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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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奇妙と思われていたモノが

前回のあらすじ


憑依型ゴーレム……生身の魂を金属に移して、寿命を延ばそうと製造されたソレは、時間の経過と共に欠陥が発覚した。生理的感覚の無い身体は、徐々に生身だった頃の感性を失わせていく。やがて生身だったその人物も、魂が冷たい金属の……地球人的に言えば『ロボット』になってしまうらしい。

「だから……『憑依型ゴーレム』は設計者の思った通りに行かなかった。生身の心のまま生きていく事は出来なかった。最終的には『かつて生身であった事を記憶しているだけのゴーレム』になってしまう。それが最終的な結論」


 生身の肉体を捨てて、より長寿を達成しようと作られた憑依型ゴーレム。エルフに合わせたのか、それともエルフが求めたのかは分からないが、技師のグリジアには思う所があるのだろう。深々とため息をついて、相棒の結論を肯定した。


「延命にはなるだろうけど……しかし、これではむしろ」


 確かに死は遠ざかるだろう。少しの間であれば、さほど変化も無いのだろう。けれどその後に待っているのは魂の変質。生身の心が金属質な魂に置き換わっていく現象は……


「うん……むしろ残酷な未来が待っていた。本人も苦しいし、周りの人間だって……目の前の人が、人だったモノに変わっていく姿を見る事になる」


 ルノミは完全に固まってしまっている。これから自分に待っている未来の内容は、決して良い物と思えないのだろう。同情の色を滲ませながら、タチバナは『憑依型ゴーレム』が製造中止された結論を述べた。


「だから徐々に『憑依型ゴーレム』を利用しようとする人はいなくなったし、製造も止まっちゃったみたい。六百年前に最後の工場が封鎖されて……以降は見向きもされなくなった」


 作った後で致命的な欠陥や問題に気付く……普及しなかった技術の中には、良かれと思って実行して、とんでもない地雷を踏みぬく事がある。憑依型ゴーレム技術もその手の類なのだろう。技師たちは最初『ゴーレムの』倫理について語っていたが……


「問題が起きたのはゴーレム側ではなく……肉体を移す側の尊厳問題が起きてしまった……そういう事かのぅ」

「うん。症状を訴えた人たちが中心になって、治療や解決方法を探したみたいだけど……」


 言い澱んだが、結果は分かり切っている。今のユニゾティアから『憑依型ゴーレム』が失われた事実をかんがみるに――誰も心がゴーレムになっていくのを、止める方法を見つけられなかったのだろう。


「無理に決まっているよ。どうやって食事を取るって言うんだ。それに痛覚や生身特有の不便さを捨てられるのも、最初はメリットのように感じられるに違いない。例えば大事な作業中の……やっとノリにノって来た良い所で、便意や尿意に襲われる事だって無いんだろう? 技師としては羨ましい側面もあるよ! 僕だって出来る事なら三日三晩ブッ通しで、一睡もせずに打ち込みたい事だって――」


 早口でまくし立てていたグリジアだが、急にピタリと静止して固まった。他の三人が注視する中、不意に頭に手を当てて……鋭い眼光をルノミに向ける。


「――いや、待った。ルノミ君! 君は確か『眠くなる』じゃないか!」

「え……あっ!?」


 ハッとして金属頭部を上げるルノミ。(!o!)の表情で全員を見渡せば、彼らにも事実が伝播していった。晴嵐もある事を思い出す。


「確かに……ダンジョン行く前に昏睡しておったな」

「あっちは違う気もするけど……セイランが来る前から、ルノミは規則正しい生活してた。昼夜逆転なんて、ゴーレムなら負担にもならないのに……毎日ちゃんとわちき達と、変わらない生活サイクルだった……」


 本来のゴーレムであれば――晴嵐やルノミ感覚ではロボットに置き換えられるが――生命のような睡眠は不要だ。もちろん、定期的な休息や休養は必要になるが、生身ほど煩わしくない。生きていないから『生活リズム』なんて気にしなくていいし、一瞬で昼夜逆転したり、逆転した生活から元に戻すまでも短い……のだろう。

 ところが、ルノミは世にも珍しい睡眠を要求するゴーレムだった。今までは不思議だ謎だと、技師たちはいくら考えても分からなかったが――憑依型ゴーレムの欠陥を踏まえて考察すれば、ある仮説に辿り着ける。


「まさか……『あえて生理的な不便さを機体に反映する』事で、魂のゴーレム化を防ごうとした……?」


 自信無さげに発するタチバナに、地球出身の二人の懐疑が向く。信じがたい内容を問わずにはいられなかった。


「できるんですか? そんな事……?」

「分からない。自信ない」

「申し訳ないが、僕も断言はしかねる」


 そう。証拠や確証は何もない。憶測でしか語れない技師たちだが、しかし何か真実を見定めようとする意志が感じられた。


「でも逆説的に考えてみれば……他の理由が思い浮かばない。だってこの機体の設計者は『ゴーレムに不要なはずの睡眠機能を、わざわざ後付けした』事になる。感覚ミュート機能が不完全なのも……」

「生身の感覚に寄せるため……か?」

「そう。不便で煩わしい、生身の感覚に近づけるため……製造年代を考えると、問題が発覚した直後ぐらいだから、ギリギリ矛盾はない」

「だ、だとしても対策早すぎませんか? いやまぁ、僕としては助かりますけど……」


 ルノミが液晶を点滅させた時――今度はタチバナが唸った。


「この設計者の人なら、あり得ると思う」

「ど、どうして?」

「だって――ルノミの頭部の液晶表示は『デュラハン型ゴーレム』を先取りした技術だから。わちき達にとっては見慣れているけど……当時は存在していない技術だし、発想だった」

「あっ!?」


 顔文字を表示した頭部が驚愕を示す。

 そうだった。ルノミの液晶で表情を形作る頭部は、通常のゴーレム規格品ではない。現在は立体映像で人の頭部を形成する『デュラハン型ゴーレム』が存在するが、これは後年発明されて普及したタイプだ。『憑依型ゴーレム』が製造された年代と合わない。

 にもかかわらず『ルノミは豊かな感情表現が出来ている』――これは旧式ながらも、液晶による頭部を採用しているからだろう。コレを開発・製造した人間は先見の明があった。この一点は間違いない――

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