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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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新たな様相

前回のあらすじ


ダンジョンを生成した人間も、欲深き者ども同様に『自分の欲望のまま能力を使った』点は同じ。けれど最低限の体裁を気にしたかどうかが、大きな差異になった。最初から全部投げ捨てた結果、ハト派タカ派と分裂する以前の状態で袂を分かった人物と推察できる。皮肉なことに……千年前のややこしい駆け引きからも遠ざかった存在であり、ルノミでも安心して接触できる立ち位置の人物となっていた。

 ダンジョン二十階層、転移魔方陣前――二人の探索者が、二十一階層に向けて出立の準備を終えていた。

 片方は若い男性。外見の割に険が強く。こんな浅い階層にいる人間には見えないが、あまり目線を集めていない。と言うより……隣にいるゴーレムの異形具合が、どうしても目を引いているようだ。


「マニピュレーター展開完了。これなら、奇襲されてもすぐに射出できます」


 背部のユニットを肩に回し、四本腕の状態で魔方陣を睨むルノミ。頭部の液晶画面に加えて、追加装備の腕部が目を引くのだろう。見た目のゲテモノ度合いと、液晶の(`・ω・´)の表示が、ますます注目を浴びているようだ。


「格納したまま発射は無理なのか?」

「可能ですけど……こっちの方が射角が取りやすいです。それに下側に発射してから誘導開始なので、初速が出せないんですよ」

「一手遅れるかもしれない……か。前の十一階層の時に奇襲された。警戒するに越した事はない」


 追加の指先を動かして広げるルノミ。液晶の表情こそコミカルだが、金属機体の奥底で決意と情熱が燃えている。自分の魂に時間制限が設けられていると知り、複雑な千年前の事情背景を知り、やっと覚悟を決めたのだろう。堂々と自分から前に歩き、晴嵐より先に転送魔方陣に飛び込んだ。

 直後……一瞬目の前が閃光に染まり、二十一階層へと移動させる。先行したルノミは既に『フィンガー』を展開し、周囲を飛行していた。すぐに晴嵐も警戒態勢に入るが……特に何も起きないらしい。


「――異常なし!」

「……よし」


 すぐに飛ばした指先を格納し、四本腕で身構えるルノミ。加えて今の彼には新しい武器を持っていた。


「それは……あの鎧蜘蛛の槍か?」

「はい。ダンジョン内部だと、小型のアイテムボックスも使えるので」

「扱えるのか?」

「一応は練習しました」


 槍をメインとした長物系の武器は、戦闘の初心者にも扱いやすい。肉体が金属な分、生身よりはダメージも受けにくいだろう。最低限戦力になってくれるならそれでいい。


「奇襲は……無さそうですかね?」

「ひとまずは。じゃが別の罠を用意しておるかもしれん。警戒を緩めるな」

「はい!」


 毎回毎回襲っていては、奇襲攻撃の意義は薄くなる。不意を狙うから奇襲なのだ。必ず開幕から敵を配置して襲っていては、むしろワンパターンで読みやすい。迷宮の主も心得ているのだろう。パッと思いつく事を晴嵐は口にして、彼も足元や周囲に目を配った。

 土や石、岩などの自然物が床や壁を占めている。違いがあるとすれば、その通路の広さだろうか。隣の彼も気が付いたらしい。


「なんか、広々としているような……僕の気のせい?」

「わしも同じ事を感じていたわい」


 背面には土壁、広々とした室内のスタート地点は、二人で使うには広すぎる。遮蔽物も隠れる場所もなく、軽く百人ぐらいならば収容できるだろう。


「たまたま待ち伏せが無かっただけか……?」

「んー……よく分からないですね」

「…………」


 やはり罠があるのだろうか? 無言で晴嵐は周囲に目を配る。特に変哲が無いように思えて、足元に確かな変化を感じていた。


「ルノミ。足跡が多い。これは……」

「エネミーの……いや、違いますねコレ。他の人のだ」


 他の探索者、別の人間がダンジョン内部に侵入している痕跡……そう言えば二十階層の安全地帯で、別の人間と遭遇とか言っていた奴がいた気がする。ポン、とルノミが手を叩いた。


「今までは、僕らみたいに『一緒に行く』って意思の人は、同じマップに入っていたんでしょう。これからは多分、他の探索者さんとも遭遇するのかもしれないですね」


 この足跡は、先んじてこの階層に侵入した誰かのもの……か。今までの階層では、一度も誰とも遭遇しなかった。改めて摩訶不思議な空間だが、そのような構造を作った理由は分かる。晴嵐だけでなく、ルノミも把握したようだ。


「少しずつ要素をアンロックしていくやり方ですね。チュートリアルの基本だ」

「お主なら次は何を用意する?」


 独自の単語を使うが、ダンジョンに対して詳しいルノミ。しばし液晶頭部にノイズを走らせた後、彼は頭を掻いて唸った。


「どうした?」

「えー……それ来るのかなぁ……やだなぁ……」

「心当たりがあるなら素直に話してくれ」


 口に出すのを渋っていたが、内容を聞けばすんなり受け入れられた。


「多分……集団戦闘か、対人戦闘か……どっちかのチュートリアルが来ると思います。どっちにしても、迷宮内での対人関係について問われるかと」

「あぁ、面倒な奴じゃな」

「あはははは……」


 率直過ぎる晴嵐の言葉に、ルノミも曖昧な苦笑いを返す。ここまで露骨な言い方はしないが、全く共感できない訳でもないらしい。お人好しなルノミが『同じダンジョンに潜る仲間だ!』なんて、平和ボケに過ぎる発言をしなくて一安心だ。

 しかし――


「しかしどうやって体験させる? そんな都合よくトラブルなんて起きるのか?」

「晴嵐さん。それはフラグですよ」

フラグ? 立体旗ホロフラグの事か?」

「ユニゾティアに染まってませんか!?」


 言われてハッとする晴嵐。ネットスラングから遠ざかって久しい晴嵐でも、不吉な予感をフラグが立った……なんて言い回しをする。ルノミの指摘通り、知らず知らずに染まっていたらしい。目を逸らしてすっとぼけた。


「え? あー……そうなのか? そうかもしれんのぅ……」

「まさか、ボケが始まって……」

「馬鹿にするな。今の体は若いわい」

「いや、今のは僕のボケです」

「……わしにお笑いのセンスは無いらしい」


 お互いに首を振って苦笑するが、その直後、どこからか誰かの悲鳴が聞こえる。

 一瞬で身構え、声の発生源は……足跡の残った一本道の先だった。

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