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第11話.お父さんが……




「おい、どういうことなんだ」


 ミウはその男の怒鳴り声で気が付きました。目は閉じたまま……自分が横になっていることと、近くにその声の主、兄のトジが居ることはすぐにわかりました。でも、それ以上のこと……ここがどこなのか、なんで寝ているのか、あれからどれくらいたったのか、そしてなぜ昔のことを夢で見ていたのか、わからないまま横になっていました。


「トジ君、ちょっと落ち着きたまえ」


「放せ、先生!」


「お兄ちゃん、落ち着いて」


 他に、先生と呼ばれる男の人とラーセも居ることも分かりました。ラーセが珍しく大きな声をあげています。トジの乱暴な言葉は相変わらずです。


 ミウはほんの少しまぶたを開けてみました。思った以上に眩しく感じたので、その薄目のまま少し待つことにしました。


「これが落ち着いてられるか! 連絡の一本ぐらいできなかったのかよ!」


「トジ君、気持ちは分かるがそれは無理だったんだよ」


 興奮しているトジですが、少し泣きそうな声にも聞こえました。それを優しくなだめる先生の声はとても冷静に感じました。


 まぶたの外の明るさに慣れてきたミウは、ゆっくり目を開けてみました。すると、いつか見たあまり綺麗でない木に白い塗料を塗っただけの天井がそこにはありました。


「えっ! そんなっ」


 その瞬間ミウは飛起きました。そうです、見たことのある、病院の天井……あの時の天井と同じだったからです。


「うわっ! な、なんだ……、お! ミウ。気がついたか」


 急に飛び起きたミウに驚いたのはトジです。トジ以外は驚いていないようです。興奮していたトジ以外は、意識を取り戻したミウが少し動いていたのを見ていたのです。


「お姉ちゃん、大丈夫?」


 ラーセはとても落ち着いた表情でミウに声をかけました。トジもまだ興奮していますが、大きく深呼吸し、少しずつ落ち着きを取り戻しつつあるようです。


 ミウが周りを見渡すと、やっぱり思った通りの知っている病室でした。しかし、トジとラーセの様子を見る限り、ミウが想像してしまっていた状況とはちょっと違うようです。まず、冷静に自分の姿をみました。エブロンをしたまま……。夕食の準備をしていた時の姿のままです。


「あ、あの、一体、どうなってるんですか?」


「ははは。ミウ。心配かけたな。大丈夫だ。腰と足と腕をやっただけだ」


 ミウの質問に答えてくれたのは、隣のベッド、ちょうど顔がトジに隠れて見えない位置に寝ていた父でした。


「お……、お父さん!」


 ミウは慌ててベッドから飛び降り父の元に駆け寄りました。今さっき聞こえた元気な声とは裏腹に、父の体は、お世辞にも真っ白とはいえない少し汚れた包帯で大部分が包まれていました。


「お父さん……」


「大丈夫だ」


 父は心配の表情をするミウに優しく微笑み返します。


「うん」


 ミウもがんばって笑顔を作ろうとしますが、うまくいきません。極力その包帯には触れないように、父の顔だけにミウは抱きつきました。安堵の涙と悲しみの涙を流しながら……。


「お、お母さんの時を思い出しちゃって……」


「嫌な想像をさせてしまったようだな。……大丈夫、お父さんはそう簡単には逝かんよ、ははは」


 ちょっと痛々しい笑いですが、声には自信と張りがありました。


 しばらくし、ミウが離れた後、今度はラーセがミウのまねをして顔に抱きつきました。ラーセはどうしていいかわからずにいたようです。


 続いて、トジは照れ笑いしながら父のおでこにゲンコツを置きました。




 医師の話では、昨晩、父は満員の汽車から押し出されたということです。急ブレーキの瞬間、車内では乗客が将棋倒しのようになり、ドアの近くにいた父が外れた扉と共に外に……、そして今日の昼、強い太陽の陽射しのお蔭で解けた雪の中に倒れているのを通り掛かった人が見つけたそうです。


「今日のように太陽が煌々と出ていなかったら、まだ発見されていなかったかも知れないな、あっはっは」


 先生と呼ばれていた医師はそんな軽いノリで状況を教えてくれました。ミウ達は苦笑いするしかありません。そして医師はこう続けました。


「ま、運が良かったのか、悪かったのか分からん人だね、ジルさんは……」


 医師の言う通りでした。その時、汽車の中では圧死した人もいたらしいですから。汽車が急ブレーキをかけた原因はまだ分かっていません。


 ラーセが抱きついた時、父は笑っていましたが、やはり疲れていたのでしょう。いつの間にかラーセの手を握ったまま眠っていました。医師はトジとミウを呼び、そのまま病室を離れ、他に誰もいない少し暗いロビーへと移動しました。そして二人を背もたれの無いベンチのようなイスに座らせると、自分も向かいに座りました。


「とにかく、命に別状はない、これはわしが保証します」


 白衣を着た白ひげの医師はまだそれほど歳は行っていませんが、自分のことを『わし』と呼ぶのは貫禄をつけるためかも知れません。


「よかった……」


 ミウはホッとし、トジの顔を見ました。トジもホッとした顔をしていました。その顔を見ると一段と安堵感を得ることができました。しかし、医師の話は続きました。


「ただ……」


 医師はそこまで言うと、初めて渋い顔をしました。


「元のように元気に歩き回れる様になるかは、わかりません」


「な、なに!!」


「そんな」


 思わぬ医師の報告でした。


「少なくとも、三ヶ月は起き上がれないでしょう。その後半年程リハビリ……」


「ちょ、ちょっとまってくれ。少なくとも三ヶ月?! じゃぁ……」


 トジは父の容態ももちろん心配ながら、別のことにも気が付いたようです。


 医師は再びニッコリしました。


「わしは安心していますよ。今年のクリスマスは、トジ君がおりますからね」


 それを聞いてトジは立ち上がりました。


「じょ、冗談じゃない!」




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