匹夫の新兵
前回のあらすじ
立体旗のドワーフも加わり、激化する戦闘を繰り広げる。押され気味の戦局だけど、下手に撤退すればドぐガスの罠が起動した通路に押し込められてしまう。引くに引けず、抗戦を続けるしかなくなった。
聖歌公国の新兵たちは、無尽蔵に湧いて出る骨の兵士に苦戦を強いられていた。単体の戦闘力は大したこと無いが、中々倒せずしぶとい上に数が多い。各所に展開した新兵たちだが、現状は拮抗状態……と言った所か。
「数か……数が多い!」
オークの新兵として参加するヤスケだが、彼らの中ではかなり戦える方だ。立体旗の効力が切れても戦闘を継続し、合流してからも奮戦を続けている。氷を頭に成型するメイスを使い、盾を持つ左手を叩き落してやった。
「いただき……!」
合流した部外者の晴嵐が、敵が落とした盾を奪取し……即座に近場の敵へ投げつける。フリスビーの要領ブン投げ、数体をなぎ倒した鉄の塊は土煙を上げながら足元を転がり、最後は這いずっている一体を潰した。
次の敵が背後から迫るが、ノールックで足を払う晴嵐。骨だけの身体は脆く、重量バランスも悪いのだろう。転倒する前に今度は剣を奪ってトドメを刺し、敵集団に向けて投げ捨てた。
鮮やかな手並みに、旗持ドワーフが問わずにいられなかった。
「手癖悪いな!? 盗賊でもやってたのかよ!」
「使える物は何でも使う主義なだけじゃ! これだけ敵が生えてくりゃ、武器だっていくらでも収穫出来る!」
言ってる傍から……乱戦で使い込み、歯の欠けたカトラスを両手で振り下ろす。敵の腕一本を引き換えに寿命を迎え、ひしゃげて歪んだ剣だったモノをまたしても敵集団に不法投棄。即座に腕ごと奪った新品を使い、ガラ空きの胴体を両断した。
「質は悪いが使い放題だ! まさしくバイキングじゃな!」
これで船の上で、特徴的な帽子でも被っていれば完璧だろう。使いたい放題、食べ放題の形式とも合わせた揶揄に、ヤスケもドワーフも軽口で返した。
「どうせ食うなら、うんまいフルーツがいいんですがね!」
「俺は取り放題なら金目の物がいいね! 王冠とかネックレスとか!」
「そうか? わしは安物でも、実用品がすぐ手に入る方が助かる! 使い潰すのも惜しくないしのぅ!」
「今この場においちゃ正論だな!」
立体旗が胴をふっ飛ばし、骨の兵士を撃破したが……一息つく間もなく、次々と『おかわり』がやって来てうんざりする。睨みつけた彼らの背後から、弱々しくも必死な声が降りて来た。
「う、う、うぉ……! うわぁあぁああっ!」
ちらりと後ろを見れば、ヒューマンの兵士が得物を手に駆け抜けて来る。彼は一度戦線から退避した兵士……ヤスケが助けに入り、立体旗の影響下を目指した9班の兵士だ。
「や、や、やってやる! やってやるぞぉ!」
涙目で戦う彼の武器は、長い棒の先端に鉄球を装備した武器……『モーニングスター』だ。匹夫の勇を振り絞って、交戦中の三人に加わる。怯えを見せながらも引かないのは、立体旗の効力だろう。
戦意を高揚させ、痛覚や恐怖などの精神的不快感を抑制する効果の魔法、立体旗。そのおかげで、実戦経験が浅くても何とかなっている。悲鳴と気迫の入り混じった声で、鎖付き鉄球をブン回した。
「おりぁぁぁああぁっ!」
けれどやはり、新兵は新兵だ。狙った鉄球は敵の頭上を通り過ぎ、あさっての地面を叩き潰す。大急ぎでヤスケが『盾の腕甲』を構え、新兵を狙った斬撃を受けた。
「あ、う、す、すいません!」
「気にするこたぁありません。それより、よく無事でしたね!」
『旗持の所まで逃げろ』と指示を出したが、結局こっちの旗持の所まで戻って来た。おっかなびっくり鉄球を振り回しながら、新兵は無理に笑いながら経緯を語る。
「旗持の所……な、中々、いけなくて! け、けけけ、結局ヤスケの所、戻ってきちゃった!」
「死んでないだけ上等だな! あとは当ててくれればいい!」
「もう少ししっかり狙わんか!」
逃げずに戦う意志は良いが、振り回すモーニングスターが悉く当たらない。たまに当たったか思いきや、かすっただけとか盾に防がれたりで、ちっとも敵を倒せやしない。これでは戦力に数えていいか……と頭によぎった時、鉄球が鈍く光を蓄えているのに気が付いた。
「何だ? 魔法を仕込んでるのか?」
「は、はい! アースレイジを!」
確かそれは……物理衝撃を吸収し、蓄積し、開放する魔法だったか? 防具に使えば衝撃を和らげつつカウンターを仕掛けられる。晴嵐が見たのは『武人祭』の中継で、大剣使いが攻防一体の魔法として運用していた。モーニングスターでは、衝撃吸収を防御に使えないが……空振って地面を叩きつけても、使い手に振りかかる反動を緩和してくれた。
さらに――外せば外すほど、先端の鉄球は衝撃を吸っていく。武器に振り回されている新兵でも、この組み合わせの装備なら戦果を挙げる事が出来るのだ!
「うぉぉぉ! 唸れアースレイジーッ‼」
空振りに空振った衝撃を、骨の群れに向けて激突させる。上から振り下ろされた鉄球に一体が潰され、地面に着弾した瞬間に――強烈な衝撃波となって拡散した。
今回のエネミーは悲鳴を上げないが、もし声を出せるなら叫んでいただろう。わらわらと密集していた奴らが、ボーリングのピンよろしく骨を散らして木っ端微塵に。うんざりするような数が綺麗に消し飛び、どこからともなく口笛が聞こえた。
「ひゅーっ!」
「や、や、やった!」
「気分爽快ですねぇ!」
近場からも小さく感性が聞こえる。扇状に消し飛んだ雑魚の群れは、逼塞感の強い現状に風穴を開ける。消え去った敵共の奥に、鈍い黒色の正六面体が見えた。




