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夢の続き2

茶会の当日は、蒼も緊張気味にしていた。軍神も侍女も持たない蒼達のことを考えて、真那が軍神四人と侍女二人を貸してくれた。輿は人世に発注してどうにかこうにか形になるものを手に入れておいたし、着物も人世から高級品と言われるものを取り寄せてあった。人の頃に蓄えた金を持っていた蒼と維月は、人世からなら何とか物を購入して来ることが出来たのだ。

維月は、慣れない着物に手を通し、神世の着付けは今の人世とは違うと侍女達に手伝われてそれを着て、歩きにくいことこの上ない中、輿の前に立った。

「じゃあ蒼、行って来るわね。いろいろすっごく迷惑を掛けた真那にも、御礼を言っておいて。」

蒼は、心底心配そうにうなずいた。

「うん、言っておくよ。お礼に着物を数着贈ったら、喜んでくれてた。人世で買った、そんなにいいものじゃなかったけど、真那には有難いって言ってくれて。母さんも、頑張ってね。まあ、突っ込んだ話が無かったら大丈夫だよ。結構様になっているって、真那も言ってくれてたし。」

維月は、緊張気味に頷いた。

「そうね。そう思って、頑張って来るわ。なるべく、他の神様と接しないようにしながら隅の方で過ごして、時間になったら帰って来るから。心配しないで。」

蒼は、頷いたが、後悔していた。やっぱり、何としても断るべきだったんだろうか。攻め込むっていっても、ここには何もないんだし、放って置いてくれたかもしれないのに。

しかし、維月は裾を踏んでしまわないように慎重に着物を持ち上げて、輿へと乗り込み、借り受けた侍女達と共に、借り受けた軍神達に運ばれて、鳥の宮へと飛び立って行ったのだった。


維心は、不必要に侍女達に飾り立てられて、機嫌を悪くしていた。いくら見合いの茶会とは言っても、自分はそれ目的ではない。それなのに、なぜにこうして良い着物を着る必要がある。

維心がその疑問を洪にぶつけると、洪は答えた。

「王、それ相応の衣装というものがございます。このような席に参るのに、普段着で来る王など一人もおらぬのでありまする。まして、今日は一応見合いということになっておるので、皆良い着物を着て参ります。それなのに、龍王がみすぼらしい着物姿では、宮の沽券に関わるのでございます。」

洪が言うことには、一理あった。仕方なく、維心はその姿のまま、鳥の宮へと飛び立って行った…洪は、偶然でもいいから、あの王の目に留まるような女が居れば良いのにと、密かに期待して見送ったのだった。


鳥の宮は、大変な騒ぎになっていた。

何しろ、思いつく限りの宮の女神達が呼ばれていたのだ。そして、それにそこそこの格の皇子や王も混じって、それは大変なことになっていた。これに、もしも格の低い宮の王達まで加えていたら、大変なことになっていた、と炎嘉は少しホッとしていた。つまりは、女は格下であろうが何であろうが呼ばれているが、王や皇子はそれなりの格でなければ呼ばなかったので、女の方が絶対的に多かったのだ。

炎嘉は、維心のことも気になったが、謁見の間で挨拶を受ける責務があるので、そこの玉座を離れるわけにもいかず、イライラと空を見上げた。本当に来るのか、あの堅物は。

もう何人目かの皇女に愛想良く会釈を返して見送った後、侍従が告げた。

「龍王、維心様のお着きでございます。」

炎嘉は、ホッと胸を撫で下ろした。良かった、時間ぎりぎりだが、来たか。

しかし、入って来た維心は仏頂面で炎嘉を睨むように見上げた。そして、言った。

「なんぞこの混雑は。多人数を受け入れるなら、もう少し考えるが良いぞ、炎嘉。到着口はえらいことになっておったわ。ま、我には皆道を開けよるから、すんなり降りたがの。他の輿は、まだ上空で待っておる状態であったぞ。」

まだ居るのか。

炎嘉は、それを聞いてうんざりしたが、維心に来い来いと手招きをした。

「とにかくは、良い時に来たぞ、維心。今回は皆、こちらへ一度挨拶に来てからあちらへ通すことになっておるのだ。さすれば、月とも必ず対面できよう?月は、まだ来ておらぬのだ。」

維心は、面倒そうな顔をしながらも、炎嘉の方へと歩いて来た。

「ならば、主はまだかなりの数と対面せねばならぬぞ。到着口にも降りられぬほどの数だと、今申したではないか。」

炎嘉は、玉座にそっくり返ってうんざりしたように頷いた。

「仕方がない。しかし、その中に月が居る。月と会うた後は、別に挨拶など端折っても良いわ。」

維心は呆れたような顔をしたが、何も言わずに炎嘉の玉座の横まで登った。炎嘉は、裾の仕切り布の方を指した。

「そこの椅子で、見ておれば良い。月が来たら、しっかりその波動を読むのだぞ。」

維心は、真剣な顔で頷くと、言われた通りに仕切り布の間に入り、そこにある椅子へと腰掛けた。それを見てから、炎嘉は側の侍従に頷き掛けた。侍従は、言った。

「では、次に牧様の皇女、鈴様…」

侍従の声が響き渡る。

炎嘉は、月はまだかとそればかりを考えていて、他の賓客たちの挨拶など上の空だった。


維月は、その大きくて白い、明るい宮へと到着していた。

どう見ても、これは城だ。城でも、こんなに大きなものは見たことがなかった。その上、とても美しい造りだった。

上空でも、かなりの時間待たされた。あまりに数が多いため、到着口に下りる順番を待たねばならないのだと軍神達に聞いた。しかし、その待っている間にも、たくさんの軍神を連れた物凄く大きな気の一団が一瞬にして通り過ぎ、皆、何の疑問もないままに、その一団には道を開けて通して、後から来たにも関わらず、その一団は先に降りて言った。侍女達が、身を震わせて言うには、あれは龍だという。龍王は、気に入らぬ者は女でも容赦なく斬って捨てる残虐な王なのだそうだ。なので、皆絶対に勘気を被らないように、ああして道を開けるのだと聞いた。

維月が、そんなことにも珍しくていちいち感心していると、そのうちに順番が回って来て、軍神達は輿を到着口へと下ろしてくれた。

維月は、降り立ったその宮の、明るい美しさに目がくらみそうだった。高い天井に、採光を一番に考えて作ったのだろう、ガラスがたくさんはまっていて、それは美しかった。侍女達も、こんな格上の宮へ来るのは初めてだと言って、維月と同じように目を輝かせて回りを見ている。すると、侍従の一人が走り寄って来て、維月に頭を下げた。

「お名をお聞きしておりまする。」

維月は、慌てて扇を上げて顔を隠しながら、答えた。

「はい。私は、これより北東の月の降りる宮から参りました、維月と申します。」

真那からは、神世で自分達の屋敷がそう呼ばれていると聞いて来たのだ。相手の侍従は、それを聞くととても驚いた顔をした。そして、急いで言った。

「では、こちらへ。皆様、我が王にご挨拶をなさっておいででございます。」

維月は、頷いた。だが、どうしてこの侍従がそんなに急いでいるのか、維月には分からなかった。だが、言われるままに侍女達二人を連れて、維月は侍従について歩いて行ったのだった。

宮の中は、さすがに鳥の宮だけあって、天井付近には止まり木のような、空中ブランコのような、そんなものがあった。

鳥に限らず、みんな、飛ぶのが当然なんだものね…。

維月はそう思いながら、俄かに緊張した。そういえば、宮の中では飛べないと移動できない可能性がある、と真那が…。

そう思った矢先、目の前の侍従が、どう見ても突き当たりに向かって歩いていて、スッと浮き上がった。維月は、仰天した。もしかして、この上の回廊には、飛んで行くしかないってこと?!

付いて来ていた侍女達も、飛ぼうと浮き上がって、ふと維月を見て慌てて降りて来た。

「維月様、そういえばまだ、飛ぶのは無理だとおっしゃっておられましたか?」

侍女の一人が、心配そうに聞いて来る。維月は、頷いた。

「ええ。だって、人だったから。どうしたら良いかしら。」

維月が立ち往生しているのをやっと気取った侍従が、慌てて降りて来た。そして、困ったように維月を見た。

「維月様?」

維月は、恥を承知で言った。

「あの、飛べませぬの。侍女達は飛べますけれど、私は無理ですわ。回り道など、ありませぬかしら。」

侍従は、驚いた顔をした。飛べない神に会ったのは、初めてなのだろう。

「はい…あの、回り道になりまするが、お庭の方から抜ける道がございます。坂道になりますが、お足元は大丈夫でしょうか?」

維月は、頷いた。体力には自信があるのだ。

「ええ、大丈夫。そちらでお願いします。」

侍従は、戸惑いながらも、そちらの道を案内し始めた。これが親兄弟なら運べたのだが、王族の女に簡単に触れることは、許されていないのだ。

そうして、庭を抜けてやっと上の回廊に出た維月達は、本当にやっとの思いで謁見の間の大きな戸の前に立ったのだった。

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