ったら?」


 晴嵐とテティでの間で『与太話』は、特別な意味を持つ。『この世界に来る前の話』をする際の暗喩あんゆだ。もちろんテティも覚えており……一瞬だけ目を見開いた。


「……ウソでしょ?」

「嘘と思いたかったがな。わしも」

「えっと……その、色々と複雑な事情がありまして……僕、生身の人間だったんですけど……目が覚めたら、この体に。『憑依型ゴーレム』って種類で、一応は『この世界』の技術だそうです。後に欠陥が見つかって、生産中止になっちゃったみたいですけど」

「この世界……ね」


 まだ完全に信じてはいないが、一蹴もしない彼女。ひとまずは話を聞く姿勢で、ルノミの姿を眺めていた。

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