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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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それでも彼は、希望を捨てない

前回のあらすじ


ルノミの記憶が抹消されていた可能性……転移直後ではゴーレムや憑依型が存在していない時代だった事から、晴嵐はそんな考察を述べる。仮にそうだとして、その犯人は? 動機は? 考察するが、残念ながら分からない。ルノミが仮に侵略側だったら『過去を隠すために記憶を削った』と分かりやすい。穏健派ならば、何らかの告発を考えていたのではないか……あくまで可能性の一つだが、だとすればルノミは、過去の仲間たち、千年前を知る誰かと接触するのは、危険かもしれない……

 ルノミは何も言わなくなってしまった。がっくりうな垂れたまま、視線は地面を見つめている。いいや、その実何も見てはいないのかもしれない。眼球があれば、涙を流していただろう。

 けれど悲しいがな……もうルノミは泣く事はない。どれだけ魂が悲嘆に暮れようとも、彼の身体に涙腺は存在しない。辛うじて漏らせるのは嗚咽ぐらいで、しかしゴーレムとしては異常な光景なのだろう。時折通る通行人が、珍妙なモノを見る目線を一瞬向けるのに晴嵐は気づいていた。


(見てやるな、と周りに言えんのがな……)


 これがもし、人間の……ユニゾティアでのヒューマンの肉体であれば、さほど視線を浴びなかっただろう。あるいは奇妙なモノに向ける目つきではなく、同情や憐みの籠ったモノだっただろう。

 だが……ユニゾティアにおいて、こんな生々しい激情を、強い感情を表現するゴーレムの方が珍しいのだ。仮に情緒をはぐくめたとしたら、頭部を立体映像に換装した『デュラハン型ゴーレム』に変えるのが一般的なのだろう。加えて千年前の事象に心を砕いている上に、変に周りに話せない現状を考慮すれば……ルノミが抱えている孤独感の強さは想像を絶する。


「少し休むか?」


 これだけの悪情報が一気に流れ込んだのだ。彼の精神に不調が訪れてもおかしくない。今にして思えば、一日の間に詰め込む事では無かったか? 彼の声掛けに、ゆっくりと顔をこちらに向けた。


「いえ、止まっていられません。僕に残された時間は……限りがありますから」

「……」


 間違った言い分ではない。

 憑依型ゴーレムに移った魂は、少しずつ生身の感性を失ってゴーレムに近づいていく事が判明している。記憶を失う訳ではないが、意識は確実に変質していくらしい。そうなれば……かつての仲間の史跡や、この世界で何が起きたのかとか、そうした事柄への関心を失うかもしれない。それがいつ起きるのかは不明だが……制限時間リミットがある事だけは確かだ。

 だから『立ち止まっていられない』と決心するのはいい。それ自体は晴嵐も肯定できる。けど問題点は……


「しかしどこへ行く? どうやって真実を探す? 千年前を知る誰かと接触するのは、あまりにリスクが高い。大当たりを引ければ、一気に進展するかもしれんが……ハズレを引いたら最悪消されるぞ」


 千年前の誰かと接触して、過去のルノミと無関係であればいい。けれどもし、ルノミの存在が不都合だとしたら……真っ先に潰しに行くだろう。

 それに、晴嵐側の都合になるが……事情や背景に煩わしいものがなく、情報を共有できるルノミを失うのは痛い。出来れば危険に晒したくないのだ。

 しばし無言で悩み込んだ金属の彼は、両手を握って口にする。


「……初志貫徹しょしかんてつすべきだと思います。このままダンジョンの奥を目指します」


 やはりなんだかんだで、ルノミもショックが大きいのだろう。強いストレスにぶつかった人間が、ひとまずの現状維持を試みるのは……心理として自然な事だ。ひとまずは今まで通りのローテーションを続ける事で、気持ちを落ち着けようとする。やり過ぎると逃避癖に繋がりかねないが、今の彼には必要とも感じた。


「あの二人のゴーレム工房で、ゲテ……新装備のテスターを続けるか」

「僕の生活面でも安心なのもあります。けどそれだけじゃなくて、ダンジョンの主であれば、接触しても大丈夫だと思うんです」


 あぁ……と思わず晴嵐は軽く息をつく。世界を本気で救おうと、未熟なりに前を向いていた金属の中身。液晶に表情が灯っていなくとも……その高潔な決意を抱く人の影は覚えがある。彼はまだまだクソッタレな現実や現状に対して、ファイティング・ポーズを取っていた。


「ダンジョンが誕生したのは……ユニゾティアに第一陣が来た直後と記憶しています。恐らくは異能力チートを使って」

「確かそんな感じじゃったな。だからグラウンド・ゼロなんて、仰々しい名前がついておる」


 千年前、ユニゾティアの大きな変革期……空から『地球から降って来た異世界移民計画の第一陣』が、この地に降り立った。後に大戦争と混乱が起きたが故に、すべての始まりの地……そんな意味合いをつけたのだろう。

 そしてダンジョン最奥には、ほぼ確実に千年前の誰かがいる。問題は……千年前の誰かと接触すると、ルノミの中身次第で危険な展開に発展する可能性が示された事だ。だから、ダンジョンに固執する必要性に疑問が生じていた。少なくても晴嵐はそう思っている。


「じゃから、ダンジョンの主も反則チート持ちで……ソレ使っているって話じゃろ? そんな相手の所に行ったら、不都合だからって殺され――」

「それはない、と思います。多分ですけど……」

「……あん?」


 脈絡が読めない。話が伝わらない。首を傾げている晴嵐に対して、彼の誤解をルノミは解こうとした。


「降りた場所で異能力チート使って、即座にダンジョン作って引きこもった……って事は、千年前のゴタゴタにあまり介入していないと思うんです。侵略も融和も移民も無く、いきなり自分の作った世界に閉じこもった」

「だから? タカ派連中と同じじゃ無いのか?」


 欲望のままユニゾティアに向けて、与えられた反則を振り下ろした……晴嵐には違いが分からない。だが――これはあまりに、大きな違いだった。


「そこだけ切り取ればそうなんですけど……歴史の流れを見るに、僕らが移民計画を進めているうちに、タカ派とハト派に分かれて分裂してしまいました」

「……うむ」

「けど、ダンジョンの主は『分裂前に』閉じこもっているんです。だって降りた瞬間に能力を発動して、あの空間を作ったんですから」

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