表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

618/739

不慣れな兵士たち

前回のあらすじ


対人チュートリアルを終え、ルノミと晴嵐の『ダンジョンを進む方針』をざっくりと決めた。ルノミには時間制限があり、そして自分たちはダンジョンから得られる資源についての優先度は低い事から、出来るだけ効率よく進みたい。けれどお人よしのゴーレムの中身は、中々割り切れないらしい。どうしても晴嵐と意見がぶつかってしまう。話し合うほどこじれそうなので、一旦割り切って攻略に注力すると、大規模な集団が見えた。

 現在、晴嵐とルノミがいるのは二十四階層。対人関係チュートリアルが終わり、他の探索者と遭遇する領域に入った。だから、集団で探索をする一団と出会ったとして、何の不思議も無いのだが……地球出身の二人は面食らった。

 前方に見える集団は、素人目に見ても大規模と言える。百名から二百名の集団に見えた。全員が近い雰囲気の衣装・衣服を装備しており、突発的な連合ではなく、最初からこの人数と装備でダンジョンへ侵入したのだろう。


「晴嵐さん、あれは……?」

「格好に見覚えがある。聖歌公国の軍隊か?」


 喋りつつ、晴嵐は自分の脳内の記憶と照合を始める。若干記憶が怪しいが、恐らくそうだと思う。回想する過去は、さほど時間は経ってないはずだが……何故か遠い昔の事のように感じられた。

 ここ、聖歌公国首都・ユウナギに来る前、晴嵐は亜竜自治区で武人祭を観戦しつつ史跡を探していた。ところが緑の国からの宣戦布告を受け、急遽武人祭は中止。軍籍を持つオークの知人、スーディアを補助するために傭兵として晴嵐は登録。戦場のわき役だったものの、聖歌公国の正規兵とも連携した。あぁ、そうだ。確か掲げた立体旗ホロフラグの紋様が、あの時の戦場で見た物と同じだ。


「四方向の通路に、旗持はたもちと数名で待機。周辺警戒をげんとせよ。他の探索者と接触した場合は、規定通りに交渉を行え」


 旗を掲げた者と数名がこちらに歩いて来る。身を隠す物も無いので、すぐに二人は発見された。まだ若く初々しい獣人の旗持と、これまた若々しいドワーフの剣士が距離を置いて話しかける。


「あー……えぇと、探索者の方ですね?」

「はい。そうですが……」


 声のかけ方がぎこちない。物騒な晴嵐を警戒しているのではなく、純粋に不慣れな、自信の無さから来る固い態度だ。

 晴嵐からすれば、それもまた『隙』に見える。向こうがまごついている間に、男から言葉で切り込んだ。


「お主らは……聖歌公国の兵士じゃな?」

「へ? なんでそれを……」

「もしや軍籍の方……? ね、ねぇゼット、これって抜き打ちテストじゃないよね……?」


 男がぐっと距離を詰めると、面食らった二人がひそひそ話し合っている。何を勘違いしているのかは知らないが、この言動はいかがなものか。何かの審査員だとしたら、晴嵐は間違いなく赤点を出すだろう。ルノミがこちらと向こうを、交互に見るのも気まずい。「コイツは違うが……」とゴーレムの方を掴みつつ、晴嵐は話を続けた。


「わしは少し前の……国家間の小競り合いで、聖歌公国側の傭兵として参戦していた。じゃから軍籍は無いが、察しは付いた」

「あっ……そうでしたか! お疲れ様です!」


 獣人が挙手敬礼する。釣られて、ルノミがやりそうになったので晴嵐が止める。そしてツッコミを入れたのは、晴嵐だけでは無かった。


「……チェチェ、ちょっと変な応対じゃないか? 正規軍じゃない訳だし……」

「え? そう? でも私達は予備兵力、待機兵だったでしょ? 前線にいた人は労うべきじゃない?」

「その場限りの傭兵なら、個人的な貸し借りが無きゃ別にいいんじゃ……?」


 曖昧に迷う彼らを見て、ルノミも感じたのだろう。おずおずと手を上げて質問した。


「あ、あのー……失礼かもしれませんけど、お二人とも不慣れです……?」

「「うっ」」


 同時に固まる兵士二人。薄々晴嵐も察していたが、軽くルノミをコツッと殴って頭を下げさせた。


「すまんな。コイツあまり遠慮がない奴で……流石に直球すぎるぞ」

「あっ……すいません」

「い、いえ、お気遣いなく」

「こういう応対も含めて訓練だしな……」


 獣人とドワーフが、苦々しくも現実を受け止める。僅かに漏れた単語から、晴嵐は彼らが何者かを推測し、口にした。


「訓練……さっき戦争中は後方の控えと言ってたな?」

「えぇ。まだ訓練兵の時期でして……」

「それは今もか? あるいは……新兵扱いか」

「傭兵ってスゲぇ……あっ、失礼。ご明察です」


 感心するドワーフの兵に同調するように、ルノミの頭部液晶が灯る。(‘’ω’’)の表情は掴みどころがないが……所作からして不快な反応では無さそうだ。話が止まった所で、獣人の新米が断りを入れてから、胸ポケットにしまっていた緑色の石ころ、ライフストーンを表示させて言う。


「えぇと……我々は聖歌公国の兵士です。現在、ダンジョン内での訓練カリキュラム中となっています。お手数ですが、一度日を改めて探索していただくか、一群に合流していただくかを選んでください」


 獣人兵士が読み上げるが、ところどころ詰まったりテンポが悪い。『規定のマニュアルに従っています』と所作で示していた。急な事に驚きつつ、ルノミは首を傾げて質問する。


「どうしてです? ダンジョンは誰にも開かれているんじゃあ……」

「えぇ、まぁ……ですから、こうして占有するのは心苦しくもあるのですが、軍の規定でして……」

「確かタイラー卿の方針だろ? ハイエナ・コバンザメされるのは御免被るってヤツ」

「正直、別にいいじゃんって思っちゃいますけどね」


 兵士二人のぼやきを受けて、男がルノミへ囁いた。


「聖歌公国軍の新兵を、ダンジョンで鍛えようって腹なんだろう」

「なるほど……でも合流って何でしょう?」

「さっぱり分からん」

「聞いてみましょうか」


 聞くだけならタダだし、晴嵐が傭兵として所属していたとも告げている。返答は当たり障りのない内容だろう。ただの建前かもしれないが、表層を見るだけでも予想は出来る。頷いた晴嵐は、応対をしばらくルノミに任せた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ