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約束

帝羽は、瑠維のお守りをよく命じられた。

維心が維月と一緒に居たいためだが、瑠維はどんどんと帝羽に馴染んで行った。

帝羽も、素直で実は快活な瑠維に、他の女神にはない感じを受けて、共に居るのが癒しになった。瑠維は快活だが、面倒なほどに己を押し付ける事もなく、何しろ皇女として厳しく育てられたので、控えめに帝羽を立てた。実際は、鷹の皇子とはいえ龍の臣下に下った帝羽と瑠維では、主従関係になるにも関わらず、瑠維はそのような様子は見せなかった。あくまで帝羽とは、対等で男であるから尊重している、といった感じだった。

なので、命じるということもなく、帝羽は居心地が良かったのだ。

今日も、二人は湖の辺りを散策して話に花を咲かせていた。


美加は、そんな様子を遠く見ていた。祖父の蒼からは、帝羽は任務中なのだから邪魔をするな、邪魔をしたら父に知らせる、と言われていた。なので、美加にはどうしようもなかった。

面白くない美加は、前世の祖母に当たる維月に会いに来ていた。祖母は、とても穏やかで美しい月だった。穏やかといっても、十六夜が言うには年月を経て落ち着いただけで、とても気が強く快活なのだと聞いていた。美加は私に似たのね、と笑う祖母に、美加はいつも癒されていた。

今日は、側に龍王の維心も座っている。美加は、その前世の祖父は苦手だった。父より大きく強大な気と威厳は、もたもたと礼儀も知らずに居たら一喝されてしまうような緊張感があった。どうしてこの祖父が、祖母の夫なのか時々分からなかった。

維月の隣に座り、その手の指輪に無意識に触れていると、維月は、笑って言った。

「まあ美加、また指輪なの?気になるかしら。」

美加は、無意識にそれに触れていたのに気付き、ハッとして言った。

「はい、お祖母様。なぜにずっとこれをなさっておいでなのかなあと。」

何の装飾もないのに。

美加が思っていると、維月は微笑んだ。

「これはね、維心様が前世、まだ人としての記憶から、人の習慣から抜けきれない私のために、人世で手に入れて、贈って下さったものなの。いつまでも共に、とね。だから、同じ物を維心様も身に付けていらっしゃるわ。」

それを聞いた美加は、維心の手を見た。その言葉通り、その手には同じ指輪が挿されてあった。

維月は続けた。

「これは、私達の愛の証。転生してもお互いに握り締めて、必ず共にと約して参った証なの。代わりなどないわ。私はこれを、生涯つけ続けるつもりよ。もちろん、細かい手作業をする時などは、傷をつけてはいけないから外していたりはするけれど。」

維心が、穏やかに微笑んで頷いた。

「そう。我らはこれで繋がっておるのだ。離れて居てもの。」

二人は、微笑み合った。それを見た美加は、とても羨ましくなった。お互いに、そんなに大切だと思えるなんて。それだけ、想い合っているなんて…。

維月は、じっと美加が自分達を見ているので、少し恥ずかしくなった。孫の前で、のろけるようなことを言ってしまったわ。

「あの…そうだわ、美加。」維月は、話題を変えようと言った。「明維も好きな、お菓子を作りましょう。西の砦へ送ってあげたいと思っていたの。一緒に来る?」

美加は、ぱあっと明るい顔をした。

「まあ、是非!お祖母様のお菓子は、我もとっても好きですの。」

維月は、ふふと笑った。

「私の子供は、皆好きなのよ。もちろん明維も好きだから、あなたに小さな頃から食べさせておったのだと聞いているわ。」

維心が、横から言った。

「ならば、瑠維も共に作ればどうか?」維心は、微笑んだ。「あれも、主の菓子が好きであろう。作り方を知りたいと申しておったからの。龍の宮では、台番所へ入ることを、乳母達が許さぬから出来なかったのだからの。」

維月は、微笑んだ。

「まあ、そうですわね。こちらでは、うるさくそのようなことを言う者は居らぬのだし。」

それを聞いて、美加は一瞬表情を曇らせた。あの子も一緒に…。

維月は、心配そうに美加の顔を覗き込んだ。

「美加?瑠維とは、仲良くしてくれてはおらぬの?」

本当に案じているような顔だ。美加は、無理に笑顔を作ると、首を振った。

「まだ、話す機会がないだけですわ。あの、今から?」

維月は、維心を顔を見合わせた。

「そうね…明日。今は、瑠維も北の庭の方にある、将維の対を見せてもらっておる頃だろうから。明日の朝、台番所へ来てくれる?」

美加は、頷いた。

「ええ。では、瑠維殿には我が知らせておきまするわ。」

維月は、微笑んで美加を見た。

「まあ、ありがとう。よろしくね。」

美加は、機嫌よくそこを出て行った。それを見送りながら、維心が維月に寄って来て肩を抱いた。

「余計な心配だったか。あれは瑠維と仲良うしたいようではないか?」

維月は、頷いた。

「そうですわね。こちらの取り越し苦労でありましたかしら。まあ、歳も近いのですし。良い友になればよろしいこと。」

そうして、二人は小さくなって行く美加の背を見送った。


美加は、瑠維を探して北の庭の端にある、将維の対へと入った。

将維は、維心にそっくりで気難しいが、美加に特別辛く当たったりしないので、嫌いではなかった。

しかし、父の明維はあまり将維が好きではないらしい。昔はよく兄弟ケンカをしたのだと、父から聞いていた。

美加がそこへ入って行くと、ちょうど帝羽と瑠維が、将維に見送られながら出て来たところだった。将維が、美加に気付いて顔を向けた。

「美加?どうしたのだ、このような所へ。我の対へなど、滅多に来ないであろうが。」

美加は、瑠維を見た。瑠維は、実は美加は苦手だった。いつも話し掛けようとしても、美加はくるりとあちらを向いて行ってしまう。挨拶をしても、誰も見ていない時に返してくれたことはまだ一度もなかった。

だが、礼儀なので、美加はスッと頭を下げた。

「ごきげんよう、美加殿。」

美加は、少し緊張気味に身を震わせたが、硬い笑顔を浮かべて軽く会釈した。

「ごきげんよう。」

それを見た帝羽は、驚いた。このように挨拶をする様を見るのは、始め蒼様のところで見て以来だ。美加は、ふふと笑って帝羽の腕を取った。

「帝羽、もうお仕事は終わった?」

帝羽は、丁重に身を退きながら、首を振った。

「いいえ。また瑠維様をお送りせねばなりませぬから。」

将維が、眉を寄せた。

「美加、人前でそのような。蒼からも明維からも聞いておるが、我は接することはないし、何も言わなんだだけぞ。しかし、我の対で粗相は許さぬ。主はまだ未婚の女であるのだぞ?おとなしゅうせよ。」

美加は、小さく息をついて不満げな顔をした。しかし、すぐに表情を変えると、言った。

「お祖母様から、伝言でこちらへ来たのです。」

将維は、眉を跳ね上げた。

「維月から?何ぞ。」

美加は、首を振った。

「将維叔父様にではありませぬ。」と、瑠維を見て、とても人懐っこく微笑んだ。「瑠維殿。明日、台番所で共にお菓子を作りましょうと。お祖母様からですわ。」

瑠維は、急に美加が友好的に話し掛けて来たので戸惑った顔をしたが、嬉しそうに答えた。

「まあ。龍の宮ではならぬと言われて、お母様とご一緒出来ませんでしたの…。とても嬉しいわ。」

美加は、頷いて微笑んだ。

「明日の、朝に。こちらの台番所で、お会いしましょう。」

美加は、そう言うと頭を下げて将維と帝羽に挨拶をし、くるりと踵を返して、そこを出て行った。将維は、怪訝な顔をした。

「菓子を?食物を作るというと、あれほどに機嫌が良うなるものか。分からぬの。」

しかし、瑠維が言った。

「でも、それで美加殿と仲良うなれたら良いなと思いまする。これまで、あまり話せずにいて、お互いに誤解があるのではないかと思いまするの…。せっかくに、親族であるのですから。」

将維は、瑠維を見て苦笑した。

「主は、何事にも素直過ぎるのだ。まあ、仕方がないかの。箱入り娘であるからな。」と、帝羽を見た。「帝羽、これを頼むぞ。何事にも、疑うということを知らぬから、うまく付き合いというものが出来るのか分からぬし。」

帝羽は、将維に頭を下げた。

「は。我に出来ることがありましたら、そのように。」

将維は、頷いた。

「では、これで。瑠維を部屋まで送ってやってくれ。」

帝羽は、将維にまた頭を下げると、瑠維の手を取って、微笑み合いながら帰って行ったのだった。


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