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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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抹消された記憶

前回のあらすじ


新しく増えた情報により『ルノミは千年前の異世界転移に成功していた』可能性が浮上した。記憶を喪失した理由を探すと、ルノミはすぐに取り乱す。自分が侵略側に回り、そのことを忘れてのうのうと生きていると解釈して。そうした自制や反省がすぐ出てくるルノミが、侵略側とは思えず……晴嵐は別の可能性を提示する。生前のルノミが、何らかの重要な情報を握っていた可能性を。

 ルノミの衝撃は大きい。いや、立て続けに新情報を流し込まれて、頭の中がパンクしているのかもしれない。けれど、このタイミングで話しておく必要もある。『鉄は熱いうちに打て』は、状況整理や情報も同じだ。

 新しい認識、新しい前提を元にすれば、今までの前提や推理が一気にひっくり返る事もある。行き詰っていた話の流れが、一息に雪崩れ込むかのように。


「現に……お主は名前と反則の名を忘れている。てっきりそれだけかと思っていたが……消えた記憶が、本当にそれだけなのか? と言ってもお主は忘れているだろうから、確かめようがないが……」


 自分の記憶が操作されている……その可能性に行きついたルノミは、真っ先に晴嵐に詰め寄った。


「一体……いったい誰がそんなことを!?」

「それが分かれば苦労はせん。わしだって知りたいよ。……仮に知ったとしても、既に死んでいるだろうが……」

「あ……そ、そっか。僕の身体が作られたの、千年前……いやもうちょっと後でしたっけ」

「千年から九百年の間……とあの二人は言っていたか。お主が転移した歳を考えると、八百年代ではないだろう。死体から魂を抜き出せるなら、違うのかもしれないが……」


 発言しながらも、晴嵐もルノミも否定的な態度だ。

 それもそのはず。タチバナの話と今のルノミの状態を考慮すると、長時間は無理でも短期なら精神は持つように思える。現にルノミは、晴嵐が食事を取るからと別れた時、血の涙を液晶に浮かべて悔しがっていた。今はまだ、生身の感性が生きている。

 だから……例えば死者から魂を抜き出せるなら、遺言や最後の別れを告げる時間ぐらいは稼げる。そして用途が残っているなら『憑依型ゴーレム』の生産が、完全に止まるとは考えにくい。しばらく黙っていたけれど、ルノミは頭を押さえ晴嵐にある事を求めた。


「えぇと……僕の考えの『女神側の転移ミス説』は、もう考察の広げようがないので……今は晴嵐さんの『実は僕は千年前に転移していて、記憶を失って憑依型に移っている説』の整理をしませんか? ちょっと、時間回りがぐちゃぐちゃで……」

「あぁ。実際少しややこしいからな……」


 時系列の整理は面倒だが、整合性を取るために重要な事でもある。晴嵐はライフストーンを取り出して、自らの想像を立体映像に変換させながら仮説を紡いだ。


「まず……お主らの一団が、こっちに来た所から始めようか」

「異世界移民計画の始まり……ですね。今の僕は、その手前までの記憶しかないですけど……晴嵐さんの説だと『実は僕本人も転移に成功していて、今の僕は記憶をなくしているだけ』だと……」

「そうだ。本当に『それだけ』を記憶喪失しているなら、わしも特に疑問を持たんかったかもしれん。じゃがお主は……」

「自分の名前と、自分が要求したであろう測定不能異能力チートスキルの事まで忘れている……」


 最初は事故か何かだと思っていた、ルノミの記憶喪失。しかし彼の身体が『魂を移し替える器』という新事実が判明した事により……ところどころ気になっていた、小さな矛盾に説明がつくようになっていた。


「お主が転移した直後のユニゾティアに、ゴーレムや憑依型そのからだは存在していない」

「グリジアさんたちや調査報告を見ても……ゴーレム誕生の年代は少し後だった」

「なのにお主の記憶はゴーレム製造前……転移直前で途切れている上に、お主個人を特定し得る名前と、反則だけすっぽり頭から抜けている。こんな都合のいい、あるいは都合の悪い出来事を偶然とは考えにくい。記憶を操作された可能性を疑わねばならん」


 本当の名前を忘れ、求めたであろう反則を忘れた……悉く個人を特定し得る要素を消された可能性。ゴーレムの製造時期との矛盾もあれば、晴嵐としてはこの筋書きがしっくりくる。

 転移に成功し、ユニゾティアで活動を続け、後発で設計開発された憑依型に……魂をゴーレムに移し替えた。ただ――


「ただ……お主が侵略側(タカ派)か移民側(ハト派)だったかで、記憶を消す理由は異なる。タカ派だったら分かりやすい。侵略者だってバレたら、こっちの連中にボコボコに叩かれるに決まってる。それを隠してもう一回……と言った所か」

「……テンプレですね」


 ルノミが深くため息を吐く。恐らく彼の良く知る創作物系列の単語だろう。


「失敗したから、もう一度やり直したい……なろう系の大筋ですよ。向こうの現実で失敗して、別世界でやり直したいってのはよく見ますけど……まさか移った先で、反則まで持ってたのに失敗して、全部忘れてもう一度って……情けない」


 内心、頷ける所はある。タカ派だとしたら軽蔑に値するとは思う。それでもあえて、ルノミ慰めるとしたら……


「変に過去を引き継いで、特大の地雷を踏みぬくよりマシだろう。過去のお主なりに、反省点は見える。それに……わし個人としては、お主がタカ派になるとは思えんがな。

 とはいえ楽観はできん。ハト派だった場合……お主は何らかの使命を持って、目的をもってその機体に魂を移した事が予想できる」


 ハト派……侵略者となってしまった『異世界移民計画』の仲間と袂を分かち、ユニゾティアのために戦った連中の記録もまた、この世界の歴史に刻まれている。移民計画を打ち立てたルノミが侵略側にいないなら、積極的にこの世界を守ろうとしたと思えた。今のルノミでさえ、相当な罪悪感に悩まされているのだから……その現場にいたのなら、止めようとするだろう。


「何を目的にしていたんでしょう……記憶喪失なのを考えると、告発か何かでしょうか?」

「考えられる可能性の一つじゃな」

「……ハト派の人を裏切って? いや、この場合裏切られたのでしょうか……」

「わからん。じゃが、タカ派側が妨害を仕掛けた可能性も残っている。こればかりは何とも言えないが……お主の人の良さを考慮すると、例えば『ハト派側の不祥事を許せず暴露しようとした』線も十分ある」

「…………」


 記憶を消された理由は、いくらでもその背景を考察できる。険しい顔の晴嵐は、ある危険性を指摘した。


「となるとだ。お主はもう、自分の中身を誰かに語るのはやめた方がいい。最悪の場合……『殺すつもりだったお主が生きていた』と、記憶を消した側に悟られかねん」

「…………」


 少ないとはいえ、当時を記憶している長寿種族もいる。もしもソイツがルノミに対して手を加えた奴だった場合……口封じされる危険性が出てきた。

 それがたとえ――かつて志を共にし、この世界の英雄と評される人物だとしても。

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