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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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謎の設計者

前回のあらすじ


憑依型ゴーレムは欠陥品……生身を捨てて、金属の肉体に移った所で、魂の変質は防げない。生身の感覚なんて、金属では……と思案を巡らせていると、ルノミは『睡眠を欲するゴーレム』だったと思い出す。変だ変だと思っていたが、これは魂の劣化を防ぐための対抗手段だったのではないか? 考え過ぎに思えたが、ルノミの身体の設計者は時代を先取りする発想を実現させている……

「設計した人、本当に何者……?」


 タチバナの呟きは、この場にいる者たちに疑問をもたらした。

 製造中止された憑依型ゴーレム。後々発覚した欠陥に対して、対抗措置として『生身の不便さを付与した機体』を作り上げた誰かがいる。加えて、後に出現する『デュラハン型ゴーレム』と類似した機能を与えた頭部も、最初から装備されていた。

 発想力か、技術力か、あるいは両方を持ち合わせた誰かが、遠い昔に存在していた事になる。何を言おうか迷うルノミに、近い心情の晴嵐が質問した。


「分からないのか?」

「うん。さっぱり……唯一知れたのはコアブロック……本人を収める箱に刻印された『ルノミ』の名称だけ」

「コア……って何でしたっけ?」

「ゴーレムの方の核を司る重要部位だよ。あぁでも、そうか。ルノミ君は生身だったから……『魂を収めているパーツ』と表現した方がよいのかな」

「……」


 微妙な表情を液晶に浮かべるのは、この名前が仮の物だからか。文明崩壊前の日本出身者で『ルノミ』なんて名前は聞いた事がない。さらに都合の悪い事に、彼は自分の名前を思い出せないらしい。事実を頭の中で並べた晴嵐だが――ある事実に行きついた。


(まさか――……)


 思い当たった節はあれど、この場で指摘するのは難しい。呼吸を整えてから、あくまで一般的に該当しそうな事柄を言ってみた。


「製造ロットや、製造業者の企業マーク……ともかく、作った側を特定できそうな情報は無かったのか?」

「特徴的なのは無かったかな……分かるのはせいぜい、汎用性の高いパーツぐらいだよ。そこから逆算して製造年代を推定したんだ」

「……妙だな。それは」

「どういう事?」


 人の欲望やドロドロとした側面に多数触れて来た晴嵐は、一つの推論を投げかける。


「画期的な新装備を製造できたら、それを宣伝するモンじゃないのかの……? なんで特定できない形でしか残っておらんのだ?」


 商人の発想に近いかもしれない。時代を先取りし得る物、後々に価値を持つであろう物、あるいはその可能性を感じさせる物であるなら……人々に対して売り込みに行くのではないだろうか? そうでないにしても――晴嵐はちらりと横を見て発言を続けた。


「グリジアならどうじゃ? お主の言う『ロマンパーツ』が、多くの人に価値を認められたとして……それを喧伝せずにいられるか?『このパーツは私が作ったのだ!』と」

「……グリジアなら言うね。普段のテンション三倍で」

「はっはっは! 間違いないッ‼」

「認めるんですね……」


 一見すると意味不明で奇天烈であろうとも、実際に有用と証明されれば称賛されるだろう。そしてそれが『自分にしか成し得ない事』となれば、堂々と胸を張る。人間誰だって、少なからず自己承認の欲求はあるのだ。


「グリジアほどじゃないにしても、わちきも近い事をすると思う。やっぱり、自分の技術や発想が認められるのって嬉しいし」

「堂々と宣伝もできるからね! 当然だろう! ははぁ、なるほど。セイラン君の言いたい事が分かったぞ」

「僕もなんとなく……」


 独自性のある発想と技術を持ちながら……それを一切外部に広げないのはおかしい。ビジネスの面でも、技術者としても違和感だらけだ。


「一目で性能を把握しずらい内装系パーツならともかく……はっきり外見上の変化の分かりやすい頭部と、問題が発覚しつつあった『憑依型ゴーレム』の欠陥についての対策を施した機体。この二つを用意しておいて、僕ら技師も全くの知らないのは変だ」

「だよ、ね? 尖った性質だとは思うけど……」

「未来に実現される技術を先取りしているんだ。絶対に評価を受けている……あるいは、当時でも評価に値する人間に違いない。違いないのだけど……」


 何故か名前が思い当たらない。痕跡が何一つ見つけられない。唸る四名の中、ルノミの液晶頭部に(!)が点灯した。


「そうだ……例えば無理やり上書きされていたり、削り取られたような跡はありませんでした? 僕の身体のどこかに、特定できる何かがあった可能性は……?」


 特定し得るマークを後々から潰した――金属の彼の問いかけは、技師二人に否定された。


「びっくりするぐらい何もなかったよ。隅から隅まで点検した。間違いない」

「うん。起動前に全身を点検したから……よっぽど上手にやらないと分かるよ。そういうごまかし」

「そう、ですか……」


 がっくりと肩を落とすルノミ。ボディの設計者から過去を手繰るのは難しそうだ。技師たちの方に限界を感じた彼が、チラリと晴嵐に視線を移すと……強張った表情を返していた。

 視線に気づけば、彼は静かに一度だけ頷く。地球人目線での発見があったのかもしれない。中身老人の若者はわざとらしい息を吐いた後、こんな事を言い出した。


「しかしシンボルか……お主らの工房には無いのか?」

「へ? え……ない、かな」

「はっはっは! 残念ながら零細の工房だからね!」


 まかりなりにもゴーレム工房。きっと有名どころであれば、印象的な刻印があるのだろう。晴嵐の問いかけの勢いままに、グリジアがそのまま妄想を垂れ流した。


「でも、そうだね! もしも叶うならば……いつか僕らの工房製品にも刻みつけたいものだね! せっかくだしたちばなの花をあしらったロゴでも作ろうか!」

「へっ!? は、は、恥ずかしいわよ……」


 突然の提案に、タチバナ・ムライが言葉を詰まらせる。良い口実と言わんばかりに、晴嵐がルノミの側に寄った。


「……わしらは邪魔そうじゃな。ちょっくら外に行くぞ。ルノミ」

「セイラン?!」

「いやぁ悪いね! 気を使わせて!」

「アンタも乗らないの!」


 軽くタチバナが相方のエルフを軽くグーで殴るが、受け止めたグリジアはいつになく真剣な表情で、真正面から相棒のドワーフと目を合わせて言った。


「タチバナ。でも憑依型で少し触れた話……一度ちゃんと、腰を据えて話し合いたい。ダメかな?」

「へ……? え、えと……」


 拳をそのままグリジアは握って、そのまま一歩近づく。どことなく漂うムードに押されて、一瞬、(*’ω’*)と液晶表示してから彼も外へ足を向けて……出ていく前に一言残す。


「出来るだけ時間かけてきますから! 二人ともごゆっくり!」

「ルノミまで!?」


 何故か金属の彼も恥ずかしそうに、逃げるように工房から飛び出す。

 彼と彼女が真摯に向き合う中……晴嵐とルノミもまた、二人きりで真剣な話に入った。

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