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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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徹底抗戦

前回のあらすじ


ガスと敵の出現で挟み撃ちに合う兵士たち。一部が旗を折られ、戦意を折られる者もいる中、一人のオーク兵が奮戦する。晴嵐が助けに入ると、かつてホラーソン村で縁のあったヤスケ・ミゾグチと判明。こんな所での再会を喜ぶ間もなく、湧き出る骨のエネミーと戦い続けた。

 わらわらと湧いて出て来るエネミーに、聖歌公国の新兵たちは苦戦を強いられていた。

 より正しい言葉を使うなら……敵と毒ガストラップ、そしてダンジョンの地形に苦しめられている。退路の一つはガスで塞がれ、先行した班が罠に掛かっている。幸い、どこかのお人よしゴーレムが素早く行動したおかげで、最悪中の最悪は避けられている。5班までは通路から退避に成功し、戦列に加わっていた。


「1班! 3班! 状況は!?」


 小言をたしなめられたドワーフ新兵が旗を掲げて叫ぶ。7班所属の彼は、晴嵐と同じ班に所属。通信と戦闘行為を補助支援する魔法、立体旗ホロフラグの使い手らしい。先行していた晴嵐に追い付き、ヤスケにも通信内容を聞かせていた。


『いい知らせと悪い知らせがある! どっちから聞きたい!?』

「さっさと報告してくれ!」

『なら、いい知らせから! 四本腕のゴーレムが、最後の二名を救出中! 後半の奴は解毒魔法の効きが悪いが、前半の四名は何とか戦列に復帰できそうだ! この調子なら、ガストラップでの人的損失はゼロだろう!』

「どこの誰だか知らないが……ありがてぇ!」


 立体旗越しの報告に部隊は湧くが、ほんのわずかに晴嵐の顔が曇った。班も所属も無視して飛び出し、一も二も無く飛び出した奴の行動だ。結果は出ていても、決して褒められたものではないと思う。微妙に逸れた思考の隙に、骨兵士が襲い掛かる。舌打ちと共に構えた傍から、立体旗のドワーフが幻想の旗を真っすぐ突いた。

 盾で受けようとした骨が、結果的に衝撃を全身へ伝播させてしまう。ある種芸術的に骨が四散し、ドワーフ旗持が男と目線を合わせた。


「どうよ! 旗持だって戦えるぜ!」

「すまん、助かった」


 補助支援、通信役が前線出るのは危なっかしいが……敵の数を考えると、人手はいるだけありがたい。そのまま棒術を披露しようとする旗持に、氷のメイスを握ったオークがきつく言った。


「自衛力があるのはありがたいが……無理せず援護に徹してくれ! 旗持が倒れたら、他との状況も分からなくなっちまう! 晴嵐の旦那やあっしは大丈夫でしょうが……不慣れな連中にゃ、魔法の補助が必須でしょうよ!」


 晴嵐は効き目が悪いのか……立体旗の効力を実感しにくい。クソッタレな環境に身を置いた経験から、晴嵐にとって敵意や殺意は隣人だ。ヤスケとやらの経歴は知らないが、スーディアやラングレーと同じ集団に属していたと思われる。ヤスケの言い分は順当なもののだが、口論する時間は敵の襲撃で奪われた。


「チィッ‼」


 盾を構えて、骸骨兵士が襲い来る。盾に気合を入れて殴りかかり、後ろに下がらせようとした。


「あ、ヤベッ!」


 角度が悪かったのか、偶然噛み合ってしまったのか……ヤスケのメイスが高く弾かれてしまう。ガラ空きになった胴体めがけて、髑髏どくろがカトラスを――


「ヤスケ!」

「ったく!」


 晴嵐は奪ったカトラスを、ドワーフが立体旗を交差させ敵の剣筋を阻む。ちらりとドワーフが晴嵐に目線を送ると、すぐに男も心得た。剣をかざしてで激しく打ち合い、意識が逸れた隙に旗持の突きがエネミーを吹っ飛ばした。


「貸しにしておくぞ、ヤスケ!」

「あぁもう! またダンナへの借金増えちまいましたよ!」

「なんだよお前ら知り合いか!?」

「ちょっとしたな! こんな所で再会するとは思わなかったが――次が来る!」


 まだまだ敵の数が減らない。奪取した曲刀を寝かせて、増援の骨の兵士と戦う晴嵐。敵の攻めを受け流しつつ、カトラスを敵の腰骨・背骨めがけて突き入れる。結合を失った上半身と下半身が崩れるが、これだけでは奴は戦闘不能にならない。剣と盾を握ったまま這いずってくる……

 トドメを刺してやりたいが、別の骨兵士が仕掛けて来た。危うい所で剣をかざし、カトラス同士が火花を散らす。単体なら押し切れなくも無いが……先ほど倒した這いずり個体が近い。状況不利を悟ったヤスケが、盾に向けて氷のメイスを打ち付けた。


「厄介な……! 少し下がりましょう! ダンナ!」

「そうしたいのはやまやまだが……! 下がったら他の班が出れなくなる!」


 言われてヤスケがハッとする。毒ガストラップから逃げて来た新兵たちだが、ここで後退すると通路に逆戻りだ。しかも最悪な事に……その通路の先で有毒ガスは噴出中。事実上の袋小路である。おまけに一度押し込まれたら、室内と違って部隊を展開する事も出来ない。部隊全体が通路にすし詰めになって、敵からはもぐら叩きにされ、後はガスと骨でサンドイッチにされておしまいだ。

 さらに悪い事に、骨兵士の『エネミー』は簡単に死んではくれない。全身バラバラにしてやっと消滅が始まるような相手だ。半端に倒せば、這いずって死角から攻撃されかねない。仕留め損ねた敵を面倒に感じていると、鋭く足元に向けて立体旗が差し込まれた。

 ビリヤードよろしく頭蓋骨が吹っ飛び、骨の塊が四方へ飛ぶ。してやったりと旗持ドワーフが笑った。


「足元は任せろ! 長物の棒術なら、こういうのを潰すのは得意だ! 最前線にも出ないしな!」

「「助かる!」」


 これなら、晴嵐とヤスケは正面戦闘に注力できる。うち漏らしを旗持に任せれば、押し込まれる事は無さそうか? 安堵は一瞬で過ぎ去り、旗から聞こえて来るのは『悪い知らせ』だ。


『ガスの噴出が止まらない! 罠を踏んだ時の、5班のいる位置付近まで蔓延しつつある!』

「おいマジかよ⁉ まさか室内まで漏れ出て来ないだろうな!?」


 返答はない。分からない。けれど戦っている自分たちとしては死活問題だ。こうなったら――


「こいつらを押し返すしかない! 踏ん張れ!」

「あぁもう! 再出発早々不運でさぁ!」

「愚痴る前に手を動かさんか!」


 罠と敵に挟み潰される前に、片方を押し返すしかない……外部からの合流探索者の晴嵐と、ドワーフ新兵の旗持、そして偶然再会したオークのヤスケの三人は、徹底抗戦を続けた。

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