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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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毒気を抜かれる

前回のあらすじ


敵の自爆により分断され、しばらく相互にやり取りが出来なくなる。煙が晴れると全員無事だが、敵が落とした宝箱は一つだけ。取り分をどうするかと話し合いになると、あっさりルノミが譲ってしまう。お人よしに過ぎる行動をルノミ以外は呆れていたが……三人の冒険者は、警告を残して消えていった。

 晴嵐がもう一度ため息をついて、残された宝箱を見やる。中身は大した事が無いのかもしれない……と薄々察しつつ、固まったルノミの肩を揺すった。


「しっかりしろ、ルノミ」

「え? あ、あぁ……す、すいません。どういう事……?」

「おいおい、言い出しっぺはお主じゃろ」

「何のことです?」

「チュートリアルだよ」


 視線を宙に泳がせる彼は、まだ意味を読み解けずにいるらしい。軽く頭を掻いて、晴嵐はゴーレムの彼に伝えた。


「多分だが、対人関係のチュートリアルじゃろう。戦闘前に自分で話していたじゃないか」

「それは……いやだって、えぇ?」


 先ほどの三人が『チュートリアル担当』と晴嵐から言われて、動揺し身体を揺らすルノミ。やはり気が付いていなかったかと、男は自分の予測を述べた。


「色々とタイミングが良すぎただろう? 二十一階層に降りた直後に、助けを求める別の人間が現れる……なんてのは」

「あの話は半分冗談で……で、でも随分とリアルな人間だった気が……」

「リアル? 外見はそうだったかもしれんが、こっちが指示したり声をかけてからやっと動いておったじゃろ。最初の叫び声こそ迫真じゃったが、それを除けば自我が希薄だったように見える。それにところどころ、説明口調っぽくなかったか?」

「言われてみれば……でもなんで教えてくれなかったんです?」

「余裕が無かったじゃろ……」


 ルノミが頷く。実際の所、説明や耳打ちする間はなかった。エネミーへの対処に追われ、倒したと思いきや自爆……聴覚もやられて、言葉による意思疎通の時間もない。薄々は感じ取っていたものの、伝えるタイミングを逃していたのだ。


「じゃああの人たちって……ダンジョンの主が用意した……?」

「人だけでなくエネミーやあの環境……金の宝箱が一つだけ出現したのも含めて、すべてチュートリアルと推測する」


 思い返せば、色々と状況が出来過ぎていた。行く先に悲鳴が聞こえて、見知らぬ三人が敵に囲まれ窮地に陥っていた。しかし室内は一か所、思わせぶりな逃げ道が用意されていた。まずそこで『共闘するか』『逃げるか』の選択肢が生じていた。……ルノミは即座に『共闘』の判断を下していたので、見えていなかったが。

 他にも戦闘中、敵の爆発への対処や戦闘方針の選択、戦闘後は貴重と思しき戦利品への配分など……様々な所で『対人関係の選択肢』が用意されていた。


「それじゃあ、まるで」

「対人トラブルを意図的に発生させようと……わざとそういう配置にしたんじゃろ」

「あ、悪趣味な……!」


 人と人が争う環境を整えて、探索者を放り込む……ダンジョンを作った奴に非難を向けたくなる気持ちは、ルノミとしては自然な物なのだろう。同意できる気持ちもあるけれど、晴嵐の印象は少々異なった。


「そういう解釈もあるが……ダンジョン近辺の下町を思い出してみろ。中々ガラの悪い雰囲気を感じなかったか?」

「……なんとなく覚えています。ダンジョン物の定番ですね」

「で、そういう人種がダンジョンに潜ってる訳じゃろ? 何かの拍子に成り行きで行動を共にすることもあるだろうが……今みたいに、取り分でモメる事だって珍しくなかろう」


 貴重品を巡っての奪い合い……ルノミにも容易に想像がついたのか、何度も頷いて思い浮かんだ事をすぐに吐き出した。


「パーティに沢山貢献しているのに、取り分少ない上に役立たず呼ばわりされて、追放されるとかありそうですね!」

「なんだその惨い仕打ちは」

「追放なろうのテンプレートです! 大流行していましたよ?」

「世も末……いや、実際に世紀末が来て滅んでおったわ」

「……笑えないですよ」


 皆無な笑いのセンスをごまかすために、晴嵐はわざとらしく堅苦しい話に戻した。


「真逆のパターンもあるだろう。大して働いてもいないくせに、取り分だけがめつく要求する奴とかな。現実にはこっちの方が多そうだ」

「あー……クッソ腹が立つやーつ……それにここって、駆け込み寺な側面もあるって聞きました」

「そうなりゃいよいよ客層は悪いだろう。んな奴らがダンジョンに潜って、ばったり出くわして、その場限りで協力したつもりが、分けれない報酬で揉める……」

「うわぁ……」


 ありありと想像できたのか、ルノミの液晶表示が(;´・ω・)と灯る。きっとこれから先、近い場面に遭遇する事もあるだろう。呆れているゴーレムの彼だが、彼以上に呆れた人物がいる。


「あのなルノミ。今消えた奴らがおるじゃろ?」

「はい。チュートリアル役ですよね。消えちゃったから、今は確信できます」

「そうじゃよ。一連の流れが全て、仮想体験だっただろ。きっとダンジョンの主は……一つの報酬を巡って、面倒な対人関係のチュートリアルを始める気だったんじゃろう。ところがお前は悪意無く平気で助けるわ、報酬は無視して駆け寄るわ、取り分の話になったら気前よく渡すわで……チュートリアルにならんかったんだろ」


 ぱちくりと液晶の目玉を瞬きさせるルノミ。晴嵐が額を押さえて天を仰ぐ。素でお人よしに過ぎた彼の行動が、作り手が用意した筋書を崩したのだろう。もう一度改めてため息を吐く晴嵐だが、唇の端は笑みの形に歪んでいた。


「ま、だからこそ……最後の最後に『背中に気をつけろ』と警告して消えたんじゃろ。ある意味、お主の才能なのかもしれんが」

「才能?」

「他人から毒気を抜く才能だよ」


 たまにいるのだ。こういう奴は。腐り果てた悪党が、ついその悪意を振るうのが馬鹿馬鹿しくなるような人間が。

 それはかつて世界を救おうとした奴らであり、若くとも真っすぐ歩き続けるオークであり、今は金属の身体に魂を収めた、異世界移民計画の立案者……なのだろう。

 そして当人達としては……意識するまでも無く、すべきことをしているのだろう。己の心のまま、善いと思った方面に進むだけ。見てて眩しい彼らは、悉く自覚をしないのだ。

 現にルノミは、ぼんやりとした能面で晴嵐を見つめている。無自覚な奴めと罵りたかったが、それも含めて……ルノミの美点なのだと、口にはせず内心で認めた。

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