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終末から来た男  作者: 北田 龍一
第七章 聖歌公国・後編 ダンジョン編

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おや、ルノミのようすが……?

前回のあらすじ


悪魔の遺産の仮定を体験し、リリックはその後の世界に予測を立てていく。その商才に感心しつつも、悪魔の遺産を流通させる事は容認しがたい。向こうも同じ結論に至ったが……仮定を通して晴嵐を気に入ったらしく働かないかと誘ってくる。すべきことがあると断ったが、終わったら来てくれなんて言って、突然の面接の幕は降りた。

「……とまぁ、予想外な展開になってしまって……帰って来るのが遅れた。貰えたのも割引ではなく金券じゃったよ。思ったより安くならんかったわい。すまんな」


 おつかいを頼まれた晴嵐がゴーレム工房へ帰還したのは、すっかり夕暮れ時になってから。買い物の雑用を含めても、明らかに遅いと言わざるを得ない。それもこれも、突然の面接のせいである。タチバナは何とも言えない顔で、晴嵐から発注品の控えと調査依頼の結果が詰まった資料、そして雑貨類を受け取った。


「少し心配した。無事でよかった」

「悪いな。途中で連絡を入れるべきだったかもしれん」


 いきなりの音信不通は、誰だって不安になるものだ。些細な用事なのに、やたらと時間がかかっていれば猶更である。突然の持ち逃げやバックレ、事件に巻き込まれるなどなど、嫌な想像はしてしまうもの。素直な晴嵐の謝罪を受けて、タチバナは軽く首を振った。


「ん……気づかなかったかも。ずっと工房に籠ってたし」

「終わったのか? ルノミの改造手術」

「うん。せっかくだし見ていけば? わちきは内容を読んでおく」


 今日ダンジョンに潜れなかった理由は……同行者にして中身が地球人のゴーレム、ルノミが身体をいじられていたからだ。前回潜った時に装備したパーツの欠点を伝えた所、大胆な強化を施したいと『ロマン馬鹿』が炸裂。おつかいに行く前、事件性のある悲鳴を上げていたが、果たして今はどうなったのやら。タチバナが別室で資料を読みこむ中、手術室めいた部屋にお邪魔すれば、ルノミが無表情の液晶画面で、機械的な動作で立っていた。


「セイラン……さん……僕は……ナニカサレタようです……人間では……なくなってしまいました」

「ルノミ?」


 極端に感情を失った……古い合成音声のような抑揚が工房に響く。困惑しつつ隣を見れば、笑いをこらえる様に腹を押さえてグリジアが震えている。改造に成功したのだろうけど、何が何だか分からない。軽く頭を掻いてからツッコミを入れた。


「今のお前、最初から生身じゃないじゃろ……」

「こ、このネタも通じないんですか!?」

「あぁ、うん。すまない」

「そんな事よりルノミ君! 早速セイラン君に披露してくれたまえ!」


 ルノミの頭部液晶が灯り、目の形がポォン……と水色に輝く。まるでヒロイックなロボットが起動した時のよう。本人の意識が反映されたのだろうか……?

 両腕は分離飛行機能を備える前のサイズ、通常のゴーレム規格品に戻っている。まさかこの短期間で小型化に成功したのか? いや、そんな革命的な機構があるなら、最初から装備させているに違いない。彼の目線に気が付いたルノミが、くるりとその場で背中を向けた。


「じゃじゃーん!」


 見せびらかした背部には、ドでかい部品が増設されている。造形に見覚えがあるのは、以前装備していた大型の腕部パーツだからか。バックパックのように背負っているが、なるほど分離飛行させるなら……バカでかい腕として振り回すより、別部位に装備した方が取り回しが良いだろう。隣で技師のグリジアも満足げに頷いていた。


「分離飛行させる以上、破壊されるリスクは否定できない。この部位の破壊がそのまま腕部の機能不全に陥るのは、確かに致命的だ。だから通常の腕部とは別に背部に装着してみた! 収納部にカートリッジも四つ追加装備したから、乱用しなければこれで十分に持つだろう! さらにさらに! これだけじゃあ無いッ‼」


 技師の興奮に合わせて、ルノミが満面の笑みを液晶に浮かべる。駆動音と共に背中部分が動き出せば……巨大な腕部が背中からくるりと回って突き出し、腕を四本にして立っている。すべての指を自由自在に動かして見せて、二人ともご満悦だ。


「普段は格納しているけれど、必要なら腕部位マニュピレーターとして展開が可能! 四つの腕部で、各種作業から戦闘までこなせる汎用性を獲得ッ! 見た目は歪に見えるかもしれないが、実用性に寄せつつロマンも盛って見せたァッ‼」


 今日のグリジアはテンションが高い。いつもの調子に三倍増しでやかましいのは、自らの手で作り上げた傑作に酔っているのだろう。ルノミもルノミで通常の腕を腰に当てて、追加増設した分離飛行機能付きの腕部でガッツポーズ。四本の腕を完全に制御下に置いているらしく、改造した側もされた側もご満悦。あんなに悲鳴を上げていたのに、今は上機嫌で一緒にはしゃいでいた。


「通信進化した気分です! 今なら……霊長類最強の隣に立つことだって出来る気がする!」

「ふはは! 是非そうしてくれたまえ!」


 またしてもネタ発言。なのに、全く知らない筈のグリジアまでノリノリだ。やはりこの二人、変な方向で波長が合うらしい。晴嵐も辛うじて分かる内容だったので、珍しくツッコミを入れた。


「……タックルされてしまえ」

「やめて下さい! 死んでしまいます!」


 態度を一転させて、腕部で自分の身体を抱くルノミ。グリジアが急にどうしたのかと首を傾げて、晴嵐が珍しく悪意無しに笑った。

 ぎゃあぎゃあと騒ぐ男三人衆に……この集団の紅一点、タチバナが深刻な表情で歩いて来る。不器用な彼女の表情が、彼らの会話に入る機会を逸して戸惑っていた。

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