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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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「「どうしてこんなところに」」

前回のあらすじ


聖歌公国、新兵集団に混じって進むことにしたルノミと晴嵐。しかし幸先悪く先頭が罠を踏み、足止めを余儀なくされる事に。いつの間にか飛び出したルノミの活躍を、立体旗の通信越しに聞く晴嵐。だがまだ危機は去っていない。休息に使っていた室内からも、連動してエネミーが出現し始めていたのだから。

 通路は毒ガス、退却ルートの室内にはエネミーの出現。罠と敵の挟み撃ちを受ける状況だ。幸い、立体旗ホロフラグの効力か……それとも相互通信のおかげで精神が安定しているのか、総崩れの気配はなかった。


『12班も反転する! 背後を突かれてはたまらん! 11班は交戦より、室内への展開を優先しろ! 後ろの班がつっかえちまう!』

『11班了解!』


 奇数組最後尾の11班が通路から出ないと、他の班も脱出できない。毒ガスの噴出状況は分からないが、徐々に拡散されれば危険だ。晴嵐が配属された7班も、そのうち呑まれるかもしれない。幸い、新兵の割に判断は早かった。


『9班も室内に侵……! うわっ!?』


 通信が途中で切れる。通信を聞いた全員が嫌な予感がする。最寄りの班は恐らく……自分たち7班。危険を察知した晴嵐が駆け抜けていた。


「わしは軽装だ。先行する!」

「……分かった!」


 先ほどまで休息をとっていた室内にトンボ帰りする晴嵐。前方からは剣戟の音が聞こえて来る。出現した『エネミー』の近くに、虚しく立体旗が転がって……今まさに、9班の旗持が『エネミー』と同じように消えていった。


「ひいぃぃぃいいっ!」

「くそぉ! くそぉぉ……!」

「痛い……怖い……!」


 敵は……骨だけで組まれた身体に、兜と盾と曲刀……カトラスを手に襲い掛かって来る。装備は貧弱なものの、数があまりに多い。立体旗が消えていった周囲の兵士は、立体旗の効力を失ってへなへなと崩れ落ちていた。

 戦争中のエルフ軍にも見られたが、新兵だからこそより顕著に『立体旗』の恩恵を受け……それが切れた時の影響も大きい。多くの者が崩れ落ち、追撃されて消えていく。だが絶望の最中でも、膝を折らずに戦う一人のオークがいた。


「落ち着かんと……死にますぜ?」


 盾の腕甲を起動させ、右手に氷塊を形成したメイスで対峙する。魔法が切れているはずなのに、彼の戦意は衰えていなかった。折れかけた庇いながら、戦闘を継続している。


「訓練を思い出すんですよ! 所属の旗が折られたら、別の旗持の近くに移動する! そうすりゃまた立体旗の恩恵を受けられる!」

「で、でもあなたは……」

「今のアンタに、心配されたくないでさぁ!」


 奴らに対して応戦するオーク兵。大急ぎで晴嵐側……7班の旗持の所に急ぐ新兵とすれ違い、晴嵐が脇から飛び込んだ。


「そこの! 援護する!」


 サバイバルナイフを握りしめて、他の兵士に組み付く敵へ対応する。前衛のオークの新兵がメイスを振るい、盾で受けさせている。一瞬の隙に飛び出した晴嵐が、突風めいた速度で喉めがけて突き入れた。

 ごりっと喉仏を潰す一撃で、頭と胴が離れ離れになる。からんと音を立てて転がる頭蓋。これでまずは一匹……と睨みつけた刹那に悪寒が走った。頭部を失った骨が曲刀を振り上げ、殺意が鈍く閃いている。


「何!?」


 咄嗟に左手でダガーを放ち、自らに迫る凶刃を逸らす。歪んだ軌跡の斬撃が、左足から四センチの位置にめり込んだ。肝が冷えたが、それも一瞬。刃を避けた脚を上げて、剣を握る関節を蹴り飛ばしてやった。

 手首と肘かあっさりと宙を舞い、骨の右手が喪失する。にもかかわらず、他のエネミーのように消えたりしない。未だに健在。動揺より不気味さが勝る中、後ろから鋭い声が飛んだ。


「スイッチ!」

「!」


 メイスを振るう兵士の声に、反射的に晴嵐が応対する。ここより浅い階層で、ルノミと打ち合わせた成果が出た。前衛・後衛を切り替える合図に従い、彼が身を引くと同時に、新兵の『盾の腕甲』が輝きを放つ。相手の物理盾をメイスの柄で抑え込み……魔法で形成したシールドで思いっきり殴りつけた。

 肋骨から衝撃が全身に広がり、骨野郎は一撃で四散した。身体中をバラバラにして、ようやく他の『エネミー』と同様に消えていく。一息ついてオーク兵と目を合わせると、相手側が目を丸くした。


「セイランの旦那!? どうしてこんなところに!?」

「あん?」


 いきなり名前を呼ばれて、彼もまた驚く。このオークはスーディアとは違うし、彼の友人たるラングレーでもない。もう少し聞き出したかったが、新手の太刀筋に二人は左右に別れる。追撃は盾の無い晴嵐側。跳躍して降ろされる一撃をスレスレで避けると、脇で腕を挟み込んで曲刀を奪い取る。自分のナイフを収納し、曲刀を上段から真一文字に振り下ろした。

 甲高い金属音。盾で受けられた。だか構わない。背後からオーク兵が真横にフルスイングを決める。背骨が快音を立てて吹っ飛び、胴体が背中側から真っ二つに折れて砕け散った。張りつめた顔で向き合うが、やはり晴嵐は思い出せない。


「ホラーソン村の事、忘れちまいましたかい!?」

「覚えておるが……すまん、お主の事はまだ!」


 互いに真っすぐ前進し、相方の背後に迫っていた敵に応対する。晴嵐は骨の足を蹴り飛ばし、奪った曲刀で切り払う。オークは氷のメイスで盾ごと叩き潰した。


「人食い熊退治の時……あぁ、ダメだ。あれは口止めされてやした! 森の奥の事は!」

「人食い熊……森の奥……口止め……」


 随分遠い昔の事な気がする。晴嵐が『この世界』で目覚めた最初の地点、ホラーソン村での人食い熊退治……そんな事もあった。口止めと言われて、やっと晴嵐も思い出した。


「お前あの時の……! 確か首輪つけられいてた奴か!?」

「へい! ヤスケでさぁ! やっと思い出してくれやしたね!」


 ヤスケ・ミゾグチ……人食い熊退治の際、死亡したオークの亡骸の回収を試みた晴嵐と、その担当班に所属していたオークである。村での立場は低かったようだが、兵士たちに嫌われてはいなかった。運悪く晴嵐ともども森の奥から『悪魔の遺産』で銃撃され、辛くも共に生き延びた間柄である。


「どうしてこんなところに……!? 随分印象が違うな!」

「懲罰奴隷の期間も終わったんでね! シエラの姉御が気に入ってくれたモンで、今は新兵として訓練中でさぁ!」

「お主が新兵? 戦い慣れてないか!?」

「脳筋長の所で、個人技だけは磨いてたんでね!」


 どこか懐かしい単語の群れだが、噛み締める余裕も無い。いつしか背中を預け合い、無数に湧き出る骨どもと対峙した。

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