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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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憑依型ゴーレム調査報告

前回のあらすじ


予定外の面接で、戻って来るのが遅れたのを詫びる晴嵐。その時間で、ルノミの改造手術も完了したらしい。せっかくだし見ていく事にすると、ルノミの腕部が二つ増えている。ノリノリの技師と本人をよそに、深刻な表情のタチバナがやって来た。

 真っ先に気が付いたのはグリジアだった。相棒とコンビを組んで長いのもあり、何か言いたげに悶々としているのを視界の隅に捉えたようだ。ちらりと晴嵐の後ろに目線をやって、大仰に手を広げて声をかける。


「どうしたんだいタチバナ! そんな暗い顔をして? せっかくルノミ君の新調だってのに!」

「そのルノミについての調査……もっと言うなら『憑依型ゴーレム』についてオデッセイ商会から報告書を読んだの」


 ルノミが液晶を点滅させ、グリジアと顔を見合わせた。元々大人しめな晴嵐も、静かにタチバナへ視線を移しつつ質問した。


「『憑依型ゴーレム』……ってのは、今のルノミの身体の事じゃな?」

「うん。ほとんどのゴーレムの基本形は『汎用型ゴーレム』のボディで生まれてくるけど、最初からルノミはその体だった」

「……珍しいケースか?」


 彼の疑問に答えたのは、ルノミの隣にいるグリジアだった。


「そうだね! 普通は『汎用型ゴーレム』で製造まれて……後は本人の経験や要望、必要性に合わせて、自分の身体をカスタマイズ・改造を依頼――場合によっては全く別の機体ボディに、換装するのが一般的かな」

「『デュラハン型』とかに?」

「そんな感じ」


 晴嵐が知らないだけで、ゴーレムにもいくつか種類が存在するのだろう。彼らにとっては日常の内容らしいが、地球人組は深く知らない。何より、一番反応したのがルノミ本人だった。


「え、えぇと……じゃあやっぱり『自分の事を元々はゴーレムじゃない』なんて発言は、この世界だと精神異常者なんでしょうか……?」

「今のユニゾティアだと、そう捉えられると思う」

「今の? 昔は違ったのかの?」


 晴嵐の疑問は、他の二人も同じなのだろう。三人の視線がタチバナに重なると、オデッセイ商会から取り寄せた資料を手に説明を始めた。


「昔……と言っても、五・六百年前の話になるかな……」

「おいおい、僕の両親が生まれる前じゃないか! エルフ基準でも昔の話になるよ?」

「うん。それより前に『憑依型ゴーレム』は製造中止になっているから……」


 遥か昔に製造中止になったゴーレム……それが今のルノミの身体を構成している物らしい。長寿命のエルフでさえ『昔』の話であるならば、今の人々が知らないのも無理はない。液晶の頭部の目を輝かせるルノミだけれど、残りの三人は深刻な表情をしていた。一人だけ浮かれている彼は、急に不安になってキョロキョロと周囲に目を配った。


「え? あれ? なんで皆さん不安げなんです? グリジアさんまで……製造中止されたモノなんて、ロマン溢れる――」

「阿呆……当事者が一番呑気でいるな!」


 晴嵐からの強い叱責に、ぴくりと彼の身体が一度震えた。おろおろとゴーレム技師二人へ、助けを乞うように頭部を向けるも……二人の表情も神妙なまま。変化した空気をようやく察して、おずおずとルノミは尋ねた。


「あ、あの……もしかして僕、マズいんですか……?」

「すぐに壊れるとか、おかしくなるとかは無い……と思う。でも長期的には……」

「も、もしかして……憑依型ゴーレムって欠陥品なんですか!? だから製造中止に……?」

「ルノミ君。不安になるのは分かるけど、まずはタチバナの説明を一通り聞こう。質問はその後だ。セイラン君も。いいね?」

「承知した」

「は、はい……」


 過去に作られ、現在は製造を終えた物……ルノミ的にはロマンを感じるのかもしれないが――大体こうした物は上位互換が誕生して廃れたか、製造・稼働が始まり実際に動かしてみてから、致命的な欠陥が見つかった話が多い。タチバナの重苦しい口ぶりからしても、何らかの事情は想像できた。

 グリジアの言葉で落ち着いた場に、ドワーフ技師が言葉を発する。


「『憑依型ゴーレム』……製造中止された機体だけど、ゴーレムが誕生した初期の頃から研究開発が進んでいた機体らしいわ。戦争終結後ぐらいには初期型が完成して……希望者が中に入り始めたみたい」

「どういう意味だいタチバナ? 中に入る?」

「このタイプのゴーレムはね……『身体の中に、生身の他種族の魂を移す』目的で製造されたみたい。わちき達の知っているゴーレムと、根本から発想が違うの」


 グリジアは意味が分からないらしい。今度は彼が視線を彷徨わせている。晴嵐もいまいちピンと来ない中、ルノミが(!!)と液晶頭部を表示させた。


「生身の肉体を捨てて、金属の身体に魂を移す器として作られた……ってコトぉ!?」

「そう。だから……ルノミが『元々ヒューマンだった』と主張しているのは、むしろ自然な事だった。憑依型に限って言えば、だけどね」

「……名称もぴったりじゃな」


 憑依とは『取りつく・乗り移る』という意味合いが強い。まさしく、生身の人間が金属の身体に乗り移るための器……それが『憑依型ゴーレム』か。これほどお似合いな名前もあるまい。しかしまだまだ疑問は尽きなかった。


「どうしてそんなゴーレムが……? 現在だったら、乗り移られる側のゴーレムが納得できない。倫理問題になるんじゃないか?」

「開発や実用が始まった時期は、ゴーレム人権運動中か手前みたい。だからそうした倫理問題が起きていない……」

「と言うより、それより手前じゃな。何せ人権が無い。って事は、モノや道具扱いだった時期な訳じゃから……ただの器に誰も配慮なんかしなかった」


『ゴーレム』はユニゾティアに最初から存在していた種族ではない。千年前の戦争の中で、欲深き者どもが持ち込んだのか、作り上げたのか……ともかく千年前の事変で登場した二次種族だ。生物じゃないからと、最初は種族として認められていなかった時代もある。魂を移す道具扱いも、許される時期があったのだろう。

 そんな古い時代に作られた機体、憑依型ゴーレム。全員が思案を巡らせる中、一番早く口を開いたのはルノミだった。

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