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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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配分

前回のあらすじ


ダンジョン内から聞こえた悲鳴に、ルノミと晴嵐が急行する。どこか違和感のある彼らを取り囲むのは、金色のブリキめいたエネミーだった。ルノミが見抜いた弱点を貫くと自爆を始める。分断を承知で退避した。

 金色の『エネミー』が爆ぜ、もうもうと煙を上げて視界を遮る。ルノミと晴嵐は傍にいたが……煙の向こう側、別の三人組の様子が分からない。声をかけようにも高い耳鳴りが反響し、平衡感覚をやられている。大音量を受けた三半規管が麻痺し、機能不全に陥っている。


「! ――!」


 ルノミが何か言っているが、内容の判別ができない。男が耳を押さえ軽く頭蓋を叩くと、数度頷いて納得してくれたようだ。

 恐らく……憑依型ゴーレムの機体は、自分の意思で感覚の制御は出来ないが、身体しんたいに影響が出るようなショックは防いでくれるのだろう。ルノミが以前十九階層で、鎧蜘蛛に腕部を破壊された時も……切り落とされる痛苦は感じている様子はなかった。不便さはあるが、感覚を調整する機能は備わっているらしい。


「……! ! ‼」


 高音が耳朶に残響する中、ルノミが必死に呼びかけている。煙の先は不明だが、爆発直前に反応したように見えた。五体満足とはいかなくとも、生存が見込める距離に思える。必死なのは分かるが、金属の彼に晴嵐は伝えようとした。


「ルノミ、声はダメだ。わしも聴覚をやられてる。多分向こうも……」


 晴嵐自身の発言さえ、上手く聞き取れないのだ。三人組も近い状況な事が予想できる。ルノミが必死に呼びかけた所で通じないだろう。晴嵐の呼びかけを受けてルノミが動きを止めたが、駆けだそうとする。落ち着けと腕を引いて止め、二人はじっと煙が晴れるのを待った。

 時間の経過に伴い、晴嵐の感覚が戻っていく。細かな環境音は聞こえないが、人の声ぐらいは判別できるようになった。


「晴嵐さん、大丈夫ですか?」

「あぁ。やっと調子が戻って来た。そろそろ――」

「頃合いですね……皆さん無事ですか!? 聞こえたら返事して下さい!」


 大きな声を張り上げるルノミ。向こうの状態が分からない以上、伝わる事を優先した方がいい。必死に聞き耳を立てていると、やっと相手からの反応があった。


「あぁ! こっちは全員無事だ。そっちは!?」

「良かった……! 僕たちも大丈夫です!」


 突然の大爆発だったが、幸い犠牲者はいないらしい。やがて煙が完全に晴れると、煙幕の中心に金色の宝箱が一つ出現し、相手側三名の姿も確認できた。


「今そっちに行きます!」

「お、おいルノミ!?」


 晴嵐の静止を振り切って、ルノミが三人の元に駆け寄る。平然と金の宝箱を通り過ぎて、エルフの弓使い、ドワーフの斧持ち、ヒューマンの剣士の姿を見て……ほっと胸を撫で下ろした。


「良かった……心配したんですよ?」

「こちらも不安だったが、何とかなった。しかし厄介なエネミーだな……」

「同感じゃ。刃物が通りにくい上に、倒したら倒したで大爆発。出来れば無視して逃げちまいたい相手だよ」

「幸い、核の耐久力は高くないみたいですね。衝撃を与えた後なら脆い。可能なら弓などの遠隔攻撃で仕留めたい相手に思えます」

「何にせよ、誰も犠牲にならずに良かった良かった!」


 三人とも友好的な態度だが、ヒューマンがちらりとルノミの奥にある物に目線をやる。釣られて彼が振り帰れば、一つだけ出現した宝箱があった。


「窮地を救ってくれた事は感謝するが……しかし取り分どうする?」


 誰もすぐに飛びつかないが、豪奢なそれを全員が見つめている。手にしたお宝を誰が獲得すべきか……誰もが欲望を持ちながらも、堂々と正面から主張もしない。揉め事の気配を察知した晴嵐が、静かに緊張を走らせていた。が、この場にいるルノミの感想は違うらしい。


「十体も敵がいたのに、報酬はたったこれだけ?」


 まぁ……言いたい事は分かる。十体もいたのに宝は一つ。よっぽど運が無かったか……いやしかし、黄金の宝箱はいかにも『貴重品レアドロップです』との主張をやめない。微妙な空気の中、ルノミは(-_-)と液晶表示してぼやいた。


「せっかくなら、人数分出てくれればよかったんですけどねー……」


 これには対面の三人組も苦笑い。生暖かい目線に晒されて、ルノミも気恥ずかしくなったのか、追加展開していた腕部を収納して肩を落とす。晴嵐からも軽い罵倒が飛んだ。


「んな理想通り行くもんか。甘い事を言うな」

「でも、言うだけなら自由じゃないですか。丸く収まるような理想を考えるのって……そんなにダメですか?」

「はぁーっ……」


 晴嵐は盛大にため息を吐く。とことんやりずらいと、晴嵐も軽く首を振る。しかしだからこそ……晴嵐は心の奥底では、ある意味で安心し、腑に落ちる事があった。

 こんな、こんなドのつく理想論者だからこそ、馬鹿馬鹿しくて少しばかり幼稚で、けれど必死に、世界を救おうとした奴だと納得する。自分とは根本から発想の違う人間……遠目で応援して、そして無残に死んでいった奴らと同じにおいをルノミから感じていた。

 晴嵐のようなれた人間では、人々や世界を助けようなんてのは思わない。弱い奴は死んでおけ。救うべきでない人間も殺しておけ。赤の他人など、恨みを買わない距離感で適当に付き合っておけ。それが晴嵐の対人関係のやり方だった。

 だから……次にルノミが口にした発言を処理するまでに。大平晴嵐の脳は三秒以上の時を要した。


「僕らはいいですよ。特に困ってもいないので、三人で好きなように分けて下さい」


 何の交渉も無く、何の駆け引きも無く、無償で貴重品らしき物品を平気で譲渡する判断。呆気あっけに取られたのは晴嵐だけではなく、対面する三人も同じだった。

 しばらく固まって……晴嵐が不満げにルノミの肩を掴みつつ睨むと、対面の三人も……どこか皮肉げな笑みを浮かべていた。

 初めて見せた生の表情……血の通った人間の面影が、晴嵐にも感じられる。まるで未熟な子供に言い聞かせる、擦れたしまった大人のような声色を残した。


「……ったく! 背中から刺されないように気をつけろよ!」

「へ?」


 ルノミが間の抜けた返しをすると同時に、出会ったはずの三名が透けて消えていく。

 残されたルノミは、ただ茫然と立ち尽くしていた。

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