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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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幸先不安

前回のあらすじ


兵士たちは休息を終え、合流したダンジョン探索者と共に出立の準備にかかる。その不合理をぼやいた一人の兵を、代表者のタイラー卿は聞き逃さない。威圧感のある激を飛ばしつつも質問に答え、全員の足並みをそろえた所で出発した。

 二十四層の大きな一室を、百から二百名の集団が進む。班分けされた聖歌公国の新兵たちと、居合わせ合流した探索者が列を成した。


「奇数の班は正面方向を、偶数の班は右方向のルートから進め。立体旗ホロフラグの展開絶やすな。魔力量を調整し、混線しないように留意せよ」


 相互通信を可能とする魔法、立体旗を掲げて集団が二手に分かれる。分離しながらも互いの状況を確認し、連携し連動する訓練か。晴嵐たち合流組、もっと言うなら探索者たちにはあまり馴染みが無いダンジョンの進み方だ。

 今の階層では、ダンジョンへの探索は数人単位での行動が多い。音や気配で別の部屋を探る事はあっても、詳細までは把握できない。なんだかんだで、やはり集団は強いのだ。

 しかし……ここで晴嵐が所属する側でトラブルが起きる。先行する別の班、進路が何か騒がしい。


「何だ……?」

「どうしました?」

「雰囲気が……気配が違う気がする」


 ルノミに問われ、晴嵐が答える。残念ながら正体は分からないが……彼は何かを感じ取っていったようだ。けれど詳細は分からない。集団行動の弊害だ。

 だが……『嫌な予感』を、不穏な気配を読み取ったのは、晴嵐だけでは無いようだ。全体の行軍が鈍り、それが旗持へ伝わり、通信を促していた。


「前方の……えぇと、一班か? 状況知らせ!」

『……こっちは二班よ』

「あっ……す、すいません」

『気にしないで。これも訓練の一環だから。急を要する事なら、とりあえず軍全体に通達するように』

「は、はい!」


 間違った相手に繋いでしまったらしい。実地戦闘なら致命的なミスだ。一手の遅れが勝敗を分ける場面もあり得る。訓練で良かった……と安堵する間もなく、別の班から切羽詰まった報告が届いた。


『くそっ! 罠を踏んじまった! 奇数班はすぐに戻れ!』

「‼」


 不穏な気配の正体はそれか。半分察していた晴嵐たちの反応は早い。けれど最後尾はどうだ? 通路は狭く『全体』が反転するまでどれだけかかる? 集団になればなるほど、即応力はどうしても遅れがちだが――立体旗からの通信が、すぐに兵士たち全体に共有された。


『11班了解! 進路反転! 9班も続け! 後ろがつっかえちまうぞ!』

『9班了解! 各班点呼を!』

「7班了解」

『5班も了解! 3班!』


 立体旗を通した伝達で、速やかに各班が行動に移っている。休息に使った大部屋へとんぼ返りしていく四つの班だが、3班からの連絡は切迫していた。


『こちら3班! 1班がガスに飲まれた! 緑色のヤツだ!』

「『『『‼』』』」


 狭い通路に仕込まれたトラップは……恐らく有毒ガスを噴出する罠だろう。立体旗の通信越しに、焦りがひしひしと伝わって来る。先ほどたまたま混戦した『2班の旗持』が、よく通る女性の声で伝達した。


『パニックを起こさない! まずは状況報告‼』

『は、はい! 先行した1班が……何らかの罠を起動させてしまった模様! 見えた範囲ですが、通路の左右及び天井から穴が開いて……そこから緑色のガスが噴出しています!』

『現状は? 1班の様子は!』

『せき込んで、皆倒れていて……現在もガスは噴出中! このままだと3班も呑まれそうです! ガスの圏外まで引いて待機します! 対応指示を!』


 厄介な事になったものだ。出だし早々ついてない。とりあえずは自分も集団と共に引くとしよう。隣に目を向けて促そうとした時、既にルノミの姿は無かった。


「ルノミ? ルノミ!? こんな時にどこ行った!?」


 集団に気を取られたからか、それとも彼が集団に紛れたのかは知らないが……いつの間にかルノミの姿が無い。遅れて気が付いたけれど、探している余裕も無さそうだ。今は流れに身を任せて引くしかない。そう、思っていたのに――次に3班の旗持が驚愕の声を上げた。


『!? おい君! 何を――』

『どうしたの?』

『ゴーレムです! ゴーレムの……合流した方の一人が飛び出して! は、はぁ!?』

『落ち着いて! 正確に報告する!』

『う、腕を四本伸ばして……1班の救出を試みています!』

「あの馬鹿!」


 反射的に晴嵐が吠える。ガス云々の話になった時点で、進路の先……罠にかかった1班の所へ駆けだしていたのだろう。四本腕のゴーレムなんて特徴は、恐らくルノミ以外にいないだろうから。

 一瞬迷ったが、晴嵐は集団と共に移動を開始する。散々話し合った上で直らないお人よしに付き合えない。それに晴嵐まで、集団の和を乱しては収拾がつかなくなる。足取りが悪い事は、彼自身気づかなかった。


『すごい……! 二名同時にガス外へ引っ張り出しました! 君、平気なのか? そうか、対生物への毒素だからゴーレムには――あぁ、済まない! 残り十名の救助も頼む!』

『救助は何とかなりそうね……解毒魔法の使い手はいる!?』

『確か5班と7班に! 解毒魔法担当は前方に移動! 残りは急いで後方に――』

『奇襲!』


 僅かに緩んだ空気を突き刺すように、別の班から悪い知らせが届く。後方に引いた11班からだ。


『後方から転送魔方陣! トラップに連動して出現する仕掛けだった模様! 敵種はスケルトンソルジャー系列! 数は三十以上! なおも増加中!』

「クソが!」


 罠にかかって弱った所か、罠で退路を塞いで袋叩きか……どっちも狙える嫌な配置だ。対応が求められる中、晴嵐は無意識に刃物を抜いていた。

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