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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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種族差と『もしも』

前回のあらすじ


奇妙な特性を持つルノミの身体……それを設計したのは誰なのかと疑問に思う技師たち。先鋭的な技術を取り込みながら、それを開発した相手の特定はできない。普通は技術を宣伝しそうなものだが、紋章も刻印も存在しないルノミの身体。話が詰まって来た所で、晴嵐はルノミを外に連れ出した。

 既に日は落ちつつある中、晴嵐とルノミはゴーレム工房の外に出る。行く当ても無かったが、適当に中心街のポート付近にあるベンチに腰掛け……ルノミはあの二人の関係性について、確かめるように聞いた。


「タチバナさんとグリジアさん……付き合っているんでしょうか?」


 ドワーフのエルフ……別種族ではあるものの、一つの工房を切り盛りする二人。その間柄に、特別な感情が湧き上がったとして不思議はない。とはいえ断言しかねるのだろう。晴嵐は渋い顔で答えた。


「どうなんじゃろうな……タチバナ側はまんざらでもなさそうじゃが、グリジアの感情が分からん。近場で見ていたお主のが知っておると思うが」

「んー……でも僕も部外者ですし、あくまで技師としての姿しか見てないです」


 道理であろう。二人だけでしか話せない事なんていくらでもある。晴嵐とルノミが地球に関する情報を、他人のいない状況でしか口にしないように。


「お世話になっているのもありますし、二人には上手くやっていって欲しいですね」

「そうだといいが……難しい点もありそうじゃな」


 今回の『憑依型ゴーレム調査報告』で判明した事実……生身の肉体を捨てて、金属の身体に乗り換えようとした人々がいた。最終的に失敗し、忘れ去られた技術となったが……きっかけや動機については、考えずにいられない。


「エルフとの寿命差……それを埋めようとするために研究開発されたんでしょうか。この体は……」

「明言はせんかったが、一つの説として筋は通っておる」


 ユニゾティアにおける長寿種族のエルフ……グリジアも少し口にしていたが、他種族と関われば相手側の種族が老いて死ぬ。生まれ持った差、種族としての差として、決して覆す事の出来ない宿命だった。


「辛いのは……分かるような気もします。僕も取り残された側ですから」

「……そうだな。取り残されるのは辛い。エルフは排他的な側面があるが……他の種族との寿命差も影響しておるのかもしれんの。ゴーレムに対してだけは、多少緩く当たっている気もしたが……」

「長く共に居れるから……かもしれませんね。あぁ、だからその事実に注目して『憑依型ゴーレム』の発想に至ったのかも」


 自分たちの長寿命についてこれる。そうでないにしても、長寿命の隣人を欲した……地球でもロボット犬など、寂しさを紛らわせるために作られた機械もあった。こちらではゴーレムにも人権が認められているにしても、求めた理由は近いだろう。しかし――


「でも……欠陥品だった」


 確かに生体的な寿命からは解放された。そこは目的を達成できた。しかし生身を捨てた代償として、生身特有の感覚を失っていく。やがて本人の記憶を持っているだけのゴーレムに……心が徐々にロボットめいた状態に変質していく。それが後々に判明した、憑依型ゴーレムの欠陥だった。


「いっそ同じ民族……じゃなかった。種族だったら、悩まずに済んだでしょうに」

「だろうな。じゃが、エルフにはエルフなりの、ドワーフにはドワーフなりの苦悩を持っておるようじゃった。同じ種族だったら……それはそれで、別の問題を抱えていたのかもしれん」


 ルノミはここしか知らないから、ぼんやりとしか想像できない。けれど晴嵐は明確に思い浮かべている節があった。

 例えば、エルフであれば世代断層問題が。

 例えば、ドワーフであれば安定した輝金属産業によって爛れてしまった大人たちとか。

 違う種族同士だからこそ激突する、オーク・亜竜種・エルフの関係性もあれば――別種族だろうと馬の合うオークと亜竜種の関係性だってある。晴嵐の言葉から何かを感じ取ったのだろう。ルノミは浅い知識で、想像し得る事を口にした。


「……これだけ多様な種族が共存して暮らしていると、どうしても『もしも自分が別種族だったら』とか、逆に『あの人が同族だったら』……って、考えちゃう事はあるんでしょうね」

「必ず別種族が目につく世界じゃしの……一回も考えた事が無い、なんて人間の方が珍しいじゃろう」

「それに、地球人だって考えた事ありません? もしもあの時、ああだったらとか……」

「虚しい妄想と言われればそれまでじゃが……一度も思った事がない、自分の人生に一欠けらも悔いがない。と言ったら嘘になるの。わしも」


 ため息交じりの発言に、ルノミもハッとする。知っていたはずなのに、彼は自らの迂闊さを呪った。

 大平晴嵐の人生は、一度幕を迎えている。憮然とした表情で隠しているが、彼の過去は取り返しのつかない崩壊を経験している。終末を迎え晴嵐が一人になるまでの光景を、サラトガの亡霊と共に見たと言うのに、頭から抜けていた。


「……すいません」

「気にするな。どれだけ悔いても取り返せなんだ。それに今は……まぁ、不幸じゃない」


 あの世界に比べれば、きっとそうなのだろう。かといって、完全に忘れ去るには重すぎる。次の言葉を失った金属の彼に、晴嵐は努めて淡々と述べた。


「隣の芝はいつだって青いモンじゃよ。向こうの……地球人だって大して変わらん。お主だって、そうした想像自体はするだろう?」

「そう……ですね。そもそもなろう系自体……あ、えぇと、異世界転移モノ自体『もしも別世界に生まれ変わったら』って、前提で始まっていますし。その結果僕はゴーレムの身体に転生しているんですけどねハハハ……」


 移民計画を真剣に進めていたのに、いざ転移を実行したと思いきや、その世界の千年後に金属の身体で目覚めていたルノミ。しかも欠陥品と判明して……本音を言えば、かなりの衝撃を受けている。いつか自分が感情を失って、機械のようになってしまう――そんな予測を聞かされて、動揺するなと言う方が無理だ。

 今までは押さえていた感情が溢れそうになるが、この体では涙一つ流せない。

 チカチカと光る液晶画面だけが、虚しく光の粒を流していた。

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